【詩】手紙
手紙
月を見ながら歩いた
空気が優しく湿っていて少し重い
緑が呼吸する気配にほっとする
薄桃色のまんまるい月
血の通うほのかな温かさ
空が群青をにじませていて
私は深く息をする
声にだけ耳を澄まして目を閉じれば
言葉は消えて
ただあなたのいることが振動になって寄せてくる
輪郭に触れられなくても
輪郭を思い出せなくても
溶けてちゃんとあるようなこと
闇に風の音だけが聞こえて惑いそうになる日には
あなたの手に戻ろう
触れよう
なぞれば文字は息遣いのように霧になる
光を見せる霧
雲間から射す
柔らかい光
怒りは悲しみ
悲しみは私の責任
いつまでも撫でていよう
そのことを忘れないように鈍色の文字を
撫でて生きよう
(ERA第13号)