行き止まりの街
最近、家の周りがずっと工事をしている。
道路は大々的に掘り返され、歩道は通れない。
周囲の住宅地も建て替えラッシュなのか、一軒家は次々と解体されては新たな家が出来ていく。
私が住む街は少し前に再開発が決まり、本格的な工事が始まった。
迂回、迂回、また迂回。
日中はずっと何かしらの工事の音が鳴り響いている。
今まで道だった場所が道ではなくなり、移動さえ困難になっている。
迂回、迂回、ここも通れんのかい。
耳障りで不快な工事は、なんと数年は続くらしい。
私は早々に絶望した。
この街は、
私にとって行き止まりの街になってしまった。
十年以上前にも実は、似たような経験があった。
この頃私は大阪に住んでいて、自分で言うのもなんだが超いいかんじの毎日を送っていた。
懐古厨的な昔話になるが、一人暮らしはすこぶる快適。
電車を乗り継いで職場のある西梅田へ通う。
ハービスENTを抜け、職場オフィスのあるビルに着くと社員証をピッとしてパッとドアが開く。
「なんかしらんけどかっこええやん」という感じだった。まるでアホの感想である。
職場には大きな窓があり、日の光がよく入り、
窓からは梅田スカイビルが見えた。
ここから、空をぼーっとながめるのが大好きだった。
仕事は繁忙期以外は嘘みたいに暇…オエッフン。えー、ゆとりある職場で、限りなくオフホワイトに近いホワイトでホワイティな職場だった。梅田だけに。
お昼は節約のため自作弁当が多かったが、たまに堂島アバンザまで足を伸ばしてSUBWAYに行く。
ハニーオーツをトーストしてもらい、野菜多めでオーダーする。好物はエビアボカドですよろしく。
気分が良い日や天気が良い日は、歩いて帰るのも好きだった。
大阪は川と堀が多く、色々な景色が楽しめる。ある日は中之島ででっかいアヒルを見たり、ある日は本町のオフィス街を意気揚々と歩いた。
好きなバンドが新譜を出せば、マルビル(東京の丸ビルではない)のタワレコへ行く。友達と飲むとなれば、大阪駅前ビルのしぶい居酒屋へ行く。
ダイコクドラッグ、チケットショップ、おばちゃん達がそっと腰掛けて店番しているアリバイ横丁。
大阪は何でもありで、自由も、人情も、何でもある場所だった。
しかし人生は、山あり谷あり。
幸せな時間は長くは続かない。
この頃の大阪も、工事が増えていった。
通れる道が日々変わり、通行止めも増えていった。
大阪中央郵便局が取り壊され、梅三小路は閉鎖になった。
大阪駅周辺の再開発工事だった。
日々めまぐるしく変わるこの大規模な工事が、私はなんかいやだった。
再開発工事は、少し待っていればいい感じになる。
JR大阪駅は大阪ステーションシティとかいうかっこいい感じになり、なんかでっかい屋根が設置され、伊勢丹とルクアなるものも開業した。
グランフロント開業あたりからは、もう記憶がない。
その間、まるで天国のようだった職場も業務統合により消滅した。
あの大きな窓から、空を見ることができなくなってしまった。
その後結婚して今の場所に移り住んだのだけれど、梅田周辺の変化を追える余裕もなく、たまに見るニュースでその変貌ぶりに感動している。
私がいる間にこの空間があったら…と思うけれど、そんな不可逆な奇跡は訪れない。
かといって、私があの頃から今まで大阪に居続けるという選択肢も、きっとなかった。なので、センチメンタルに例えると、“もう触れないかつての恋人”ってくらいの距離を感じる。
うん。
何が言いたいかというと、今いる場所で工事が増えてくる時は、人生の見直し期間のような気がしている。
思い返せば、地元にいる時もそうだった。
工事が気にならず、再開発後の街を楽しみに待てるなら、そこはきっと今いる自分の居場所なのだと思う。
でも違和感があるなら、おそらく自分の中でも何かしらの大規模な工事が起きている。
私はまた、あの日のようにSUBWAYが食べたい。
プロントに行きたい。行きつけのうどん屋とか欲しい。
しかし、今いる街にはそれがない。
私が必要としているものが揃わない。
何故ならここは、私にとって行き止まりの街だからだ。
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