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【掃き溜めに鶴】(新釈ことわざ辞典)記事版

一見、『鶴』の美しさ優秀さに焦点をあてているようで、実はその環境が劣悪であることを強調する悪意も混じっている。

『掃き溜め』ってどんな意味なのでしょうか?

ごみ捨て場。ごみため。転じて、なんの役にも立たない雑多な人や物の集められている場所。

はきだめ | 言葉 | 漢字ペディア

これ、あんまりじゃないですか?
『ごみ捨て場』にはまだ明確な役割があるけれど、『なんの役にも立たない雑多な人や物の集められている場所』って……。

この【掃き溜めに鶴】ということわざ、無邪気に使われていますが、『掃き溜めの側』に立ってみると、どうでしょうか?

「いや、今度ウチの部署に配属予定の新人、清楚な美人だよね。まるで『掃き溜めに鶴』だ」
── 課長さん、発言には気を付けてくださいな。無邪気に『鶴』をホメたようですが、あなたの後ろで女性社員が怖い顔しています。
(アタシら……掃き溜めかよ)
(いや……この課が掃き溜めなんだから、ゴミでしょ)
(つまり、課長もゴミ、それも一番大きなゴミってわけ!)
(あーあ、こんな掃き溜めで仕事なんかやってられないわ)
── 課長の『善意』が清楚で美しい『鶴』へのイジメにつながらなければいいのですが……。

『掃き溜めに鶴』に限らず、比較するような慣用句、意図するところが純粋な『ホメ』だったとしても、比較される方の側に立つと、愉快なことではありません。

「お宅の鶴江さん、またまた成績トップだったんですってね。素晴らしいわね!」
「いええ……お宅の亀吉クンもよくおできになるんでしょ?」
「とんでもない! 鶴江さんとは『雲泥の差』ですよ!」
これを伝え聞いた亀吉クン、苦虫を噛み潰しています。
(……オレは『泥』かよ……)

さて、課長さん、ある時は部長さんに、
「ウチの部署は『玉石混淆』ですから……全員に一概に新企画を持って来い、と言いましても……」
と話しているのを聴かれてしまい、忘年会で酒の入った部下たちに詰め寄られてしまいます。
「課長、ボクが『石』ってことですか?」
「あ、いや、キミは『玉』の方だよ、輝く『宝石』だ」
「じゃあ、アタシが『石』ですか?」
「キミも、もちろん美しい『玉』さ。言うまでもない」
「── じゃ、ワタシはどうなんですか? ──『石』?」
「違うよ、そんなわけないだろ!」
「── ボクが『石』ですか?」
「ちがーう! 違うったら!」
 ‥‥‥‥‥‥
「はあ……はあ……はあ……」
「つまり、課長、アタシら全員『玉』の方なんですね?」
「はあ……はあ……そうだって言ってるだろ!」
「……ってことは……?」
「そうだ! ウチの課で『石』はオレひとりだ!」

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