【創作短編小説】週末プラモデラーの奇跡(8,110文字)
(※注 本作品には専門用語が多数登場します。振り落とされないようご注意下さい☆)
「よし!できた!」
僕は出来立ての『ガンダム』(通称ファーストガンダム)のプラモデルを頭上に掲げ、ウットリと眺める。
ガンプラ。
それは世界中を虜にする、言わずと知れたガンダムのプラモデルである。
僕は普段しがないサラリーマンをやっているが、一度週末となれば少しは名のしれたガンプラ専門のプラモデラーへと変身する。
今日は以前から制作していたPG(パーフェクトグレード)の『ガンダム』がようやく完成して越に浸っているところだ。
…本当はHG(ハイグレード)の『ガンダムエアリアル』を作りたかったのだが、販売初日に買いに行ったにも関わらず入手できず。
さすが水星、あのオモチャ屋の大人の行列は異常だったわ…。
欲しいものが手に入らなかった悔しさの反動と勢いでかってしまったPG『ガンダム』。
数千円の買い物の予定が、気が付いたら一万円を超えていた。
異様に大きな箱を抱えた帰り道、震えながら歩いた記憶は今も新しい。
しかしいざ作ってみると内部構造の緻密さ、外観の造形があまりにも素晴らしく、PG『ガンダム』がまさしく初めから作りたかった作品なのだと大声で叫べるほどには愛することができた。
「やっぱり『初代』は良いなー。」
ウットリと眺めることに満足した僕は、次に写真を撮るため撮影ボックスに『ガンダム』を入れる。
「はぁ、さすがPGの関節構造だと幾らでも好きなポーズがとれるな。」
あまりにクネクネと動く『ガンダム』に、僕は自然とタメ息が漏れてしまった。
僕は毎回、作りあげた作品は写真に収めSNSやnoteにアップしている。
それらの作品は思いの外高く評価され、少数ではあるがファンと呼べるような人もいてくれたりする。
そんな人たちから僕は『軍曹』と呼ばれていた。
ふふっ、照れるじゃないか。
僕は一通り『ガンダム』の写真を撮り終え満足すると、その作品を手に取り最後に部屋の出窓へと向かう。
出窓にはアクリル板で作った自作のショーケースが設置されている。
そこにすでに展示されている他のガンプラたちと同じように、ポーズを決め『ガンダム』を置いた。
「いやー、さすがポーズが決まると違うなー。いっそのことジオラマも作っちゃおうかな?」
僕はニマニマしながら出窓に設置したショーケースを眺めていた。
僕が今住んでいるアパートには、珍しく出窓が付いている。
そして部屋は一階、出窓も道路に面した側に付いている。
最初はよく通行人と目が合い、気不味く会釈を返しながら「このアパートのプライバシーはどうなっているんだよ!?」とよく悪態をついたものだが、考え方を変えれば人目によく付くショーウィンドウなのだ。
さらに言えば僕の趣味は週末のガンプラ作り。
作った作品を見てもらいたい派の僕としては、正にうってつけの好条件。
僕は慌ててホームセンターにアクリル板を買いに行き、自作で出窓にピッタリと合うショーケースを制作した。
制作に関しては、普段からプラ板でガンプラのディテールをイジッている僕からしたら楽な作業だ。
ショーケースが完成してからは、そこに過去に作ったお気に入りのガンプラたちを外に向けてポーズを決めて並べた。
まるで小さなオモチャ屋さんだ。
将来、定年退職してからはオモチャ屋さんでもやろうかな?などと考えていた僕にとっては、少しでも夢が叶ったみたいで嬉しかった。
ガンプラ仲間たちから「そんなの日光にやられて変色するぞ?」とよく注意されたが、それは承知の上。
それよりも丹精込めて作った作品たちを見て欲しかったのだ。
幸いなことに出窓沿いの道は近所の小学校の通学路である。
子供たちが僕の作品たちに気がついて、朝の通学時に足を止めて見てくれるのだ。
「すごーい。ロボットがいっぱいー。」
お嬢ちゃん、それはロボットじゃなくて『MS』(モビルスーツ)だよ。
「オレ知ってるぜ!合体するんだぜ!」
少年、そのショーケースに『ZZ』(ダブルゼータ)はいないんだよ。
あぁ…、今すぐにでも飛び出して子供たちに説明したい。
けどそんなことしたら、一発で不審者扱いされるよな…。
そう、昨今の子供と大人との社会事情は世知辛いのだ。
朝の支度をせっせとしながら、そんなことを考えるのだった。
そんなある日だ。
一人の少年が僕の作品を目を輝かせながら、食い入るように見ていたのは。
ある日僕がふと外に目をやると、その少年はいた。
先日完成したばかりの『ガンダム』を、他の作品には目もくれず一生懸命眺めている。
ショーケースの中にはもっと子供ウケしそうな『ストライクフリーダムガンダム』や『クロスボーンガンダムX1フルクロス』など派手目な作品も置いているのに、少年は『ガンダム』だけを必死に眺めていた。
キュピーン!
その時、天啓のように僕の頭の中に電流が走る。
まるで『ニュータイプ』同士が惹かれ合うように。
そうか、あの子もガンプラを愛する「同類」だ!
僕は仲間がいる喜びを感じた。
その日から毎朝、少年はショーケースの前にしばらく立ち止まっては僕の作品を眺める。
他の作品も眺めてくれはするが、やはり最終的に目線は『ガンダム』に止まる。
ふふっ、やはり無駄の無いシンプルなデザインは万人にウケるのだな。
…もしや!
僕は以前に作っていた『ザクⅡ』や『ドム』など、同じ初代シリーズの作品をショーケースに並べて見る。
すると、どうしたことだろう。
少年はより一層に目を輝かせて、『ザク』や『ドム』も眺めるようになった。
やっぱりだ!少年は初代ガンダムを観ている!
なんて稀有な子なんだ。
あぁっ、少年と話がしたい…。
好きな『MS』について語りたい…。
だけど「やぁ。」なんて話しかけた日には瞬間に防犯ブザーを鳴らされ、近所に「変態プラモおじさん」なんて呼ばれるんだろうな…。
僕はそんな自虐的なことを考えながら、今日も家の中から少年を眺めている。
それだったら、せめて…
僕はそれから初代シリーズのガンプラばかりを作るようになった。
『グフ』に『ゲルググ』、『ズゴック』に『ジオング』など様々だ。
自然と『ジオン』系『MS』が多いのはご愛嬌で。
SNSやnoteのコメントで「軍曹、最近初代多いですね。」などのコメントを貰うようになったが、全く気にならない。
今までは不特定多数に見せるためにガンプラを作ってきたが、今は少年に見せる方が楽しく感じる。
なぜなら出来上がった作品を並べる度に、少年は目を輝かせ作品に魅入ってくれる。
ネットを介して貰える称賛の言葉たちより、目の前にいる一人の少年の笑顔の方が、なによりの称賛なのだ。
僕と少年のガンプラを通した無言の会話は、いつまでも続いていく。
そんな日常が何ヶ月も経ったある日。
少年を見かけなくなってしまったのだ。
どうしたんだろう?
なにかあったのかな?
もしかして初代がウケるならと、08小隊シリーズを並べ出したのが良くなかったのかも!?
確かに『アプサラスⅡ』を並べた時、少年の頭の上に「?」が浮かんでいるのが見えた気がしたんだよな…。
僕はまるで恋に焦がれる少女のように少年のことを考えてしまい、モヤモヤした気持ちに苛まれるのだった。
そんな日がなん日も続き、最近ガンプラ作りにも力が入らないな…などとボーッと考えながら朝の支度をしているときだ。
ショーケースの前に少年が立っているのを見つける。
僕は支度も途中のまま、世間体も気にせず、気が付いたら外へと飛び出していた。
そこには待ちに待ち焦がれた名も知れない少年が立っていたのだから。
彼はなんだか元気の無い様子でショーケースを眺めている。
いつも『ガンダム』を眺めてくれるキラキラした目ではなく、どこか生気の無い目だ。
それに朝の通学時間だというのに、いつものようにランドセルを背負っていない。
どうしたんだろう?という違和感はあったが、僕は少年に会えた喜びで頭がいっぱいになっていた。
「や…やぁ。キミはいつもガンプラを見に来てくれていたよね?」
キョドキョドしながらまるで変質者のように声をかけてしまう僕。
今更になって人とのコミュニケーションはあまり得意ではないことを思い出す。
少年は急に知らない大人が声をかけてきたことに少なからず警戒はしていたが、興味が勝ったのか「ガンプラ?」と聞き返してきた。
「あぁ、ガンダムのプラモデルのことさ。僕はこのガンプラたちの制作者なんだ。キミは『ガンダム』って知っているかい?」
そう僕が説明をすると、少年は久しぶりにキラキラした目を僕に見せてくれた。
「知ってる!これが『ガンダム』でしょ!それにこれが『ザク』で、これが『ドム』!」
ショーケースの中の作品を指差しながら、少年は捲し立てるように知っている単語を話していく。
僕は嬉しくて堪らなかった。
やっぱりこの少年は、ガンダムを知っている子なんだ!
僕は嬉しくなり、少年にガンダムの知識を教えていく。
「知っているかい?この『ガンダム』は1体で『ドム』を12体も倒したことがあるんだよ。」
「12体も!?凄い!」
僕はまだまだ止まらない。
「敵を一撃で倒す破壊力、ガンダリウム合金による装甲、『シャア専用ザク』と渡り合える機動力、この一機だけで戦況が変わることから敵側の『ジオン』から『ガンダム』は『白い悪魔』と呼ばれ恐れられていたんだ!」
「えっ…、白い…悪魔…?」
「そう、『白い悪魔』!敵側の『ジオン』はこの『ガンダム』のせいで負けたみたいなもんだよ!」
『ガンダム』を作り上げた愛着からか、ついつい説明にも力が入ってしまう。
「そんなの…」
ん?
「そんなの『ジオン』が可愛そうじゃないか!」
少年がそう叫ぶと、どこかへと走り去ってしまった。
僕はあまりの出来事に状況を理解することができず、ただただ呆然と立ち尽くすのだった。
「お前!また仕事のミスをしたな!」
「…すみません。」
あれから暫く茫然自失と立ち尽くしていたが、会社に遅刻することに気がついた僕は急いで家を出た。
なんとか遅刻は免れたが、今朝の出来事が気になって全く仕事が手につかない。
ミスを連発する始末だ。
同僚からも「どうしたの?」と聞かれるが、内容が内容なだけに上手に説明することもできず「今朝、ちょっとね…」とだけ返す。
「はぁ。」
いくらタメ息を漏らしても鬱蒼とした気分は晴れない。
明日はせっかくの週末で休みだ。
ガンプラでも作って気持ちを切り替えよう。
僕はそう考えながら、またタメ息をつくのだった。
翌日。
思いの外ガンプラを作る気になれず、ただボーッとテレビを眺めていると「ピンポーン」と家のチャイムが鳴る。
なにも考えたくなかった僕は、重たい体を動かし玄関に向かう。
ドアスコープ越しに外を覗くと、そこには知らない女性が立っていた。
どこかくたびれた様子の女性は歳が40代ぐらいだろうか。
僕は扉を開け「どちら様でしょうか?」と尋ねる。
すると女性は元気なくボソボソと喋る。
「昨日お宅に息子が訪れなかったでしょうか?私はその子の母です。」
まさか少年のお母さん!
しまった!昨日はあまりの出来事に深く考えていなかったが、急に話しかけて子供に逃げられて…不審者のそれだ!
きっと問い詰めにきたんだ!
僕が戦々恐々と震えて取り乱していると、女性は「違うんです!」と大声で否定し、「違うんです…」と今度は小声で繰り返した。
僕は昨日に引き続き状況の理解が追いつかず、とりあえず女性を家に上がらせる。
それからしばらく経ち、お互いが落ち着きを取り戻してから女性は話してくれた。
「実は昨日、息子が泣きながら帰ってきてビックリした私はどうしたのか聞いたんです。すると『白い悪魔』のことについて教えてくれました。」
僕の息が詰まる。
「違う、違うんです!実はここの出窓のプラモデルのことは息子からよく聞かされていました。それは嬉しそうに。」
僕は少し息をすることができる。
「私の旦那がガンダム好きで、よく息子とアニメを観ていたんです。それであの子もガンダムに詳しくなったんです。」
なるほど、理解した。
「それで、その…、息子が…病気なんです。」
!?
「『白血病』という病気で昨日から入院が始まりました。旦那も今は息子に付き添っています。」
…
「息子はまだ病気の内容も詳しく理解することはできませんが、おそらく『白い』っていう言葉が『白血病』と連想してしまったみたいで…。」
…
「息子は入院前にもう一度『ガンダム』がみたいと…もう一度ここに来ると言っていました。」
…
「それで話を聞くと、どうやら貴方に対して失礼な態度をとったみたいでしたから謝罪に来ました。大変申し訳ありません。息子も悪気は無かったんです。」
そう言い頭を深々と下げる少年のお母さん。
「実はこんな話を貴方にするのもどうかと思うのですが…、息子の『白血病』は少し特殊な形らしくて…、まだドナーが見つからない状態で…、私…どうしたらいいのか…」
とうとう泣き出してしまった少年のお母さん。
…
「…僕は…いえ、もし良かったら息子さんの入院先の病院に連れて行ってもらえますか?」
僕はその時感じた衝動と共に、今にも消え入りそうなお母さんを説得し病院へと向かうのだった。
病室へ辿り着くと少年がベッドの上で座っていた。
思っていたより元気そうで安心する。
ベッドの横には父らしき人が座っている。
僕は父らしき人に軽く会釈をすると、向こうも僕の話を聞いていたのか軽く会釈を返してくれる。
「やぁ、こんにちは。」
「あっ…、こんにちは。」
僕と少年は軽く挨拶を交わす。
「お話はお母さんから聞いたよ。キミは病気が怖いかい?」
コクッと少年が頷く。
「じゃあ…、『ガンダム』は怖いかい?」
少年は少しビクッとした。
「『ガンダム』は『白い悪魔』なんでしょ?『ジオン』は『ガンダム』に勝てないんでしょ?そんなの怖いよ…。」
それを聞いた僕は一つの決意をする。
「確かに『ジオン』からしたら『ガンダム』は怖い存在だった…。しかし、決して倒せない相手じゃないんだ!それを僕が証明してあげるよ!」
そう言うと僕は両親に軽く挨拶を交わし、病室を飛び出す。
そして医者にある確認をとった後、自宅へと飛んで帰るのだった。
自宅に着いてから僕は、打倒ガンダムを志す。
そう、確かに『アムロ・レイ』が覚醒してから『マグネットコーティング』された後の『ガンダム』は敵無しに最強だった。
しかし所詮は人が作り出した決戦用兵器。
圧倒的物量の前では『ガンダム』でも勝ち目はないんだ!
まるでジオンの亡霊に取り憑かれたかのように意気込む僕。
先ずはガンプラ仲間たちに連絡をとる。
「お願いがあるんだ!持っているだけの『ジオン』の 『MS』を譲ってくれないか!?『ジオン』なら『MA』(モビルアーマー)でもいい!」
突然のお願いに仲間たちは困惑していたが、内容を説明すると快く承諾してくれた。
次にSNSで発信する。
『みなさんに突然ですが、お願いがあります。『ジオン』の『MS』か『MA』をお譲りして頂けませんか?』
突然の内容に『とうとう軍曹が戦争を起こす気だ!』などと騒がれたが、名前を伏せて詳しい内容を書くとみんなは先程とは比べ物にならないくらい騒ぎ出した。
よし!後は僕が有給も使って、作れるだけ作ってやる!
それから僕の『一年戦争』が幕を開けたのである。
それからというもの、僕は寝る時間も惜しんでガンプラ作りに性を出した。
『ザクⅠ』『ザクⅡ』『グフ』に『ドム』。
数えだしたらキリが無い。
ジークジオン!
ジークジオン!
有給も1週間取れたし、睡眠時間も3時間あれば大丈夫だ!
ジークジオン!
ジークジオン!
そして全国津々浦々から届けられるガンプラたち。
『ゲルググ』『アッガイ』に『ビグ・ザム』まである。
ジークジオン!
ジークジオン!
あっ!誰か間違えて『ジム』を送ってきている!
連邦のスパイめ!こんなもの赤く染めて『シャア専用機』にしてくれる!
ジークジオン!
ジークジオン!
仲間たちからもガンプラが送られてくる。
『アッザム』『グラブロ』に『ブラウ・ブロ』。
やたらマニアックなラインナップに苦笑するが、有り難い。
ジークジオン!
ジークジオン!
あっ!MG(マスターグレード)の『ジョニー・ライデン専用ザクⅡ』だ!
僕が個人的に欲しいがグッ堪える。
ジークジオン!
ジークジオン!
僕はそれから1週間かけて集まった数々のガンプラたちを持って、病院へと駆けつけるのだった。
ボクは今日も検査を受ける。
なんでも『白血病』がヒドくなっていないか調べるらしい。
けど、いつまでも検査だけだとダメらしい。
早く治療を受けないとダメなんだけど、「ドナー」というのが見つからないと治療は受けられないらしい。
詳しいことは分からないけど、『白血病』はやっぱり『白い悪魔』なんだ。
誰も倒すことはできないんだ。
ボクはタメ息をつきながら、いつもの殺風景な病室へと帰る。
病室の入り口でお父さんとお母さんが「コッチコッチ!」とボクを手招きするが、どうしたんだろう?
ボクは重たい足取りで病室へと入った。
すると、ボクはビックリした!
病室いっぱいにガンプラが並べられているんだ。
『ザク』でしょ!『ドム』でしょ!『ゲルググ』でしょ!
他にも名前の知らないガンプラがいっぱいあったが、こんないっぱいのガンプラ見たことない!
ボクは病気のことを忘れ、夢中でガンプラたちを眺めていた。
「…凄いでしょ?」
声をかけられたことに気がつき、そちらに振り向く。
「あっ、ガンプラのおじさん。」
「おじ…!まぁいいや。ここにあるのは全部『ジオン』の機体で300体あるんだ。」
おじさんは以前のように説明してくれる。
「確かに『ガンダム』は『白い悪魔』として『ジオン』に恐れられていたけど、流石にこれだけの数を相手にすると『ガンダム』でも勝てないんだよ。」
「『白い悪魔』でも勝てないの?」
「そうだよ。いくら敵を一撃で倒す破壊力、ガンダリウム合金による装甲、『シャア専用ザク』と渡り合える機動力を持っていたとしても、これだけの数を相手にしたら『ガンダム』でも勝てないんだよ。」
「じゃあ『白血病』も倒せる?」
「ああっ!倒せるとも!この病院にもいっぱいのお医者さんや看護師さんがいるだろ?『白血病』なんか目じゃないさ!」
「けど、「ドナー」が見つからないと治療が受けられないんだよ。」
「それも大丈夫!「ドナー」もいっぱいの人が探しているんだ!きっと見つかるよ!だから安心して!」
「…うん、分かった!」
おじさんかボクに説明してくれる。
横ではお父さんとお母さんが何故だが泣いている。
どうしたんだろう?
『白血病』も『白い悪魔』も怖くないっておじさんが教えてくれたのに、どうしてお父さんもお母さんも泣いているの?
ボクはたくさんのガンプラに囲まれて自然と楽しくなってくる。
『ガンダム』なんて、目じゃないんだから!
『300体のガンプラが病室を占領する』
そのニュースは病院を飛び出し、地方紙に取り上げられる。
ジークジオン!
ジークジオン!
地方紙に取り上げられたニュースは、全国紙に取り上げられる。
ジークジオン!
ジークジオン!
全国紙に取り上げられたニュースはテレビ局の噂にもなり、テレビカメラが病院に押し寄せる。
ジークジオン!
ジークジオン!
全国で報道されたニュースは、やがてネットニュースで全世界へと広がる。
ガンプラを愛する少年がいること。
少年が白血病を患っていること。
少年がドナーを探していることを…
日本中から、世界中から問い合わせが殺到する。
そして一本の電話が病院に鳴り響く。
ドナーが見つかったと。
1年後…
「よし!できた!」
僕は出来立てのHG『ガンダムエアリアル』を頭上に掲げ、ウットリしていた。
「このシールドの展開ギミックが堪らないなー。やっぱりジオラマ頑張ってみようかな?」
ピンポーン。
僕が次なる野望を掲げ、SNS用の写真を撮ろうとしと時に家のチャイムが鳴る。
「おっ、もうそんな時間か。」
僕が慌てて玄関の扉を開けると、そこには「いつもすいません」と申し訳なさそうに、しかし楽しげにしている両親と、
「おじさん!『ガンダム』買ってきたよ!」
そこには満面の笑みで1/144HG『ガンダム』の箱を持つ少年がいた。