耳鼻科ワンダーワールド
こどものころ「恐怖!」と感じていたことのひとつに「耳鼻科で鼻に金属の棒をつっこまれる」があった。
ほらあの、先が綿棒みたいになっている、銀色をした棒。しかも意外と太い。ああアレね、と思うひとは耳鼻科通いの同志だと思う。
初めてじゃないのに、いや初めてじゃないからこそ。耳鼻科の先生がいたって普通の表情で、金属棒を手に自分の顔へと接近してくるその瞬間が、毎度こわくてこわくてしかたがなかった。
「くる!」と思ったらもう、容赦なく「ズブッ」とくる。それで鼻の奥がガハッとなる。視界の中でぼんやりと、自分の鼻に金属棒がささってる。なにこれ、どういう状態。
一瞬で終わるような処置のときはまだいいが、場合によっては「数分間、その金属棒が鼻に何本かささったまま放置される」ときもあったと記憶している(もちろん、そういう治療として)。
自分自身がその状態にあるときも、身動きできずなんともいえない気分を味わうのだけれど、他のひとが鼻から金属棒を突き出したまま放置されている構図を見るのもまた、なんともいえない心持ちになった。
なるべく心を無にしないといけない。この光景はこの場所での日常なのだ。なにもおかしくなどない。
そんな表現を小学生のわたしはできなかっただろうけれど、たぶん感覚としてはそんなようなことを、知らず覚えてきた。たぶん。
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