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河童のねがい
子どものころ、カッパと呼ばれるほど川で泳ぐのが好きだった。
許可された水泳場までは、家から5分ほど。
溶けるアスファルトの上を、ゴム草履の音をぴたぴたさせながら歩いて行った。
監視当番のおばさん(誰かのお母さん)が来るまでに体操を済ませ、姿が見えたとたん「入っていいー?」と泳ぎ始める。
夏休みはお盆と増水時を除く30日ほど、午後1時から5時まで、泳いで遊びまくった。
少し高い岩から投げた浮き輪に向かって飛び込む。
綺麗な石を深いところに投げて、それを拾ってくる。
唇の両端が青くなったら水から上がって、川原で遊ぶ。
(清流は水が冷たいから…)
どこにどんな岩があって、自分の背と水深との感じも全部わかっていた。
夫もそんな環境で育ったので、子どもたちにも泳げるようになってほしいと、スイミングスクールに通わせた。
2人とも水を嫌がることなく、幼稚園くらいからは家族で川へ行くようになった。
飼っていた犬まで川を見ると興奮するヤツだった。
そんなカッパ一家も、遊ぶのはいつも同じフィールドだった。
その方が安心して遊べるから。
海に行った時、地元の小学生を見て、海には海の遊び方があるんだと驚いたものだ。
自由に遊んでいるようだけれど、ちゃんとわかって遊んでいるのだ。
川でボールやサンダルを流されても、諦める。
ふざけて溺れた真似をしない。
そんな夏のお約束もあったっけ。
ある日、膝くらいの深さのところに立っていると、横にいた5歳くらいの子が小さな声で「おばあちゃん、おばあちゃん」と言った。
どうしたの?と顔を覗き込んでから、ハッとした。
遠くに流されて行く女の人が見えた。
浮き輪を持って走るには間に合わない。
岸にいた男性に大声で助けを求めた。
その先にはまた流れの強い瀬と深みが続く。
手前に釣り人が数人いたのが幸いだった。
遠くの人影の様子から、助かったらしいとわかった。
救急車のサイレンがして、ようやくホッとした。
悲しいことに、水難事故のニュースが続いている。
どの子も、どの人も、大切な人。
さっきまで楽しく遊んでただろうにと思うと、胸が潰れる思いがする。
自然の中で、どうか安全に遊んでほしいと願っている。
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