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やりたいことだけをやっていたら、それが仕事になっていた【5/5】 【ワーホリ、その後#005】


※本記事は全5回の第5回です。【 第1回第2回第3回第4回

■海外生活は、いまの幸せの起点

もとさんの近況がひととおりわかったところで、3年前から、働き方や生き方への考え方に変化はなかったのか聞いてみた

「もう、なんにも変わってない。ずうっと変わってないわ」

その答えにほっとする。前回のインタビューの中で「仕事観は、ワーホリに行ってがらりと変わった」と答えていたもとさん。日本へ帰国後も、その“変わったまま”の価値観が続いているということだ。

いまも、好きなことだけ、やっている?

「そうだね、いまだに好きだね、この仕事。整体業はもう今年で8年目になるけど、ずっと好きだねぇ。ありがたいよね。サラリーマン時代は、朝起きるのがつらくてしょうがなかったもの。行きたくなーい!みたいなね。それがないのが幸せ。朝起きたら、今日も楽しく、みたいな感覚になれることがもう、幸せよ。朝が苦じゃない。さんざん苦だったから、サラリーマン時代は(笑)」

いまのもとさんからは想像しづらいけれど、サラリーマン時代はよほど会社に行きたくなかったらしい。

「もうほんと、行きたくなかった。どうやって逃げ出そうかって考えてたもんね(笑)。だから幸せなんだろうね、本当にいまね」

いま、その幸せな状態にあることにはやっぱり、ワーホリなどの海外生活も影響している、といえるだろうか。

「してるしてる。めちゃめちゃ大きいよ。海外生活があったからこそのいまだよね。海外生活がなかったら、なんにも始まってないから。行ってよかった。27歳のときの決断は、間違ってなかったなと。行ってなかったらちょっと、どうなってたかねぇ。……もうちょっと朝起きるの、つらかったんじゃない(笑)?

■とりあえず一回、からっぽな自分になってみる

たとえば、この記事を読んでくれた人のなかに、サラリーマン時代のもとさんみたいに、朝起きるのがつらい、もうなんか変えたい、みたいな人がいたら、いまならなんて声をかけるだろう。

「ねぇ……(じっと考える)。踏み出せって、言っちゃったらもう、簡単だけどさぁ。もっと、人生面白くできるよ?って、ねえ?

うん、うんうん。

「そんなに、型にはまってどうすんのって思うわけよ。一回、外してみ?って」

一回外してみたら、どうなる?

「一回はずしてみたら、もう、水場の栓を抜いたときみたいに、ブシャーーッ!てなんかでていくよ(笑)。抜ける抜ける、まず抜ける。水が抜けて、その空の容器になんか入ってくるよ。その感じ」

おおお、なんか爽快なイメージだ。

「とりあえず、1回、栓を抜けと。きっといまは、ストレスだったり、プライドだったりいろんなものを、ひとつのバケツの中に一緒に溜め込んじゃってると思うんだよね。一回栓抜いたら、一気にドバーって抜けて、ふわぁって開放的になって。それで、空洞なところに、新たなものが勝手に入ってくると思うんよ」

栓を抜く、確かに。

違う文化圏に飛び込むと、一度、からっぽになる、というのはあると思う。

いままで自分を構成していた、自分だと思っていたものが、ゼロになる感覚。どこの大学を出たとか、どこの企業で働いているとか、日本ではまずそれだけでラベリングされるようなことも、なんの意味も持たなくなる。

自分でも気づかないうちにたくさん貼られていた「ラベル」がぽろぽろとはがれ落ちて、世間体なんてものがなくなったとき、ゼロの自分自身と向き合うことになるのだ。

「そうなんだよ。もうほんとね、タスマニアに行って、農場で1日ブルーベリーピッキングをしていたとき、ふと思ったの。俺、今28歳で、同期とかみんな会社員でバリバリ働いているときに、俺はひたすらブルーベリーピッキングしてるよ!って。そう思ったら、楽しくなってきちゃったのよ。焦る、とかじゃなかったんだよね。すげえ、なんじゃこの人生、ってわくわくして。ああ、なんでもできる、もうはっちゃけて生きちゃえ、って。あの感じを忘れないね」

当時を思い出したかのように、楽しそうに話す。日本で大学を出て、大企業に就職して……。溜め込んできたたくさんのストレスもプライドも、一度さっぱりときれいに抜けて、その後の彼の人生はみなさんが読んできたとおりだ。

「だからそこ、スポン!って抜いちゃえと。よく『もう30歳だし、今からゼロにするのこわい』とか聞くけどさ。じゃあ1回、自分が40歳になったときを想像してよ、と。40歳から30歳に戻ってみたら、もうめっちゃ若いって思うはずなのよ。それならいけるでしょ、って」

たしかに、年齢やお金が足かせになるというのはほとんどが思い込みだ。お金は行きの渡航費さえなんとか作り出せばあとは現地で働いてもいいし、年齢に関していえば、いざ外国に降り立ってみると、30歳前後で海外を転々としているひとなんて驚くほどありふれていることに気づく。

それに、いつだって、今の自分がこれからの人生のなかで一番若い。

「身体的に、たとえばスポーツ選手になりたいとかは別だけれど、そういうのを除けば、できないことないよね。80歳で大学卒業したおばあちゃんだっているんだしさ。よく“Age is just a number.(年齢は単なる数字)”っていうけど。まさにそうだと思うよ」

■ 今も常に、つぎは何をはっちゃけようか考えてる

いいねぇ、心強いメッセージをありがとう、というと、「なんか偉そうなこと言っちゃってるけど」と笑う。

いやいや、30歳を目前に飛び込んだ海外生活を転機に、その後の人生をこれだけ謳歌しているもとさんだからこそ、その言葉にはとても説得力がある。いまのいきいきとした表情が、何よりの証拠だ。

そして、なにより、海外での経験が一時的な非日常体験で終わらず、現在の仕事までずっと続いているのが、もとさんのすごいところ。一回栓を抜いて、そこに満たされた「楽しい」もので、彼はわくわくしつづけているように思える。まさに、海外生活期間があっての、いま。

「だからね、今も常に、何をはっちゃけようか考えてるから。何かおかしい、ふざけたことやりたいなって思ってる」

そんなことをまた真面目顔で真剣に語るから、今後も目が離せない。

サッカースクールが軌道にのれば、専任のスタッフさんを入れてさらにできることを広げたい。整体業のほうでも、今教えている生徒さんたちともしかしたら2店舗目、みたいな展開もあるかもしれない。「まだまだ、やりたいことはいっぱいある」のだそうだ。

前回のインタビューから、3年。

年齢を重ねている分、守りに入っていたり、落ち着きすぎてしまったりしていることだって十分ありえると思ったが、もとさんの場合はますます「おさまりきらない感じ」になっている。

好きなことを本当に追求し続けているからこその、その感じがとてもいい。

「大丈夫かな、まとまったかな、話?」

追加インタビューの終わり、そんなふうに聞いてきたもとさんに、わたしは笑いながら「うん、おさまりきらない感じ」と答えておいた。

(おわり)

* * *

もとさんのインタビューは以上です。

全5回にわたる超ロングインタビューにお付き合いいただき、ほんとうに、ほんとうにありがとうございました。

もし、「海外とか行ってみたいけどさぁ」「なんか、変えたいんだけどね」なんて言っている友人や後輩やいろいろな知り合いがいたら、ふと、こんな生き方をしているひともいるみたいよ、と、マガジンリンクを紹介してもらえたら嬉しいです。

人生はもっと自由でいい。毎日会社に身を捧げていてなんだか違う気がする、最近わくわくしていない、日本の就活になんだか違和感がある、もっと他の生き方もあるんじゃないか。そんなだれかの背中を少しでも押せたなら、それほど嬉しいことはありません。

『ワーホリ、その後』。次回はまた、がらりと違う人生をご紹介する予定です。優劣なんてなにもなくて、あるのは違いだけ。多様性こそが魅力なり。

それでは、次回もおたのしみに。

追加インタビューや編集作業が終わるまで、しばらくの間は通常投稿に戻る予定です。変わらず、雑多にゆきます。どうぞ、ゆるやかにお待ちいただけたら嬉しいです。

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余談:

ちなみに『ワーホリ、その後』の記事構成は、「長過ぎる記事は読まれない」、「書き手が出すぎるインタビューは嫌われる」なんて定石にささやかに反抗してみる、あまのじゃく筆者の試みでもありました。

読んでくださった方、どうだったのだろう。書き手視点がちょいちょい出てくるのは、面白かったですか? それともやっぱりうざかったですか(笑)?このあたりのことも、そのうち書いてみたいなぁと思っています。

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※『ワーホリ、その後』を始めた理由はこちら

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