人を動かす(動かされるのは私)
職場のM子さんとは、親子ほどの年の差だった。
ある日、彼女が私の席に来て
「御手洗さん、名古屋駅に行く用事ありますか?
もしよかったら、これもらって来てください」
と言って、CD引換券というものをくれた。
彼女は「私、行かないんで」と言うので、とりあえず受け取った。
アムール・デュ・ショコラのオリジナルCDらしかった。
期限が迫ったある日、特に用事はなかったが名古屋駅に出かけ、買物客でごった返す催事場でCDと引き換えた。
翌日、彼女にCDをもらってきたことを伝え、昼休みにPCのプレイヤーで流してみた。
スタンダードJAZZが10曲ほど入ったCDは、なかなかいい感じだ。
お昼休みの終わるころだった。
私のところに来た彼女が、少々怒った様子で
「そのCD、返してもらっていいですか!?」と言うので、プレイヤーから取り出し、ケースに入れて彼女に渡した。
あれは、何だったんだろう。
私は、高島屋へCD受け取りに行く要員だったってことか。
「CDもらって来たよ~」と先に彼女に渡すべきだったのか。
わざわざ出かけていったんだけど…、と腑に落ちない話だった。
まさか年上の私に行かせるなんてことはしないだろうと思い込んだための、勘違いだったのか。
こんなことを思い出したのは、昨日届いた元同僚A子さんからのLINEだった。
はて、何の用件だろうと思って開くと、
「先日、H子さん(同僚・共通の知人)に会いました。
今度、御手洗さんも一緒にランチして、午後から手芸教室(本人が講師役)をしましょうということになりました。
来週の都合の良い日をH子さんと相談しておいてください」
お誘いのメールということはわかった。
しかし、これは私が行くこと前提か?
手芸は好きだけど、何でも好きなわけではないし、こちらにも都合がある。
A子さんとも親子ほどの年の差で、教授に対してもズバッと言える彼女には助けられたこともあった。
その言い方はちょっと…と思うこともあったが、彼女には何か気を使ってしまう雰囲気があって、意見したことはなかった。
彼女が退職したことで、関係も自然消滅だろうなと思っていたのだが、意外なお誘いに戸惑った。
毎日のように仕事で顔を合わせるH子さんは、特に何も言ってなかったけど…。
やっぱり無理して合わせることはないと思い、すぐにLINEを返した。
「しばらく忙しくて、余裕がないです」と。
「忙しい」を口にするのは好きじゃないけれど、優先順位ってものもある。
自分の時間は大切にしたい。
そんな私が、8月の研究大会の実行委員の一人からメールをもらった。
今回も結構大変そうだという話のあとで、
「美味しいスペイン料理のお店があるんですが、次の打合せの後にでもいかがですか」とあった。
私は、その夜の予定も確認しないまま、速攻で
行きます!
と返信をしていた。