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秋田駒ケ岳登山道から乳頭山を望み、2年前の幸せなひとときが蘇る (山で★深読み……でもないか)

前日に栗駒山からの下山途中、《三途の川》を渡りましたが、どうやらその後もこの身は此岸(この世)にとどまっていたらしく、翌朝も無事、目覚めることができました。
旅に出て3日目のこの日も、宿のマイクロバスで秋田駒ケ岳5合目まで送ってもらう、という《キセル》行為後に、山頂目指して登り始めました。

秋田駒ケ岳は秋田県の最高峰で、同じような高さの3つの峰、男岳おだけ女岳めだけ男女岳おなめだけ女目岳おなめだけとも)から成っています。

20分ほど登ると視界が開け、北東の方角に、《ツン!》と尖った《乳頭山》特徴的な山頂が見えてきました。

「おお、乳頭山!」
想い出したのは、ちょうど2年前の10月に訪れた、そのふもとに点在する《乳頭温泉郷》での事件(でもないか)。

その時宿泊したのは別の宿ですが、翌日、《乳頭温泉郷》の中では一番古く、秋田藩の湯治場だったという「鶴の湯」に出かけました。
下の写真はその時撮ったものです。

紅葉が美しい山を背後に、茅葺き屋根の長屋「本陣」が残っています。
2019年10月のこの時はまだ、外国人観光客もたくさん訪れ、エキゾチックなこの温泉のあちこちで、カメラやスマホをかまえていました。

男湯がなんだか暗くて狭かったので、混浴の露天風呂に行きました。
混浴、といっても、男性客ばかりですが、とにかく青い空の下、紅葉を眺めながらの大きな岩風呂で気持ちがいい。
私が入る時、入れ違いに40歳前後の女性客がひとり出て行きましたが、男性客の視線を警戒しているのでしょう、白く濁った硫黄系の泉質の中、しゃがんだままの姿勢で女性用更衣室の方向に移動していきました。
(まあ、……そうだろね)
酸ヶ湯すかゆ温泉千人風呂の混浴システム(ひとつの巨大な浴槽だが、一応、境界がある)はマナーが守られていてよかったな、などと思っているところに、20代前半とおぼしき白人女性が入ってきました。
(……おっとっと)
国民性の違いなのか、一応しゃがんで移動してきましたが、先ほどの日本人女性ほど警戒はしていない。しかも、堂々と岩風呂のほぼ中央に来て、肩までつかりました。ちらちらと《さりげなく》眺めれば、その肌は透き通るように白く、顔にまだ幼さの残る、美しいひとでした。
(うーむ。……正直に生きていると、こういう幸せもあるんだな)
そう思いつつ、周りを見れば、彼女を《さりげなく、凝視している》男ばかり。
(……しかし、この連中が全員、正直に生きてきた、と考えるのは確率的に無理があるな……)
当然のことかもしれませんが、男性客は誰も出ようとはしない。彼らより後から入った私でさえ、体がすっかり熱くなり、残念だがそろそろ上がろうか、と思った、その時です。
彼女がいきなり、立ち上がりました。
(──おおっと)
そして、堂々と女子更衣室に引き上げて行きました。
男たちは、心の中で《女神様》に手を合わせたことでしょう。

湯から上がり、しばらく休んだ後、車を走らせていると、先ほどの《女神様》がバックパッカーを背負い、停留所でバスを待っていました。


2年前の幸せな思い出をかみしめつつ、時折現れる田沢湖を見下ろしながらさらに山道を登り、阿弥陀池(下の写真)の周りの木道に下りました。

そして、強風に吹き飛ばされそうになりながら、急な山道を秋田駒ケ岳の最高峰、女目岳おなめだけの頂上まで登りました。

秋田駒ケ岳の男岳おだけ女岳めだけは夫婦で、女目岳おなめだけは愛人なのだとか。
男岳おだけがなかなか女目岳《おなめだけ》と別れないので、女岳めだけは怒っており、それが、女岳めだけが活火山で、今も噴煙を上げている理由だそうです。

この日ももちろん、彼女は怒って煙を吐いていました。
くわばら、くわばら……。


この後は……

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