補聴器と出会う

補聴器、と聞いて思い出すのは父方の祖母である。当時私は小学生、恐らく低学年で、祖母は80歳の手前であったろうと思う。隣に住んでいた。

耳が遠い祖母に大声で話しかけるが、通じるのは半分くらい。それなら、と耳元で話すのをやめて、正面から唇をはっきり動かして話すようにした。声を出すよりも、口の動きに全力を注ぐ。その様子を見ていた母が、すごいね!と真似するようになるくらい、わかってもらえて私は嬉しかった。

その祖母が、ある日嬉々として、眼鏡に一体化した補聴器を持ってきた。話しかけるそぶりを見せると、ちょっと待ってね、と言って、その補聴器を耳に入れる。ぴーっと電子音が鳴る。アレ?おかしいねえ…とつぶやく。そんな繰り返し。すなわち、全く役に立たない補聴器だった。そのぴーっはうるさくないんかな、と幼いながらに心配したことを覚えている。たぶん、聞こえていなかったのだろうと今ならわかる。

補聴器、それは医療機器で精密機械。そう教えてもらった。オーティコンというメーカーの相談窓口で。

先日、義父から電話があり、補聴器を買いたいがAI機能付きのいいやつ、関東圏にしか店舗がない、がっちりマンデーでやってたやつ!近い?とのこと。それで、私が補聴器(と取扱店舗)について調べることになったのだ。ちなみに、がっちりマンデーというのはテレビの情報番組らしい(私は知らなかった)。番組検索をしても、補聴器については放送されていない。困った。

検索窓に思いつく限りのキーワードを組み合わせ、検索をかけてみた。あれやこれや失敗を重ねること数十分、がっちりマンデーではなくておはよう日本で取り上げられたヒヤリングストアさんにヒットした。関東圏にしかないお店だ。これに違いない。

説明を読んでいくと、購入は簡単ではなさそうだ。義父は関西に住んでいる。住まいから遠いお店で購入することは不可能に思われた。説明相談から始まって、購入後のメンテナンスや調整…。買って終わりではなく、かかりつけ医ならぬかかりつけ店に長くお世話になることになる。が、それを私が個人の見解として義父に伝えて、彼は納得するだろうか。否。

というわけで、お問い合わせ番号に電話をかけ、かくかくしかじか説明をする。とても親切な方で、丁寧に相談にのってくださった。結果、やはり近隣店舗での購入がよいとのこと。そして、人気のあるメーカーを紹介するから、そこに問い合わせて関西でお勧めの取り扱い店舗をきいてみては、と提案いただいた。なんとありがたい。

そして、オーティコンさんに電話することになったのだ。

ヒヤリングストアさん、オーティコンさんの窓口の方とお話するうちに、だんだんと補聴器に対する認識が変わっていった。祖母の補聴器による私の中の補聴器像がガラガラと音を立てて崩れていく。

補聴器とは、とても繊細で高機能な医療機器、医療機器なのだ。そして、良いものは高いのだろう、高ければきっと満足できるイイヤツなのだろう、と浅はかにも考えていた私は大きく反省することになる。高価であれば良いというわけではなく、使用するひとにとって必要な機能を取捨選択することが大事がなんですよ、とのこと。深く納得するしかなかった。だから、面談や調整の時間が必要なのだとよくわかった。ずっと寄り添い長くお付き合いしてもらえる、信頼のおける店舗で購入しなくてはならないことも、そのお店でメンテナンスしてもらいながら使っていくべきだということも、すっと腑に落ちる話だった。

祖母は、ずっとうちにいて話し相手は孫や家族だけだった。ぴーっと鳴ってばかりの補聴器も、読唇術と併用で何とかなった。ときどき質問に「・・・ほう。」という返事が返ってきて、あ、伝わってないな、と思うことはあったけれど。だが、義父はまだまだ現役だ。聞こえについて悩みは深いのだろうと想像する。良い出会いにつながるといいな、と思いながら結果報告をする。

<追記>今回、電話対応くださったどちらの方からも、本当に誠実な空気が伝わった。文字通り、個人に寄り添う、そんな印象だ。電話が苦手な私は、メールでの問い合わせを選びがちだが、電話してよかった、と心から思った。知りたいこと以上の広がりを教えてもらうことができた。当事者ではない私がうまく質問できるわけがないのだ。メールではなく対話があったからこそ、私の、本当に訊かなくてはならないこと、に到達できた、誘導して頂けた、そんな気持ち。


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