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そうだ、オールブラックスだ

ラグビーWカップが始まった。
昨夜の開幕戦がニュージーランド対フランスということで、寝ないで見るぞーと頑張っていたのに、ハカの声を聞いた後の記憶がない。

今回まさかの負けとなってしまったが、日本チームと同じくらいオールブラックスを応援したいと思っている。

そこで、15年ほど前に書いたエッセイを思い出し、発掘してきた。
自分でもこんなこと書いていたんだと驚き、恥ずかしく、懐かしい思いが少し。
エッセイ仲間と自費出版した本に載せた一つ、転載します(恥ずー!)。


  《男は黙って吉野家の牛丼》


職場の数人で雑談をしていた時のことだ。
ニュージーランドのラグビーチーム、オールブラックスの話題になった。

試合前、彼らが士気を高める踊りがある。
「カマテ、カマテ、こんな感じですよね」と私が踊ってみせた時だった。
元ラガーマンでもあるT氏が、「御手洗さんのそういう男らしいとこ、好きだなぁ」と言った。

「はぁっ?」と聞き返すと、T氏は慌てて弁解ようとした。
しかし、説明すればするほど、男、男と言ってしまい焦っていた。

もちろん私は怒ってなどいない。
内心「男らしい」理由がもっと知りたかった。

帰宅した夫に話すと、「他人んちの奥さんを、男らしいなんて、失礼な」と言った。
しかしその顔は納得したように笑っていた。


それから数日後のことである。
夫が「これ交換してきてくれん?」とカードを二枚差し出した。
牛丼の吉野家のポイントカードだった。スタンプ十個で吉野家の丼鉢一つプレゼントとある。

CMで「早い、安い、うまいの三拍子」と歌われた吉野家は、食事をするというより、飯を食うというイメージがある。
男子学生とサラリーマン限定のお店だと、勝手に決め付けていた。

「これ、私一人でいくのぉ?」と言うと、夫は「いいんだよ、無理して行かなくても」と笑っていた。

HPを見ると予想以上の人気で、交換初日でなくなりそうだと書かれている。
そうなると欲しくなるのが人情だ。
丼ごときの誘惑に負けて、一人吉野家に行く決心をした。

昼休み、駅前にできた新しいお店にむかった。
ドアを開けると、かすかな願いも空しく、お客は全員男性だった。
その上、目立たないボックス席は満席で、狭いカウンターに案内された。

話し声はほとんど聞こえない。どの顔も丼に向かっている。
そして時々あげる目が、こっちを見ているような気がした。

夫から聞いていた。
ドアから入る時に「並」と言えば、座ると同時に目の前に牛丼の並が出されると。
そんな真似できるはずもないが、メニューでゆっくり品定めをするお店でないことはわかった。

バイトの女の子に、小声で「並を」と注文した。
早く食べて帰ることだけを考えていたが、運ばれてきた牛丼は意外に美味しかった。
世の男性が通うのが少しわかるような気がした。

レジでお目当ての景品を受け取り、外に出ると、肩から大きく息を吐いた。

丼二つを抱えた帰り道、男らしいと言われたことをふと思い出したが、やっぱり答えは見つからなかった。
ただこの話を人にするたび、「一人吉牛なんてオヤジじゃん」と言われている。


☆☆☆

今よりちょっとだけ若い自分がいる。
あれから吉牛には何度か行ったけれど、今ではファミリーやカップルも普通に食事をしている。
そして吉牛のどんぶりは、息子の家で使われている。

エッセイ同様、noteも何年後かに読み返したら、きっと面白いだろうな。

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御手洗 育/暮らしのエッセイスト
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