《ワールドカップ・サッカー中継》に関するマーフィーの法則
これはもちろん、
重要な得失点は必ず、テレビの前から席を外した瞬間に入る。
「ああ、トイレ行きたい、行きたい、行きたい、行きたい……」
「我慢してないで行きなさいよ」
「行けないよ。俺がいない間に点が入ったらどうするんだよ」
「急いでいけば大丈夫よ。ハーフタイムまで、まだ10分以上あるわよ」
──〈大歓声〉──
「どどどどうした!」
「あ、……今、日本が点取られたのよ」
「え、えええーっ! ……さては、お前……」
「何よ? そんな顔して……」
「俺がトイレに行ったの、相手チームに連絡したな? 『点取るなら今だ』って!」
「……はあ?」
******
「よし、後半はもう大丈夫だ!」
「何、それ?」
「大人用オムツだよ。念のために買っておいたんだ。これでもう大丈夫だ!」
──〈大歓声〉──
「……ああ、ウトウトしてたのか……どうした?」
「今、日本が点取ったのよ。同点に追いついたところ」
「何? ……さてはお前、さっきのビールに何か入れたな……」
「はあ?」
「俺が寝落ちしたのを見て、点取るように日本チームに指示したんだろう? ……ったく、何考えてんだか……」
******
ピンポーン!
「おい、誰か来たぞ」
「何かしら、こんな時間に。あなた出てよ」
「え、嫌だよ」
「だってアタシ、こんな格好だもの。あなた出てよ」
「俺だってオムツ姿だぜ……仕方ないなあ」
──〈大歓声〉──
「どどどどうした?」
「また日本が点入れたのよ! 逆転、逆転よ! すごい!」
「ううう……またしても、俺がいない間に!」
「で、誰だったの?」
「誰でもない! 誰もいないんだ、いたずらだよ! ……いや、単なるいたずらじゃないな。俺を玄関に引き付けておいて、その間に点を入れようっていう日本チームの陰謀だ!」
「はあ?」
「まったく、油断できない世の中になったもんだ。次の試合は、キックオフから最後まで、ぜええったあい、テレビの前から動かないぞ!」
「それ、《0対0》の引き分けでいいってことね!」