【創作短編小説】死にたがり女子高生とドラゴン(8,524文字)
私の人生は死んでしまった。
クラスのリーダー格の女子に嫌われてしまったのだ。
なんでも自分の彼氏が私と仲良くしていたのが気にくわなかったらしい。
そんなこと言われてもクラスの席が隣同士なので仕方がないじゃないか。
リーダー女子のまるで被害者であるかのような呼び掛けの甲斐もあり、私へのイジメが始まったのだ。
上履きをゴミ箱に捨てられたり、カバンを隠されたり、黒板に悪口を書かれたり…
言い出したらキリが無いが、兎に角ヒドイものだ。
しかし私は気高き女子高生。
そんなイジメには屈しないのだ。
そう意地にも似た決意を持って毎日を生き抜いていたのだが、昨日両親が多額の借金を背負ったことを知ってしまった。
なんでも友人に詐欺まがいの話をされ、それに気が付かずホイホイと書類にサインをしたら多額の借金主になってしまったらしい。
我が両親ながらお人好しというか、警戒心が無いというか、マヌケな話である。
そんな借金なんて出るとこ出たら無くなるんじゃないの!?と私は両親に抗議したが、相手の手元にサインをした書類がある以上どうすることもできないらしい。
…っていうか、こんな重たい話を子供に聞かせるなよ。
親なら借金ぐらい子供に気付かれずにどうにかしてみろよ!と怒鳴りたくもなる。
しかし両親の初めて見せる顔の前に、私は何も言えなくなってしまった。
まだ大丈夫…。
私はまだ大丈夫と思っていた。
私は気高き女子高生なのだから…!
そう思っていたが、今朝の登校時に犬のフンを踏んでしまった。
私の中でなにかが折れる音がして、私は死ぬことにした。
放課後、学校の屋上。
私以外、誰もいないがらんとした景色。
私は今まで屋上にあがったことが無かったので、こんなにも殺風景なものなのだと死ぬ間際に初めて知ることになる。
屋上には外周を囲むようにフェンスが備え付けられており、転落防止の役目を果たしている。
もちろん飛び降り自殺防止も…
私はよじ登ろうとフェンスにしがみつく。
しかしどうしたことか。
毎年体育オール3の私の身体能力を持ってしても、スルスルとフェンスを登ることができない。
ドラマではもっと簡単に登っていたはずなのに…。
私はイメージと違う現実に四苦八苦しながら、汗だくになりどうにかフェンスの向こう側へと辿り着く。
ゼーゼーと息が切れる。
最後くらいもっとスマートに死にたかったのに、以外と死ぬのって大変なんだな。
しかしここまで来ればもう大丈夫。
後は飛び降りるだけだ。
私は息を整え、汗がひくのを待ち、落ち着いたところを見計らい、いざ飛び降りようと屋上の縁に足をかける。
最後に自分の生まれ育った街を見ようと視線を上げると、
目の前にドラゴンがいた。
はぇっ?
恐ろしくマヌケな声が出る。
ドラゴン。
おそらくドラゴン。
よくアニメなどで見る、でっかくて、翼が生えてて、直立不動で、二足歩行の緑で爬虫類っぽい顔のヤツ。
四階建て校舎の屋上にいる私と目線が一緒の巨大怪獣。
私があまりの出来事に死ぬことを忘れていると、
「ぶわぁーはっはっは!!」
ドラゴンは大声で笑い出す。
うっわ、うるさっ。
「よくぞ我が前にまで辿り着いた!矮小なる者よ!貴様には褒美として『不死の体』を授けてやろう!」
このドラゴンは大声で何を言っているんだろう?
ここまで辿り着いた?
なるほど、誰も屋上のフェンスを越えるヤツなんていないもんね。
どんだけイージーな試練だよ。
ってか、私は今から死ぬんだよ。
不死の体なんて邪魔なだけだわ!
私としたことがあまりの出来事にツッコミが追いつかない。
「それよりここは何処なのだ?私がいた『神龍の山』ではないのか?まさかこれが噂にまで聞いた異世界召喚!?」
ドラゴンがなにか咆えている。
ツッコミ疲れた私はドラゴンを無視して屋上から飛び降りる。
なに、痛いのは一瞬だけ。
この世ともお別れ…
「ちょ、何をしておる!?危ないではないか!?」
ドラゴンに両手でキャッチされる。
うわっ、なんかブヨブヨしてる…じゃなくって!
「矮小なる者よ。そんな所から飛び降りたら死んでしまうぞ?」
そうだよ!死のうとしてるんだよ!
「死ぬのは良くないのではないか?ほら、悲しむ者もいるのではないか?」
爬虫類モドキが正論を突き付けてくる。
「なにより死んでしまったら『不死の体』を手に入れられなくなるぞ?」
だからそんなの、いらないんだってば!
「かの勇者や皇帝が喉から手が出るほど欲した体なのに…あい、わかった!では、貴様が『不死の体』を欲するまで儂が同行してやろう!ぶわぁーはっはっは!」
知らない世界で心細いしな、などと聞こえた気がするが全く意味が分からない。
こうして私はろくに死ぬこともできず、ドラゴンに付き纏われる生活を送る羽目になったのだった。
そういえばアンタみたいな怪獣が出現したらみんな騒ぎになるはずなのに、どうしてみんな騒がないんだろう?
「矮小なる者よ!それは儂が貴様以外の者に認識されぬよう魔法で存在を消しておるからだ!それぐらいの気配りは造作もないぞ!ぶわぁーはっはっは!」
なるほど、言っていることは意味不明だが、騒ぎにならないのなら安心…
「おい見ろ!女子高生が浮いてるぞ!」
「本当だ!あれは幽霊かしら!?」
ドラゴンの手の平の上にいる私は、どうやら空を飛んでいるように見えるらしい。
学校の七不思議に「空飛ぶ女子高生の霊」が誕生した瞬間である。
私は翌日から不登校になった。
ピピピピッ
アラームが鳴り、目が覚める。
太陽の陽射しが爽やかな朝の訪れを知らせる。
うん、絶好の自殺日和だ。
昨日は変な怪獣の乱入で自殺できなかったが、今日はバッチリ。
昨夜はご飯も沢山食べたし、いつもより多めに睡眠時間もとったし、体調も万全!
さぁ、遺書を書こう!
『お父さん、お母さん、今までありがとうござい…』
先程からなにかが根本から間違っている気がするが、私は気にしない。
昨日は飛び降り自殺できなかったけど、こんな事もあろうかと(?)私は睡眠薬を用意していたのだ。
遺書も書き終わり、新しいパジャマに着替えた私は大量の睡眠薬を服用する。
飲んだ、飲んでしまった…
私はベッドの中へと潜り込む。
死んだ私を見つけたら、両親はどんな顔をするのだろうか?
お父さん、お母さん、最後まで心配をかけてゴメンね。
私の分まで幸せでいてね。
さようなら…。
…
……
………全然眠たくならない。
あれ?おかしいな?
昨日寝過ぎたせいかな?
その時、外から壁越しに声が聞こえる。
「ぶわぁーはっはっは!矮小なる者よ!貴様にはとりあえず『龍の加護』を授けておる!『状態異常無効』の効果だ!そんな薬など効かぬわ!」
私はベッドから起き、部屋のカーテンを開ける。
そこにはドヤり顔のドラゴンがいた。
散歩中の犬がワンワン吠えて、オバちゃんが「どうしたの!?」と慌てている。
あれ、犬には見えてるんじゃない?
私はリビングに行き、今朝のニュースを観ながら用意された朝食を食べる。
『昨夜、○○市△△山で動く謎の巨大物体が目撃されたとの通報があり、警察や地元の自警団の捜索が…』
やだ、近所じゃない。
怖いなー。
朝食を食べ終わった私は朝風呂に入るため浴室に向かう。
こうなったら気持ちを切り替え、次なる自殺だ。
浴槽に湯を蓄え、私は一本のカミソリを取り出す。
そう、リストカット自殺だ。
私はドラマでよく観るシーンを思い出しながら、湯船に浸かり片腕を出す。
お父さん、お母さん、今までありがとう。
そして、さようなら…。
カミソリの刃を手首に当て、思い切り引き抜く。
パキーン!
カミソリの刃が音を立てて折れる。
そこには傷一つ無い、10代特有のキレイな肌をした腕があった。
「ぶわぁーはっはっは!矮小なる者よ!儂の『龍の加護』は『ミスリルソード』でさえ傷一つつけられんわ!」
浴室の壁の外から大声が聞こえる。
これはいかん…。
本格的に自殺する方法を探さなくては!
浴室から出て着替えを済ました私は、鬼気迫る勢いで玄関から飛び出したのだった。
なにか、なにか自殺になりそうな物は…。
私は血眼になりながら住宅街を歩き、辺りを見渡す。
後ろから「おーい。」と言いドスドス足音を響かせながらついて来るドラゴンがいるが、そんなものに構っている暇はない。
しばらく歩いていると目の前で遊んでいる子供たちを見つける。
うふふ、楽しそう。
しかしその子供たちの頭上ではバチバチと不穏な音をたてる電線があり、バチッ!という音と共に電線が切れ子供たちに迫りくる!
これだ!
私は人並み外れたスピードで子供たちに近づくと、迫りくる電線を素手で鷲掴みにした。
お父さん、お母さん、今までありがとう。
そして、さようなら…。
バチバチッ!
高圧の電流が体に流れ…!
バチバチッ!
…体に…流れ…
バチバチッ!
………
「ぶわぁーはっはっは!矮小なる者よ!儂の『龍の加護』は『サンダーボルト』程の雷でも効かぬわ!」
やっぱり。
私はハァッと溜め息をつきながら電線を放り投げる。
「ありがとうございます!ありがとうございます!お陰で子供たちも無傷でした!ありがとうございます!」
騒ぎを聞きつけ駆けつけた親たちが、引っ切り無しに感謝の言葉を投げかけてくる。
親の後ろでは泣きじゃくる子供たち。
そっか、子供たちを助けたように見えたんだ。
全くその気も無かった私は居心地が悪くなり、ハハハッと愛想笑いを浮かべながらその場を立ち去るのだった。
くそぅ、死ねん。
場所は変わり繁華街。
賑やかな場所で人も多ければ、車の交通量も多い。
車…交通量…ハッ!
私は思いつく。
「おーい。」と言いながらバタバタと空を飛んで来るドラゴンは完全に無視だ。
アイツ、やっぱり飛べたんだな。
私は交差点で立ち止まり、しばらく様子を眺める。
行き交う車たち。
あんな小型の車じゃ駄目だ。
また爬虫類モドキに馬鹿にされてしまう。
私が交差点をしばらく眺めていると、パーッ!というクラクションを鳴らしながら大型のトラックが交差点に侵入してくる!
これだ!
私は猛スピードで交差点に差し掛かろうとする大型トラックの前に、飛び込むようにしてその身を投げ出す。
お父さん、お母さん、今までありがとう。
そして、さようなら…。
ガシャーーン!!
猛スピードで突っ込んできた大型トラックはフロントを凹字にヘコませ急停車する。
そして私は…
大型トラックにめり込む形で、その場に立ち尽くしていた。
なんでやねん。
ザワザワと辺りがザワつく。
「ぶわぁーはっはっは!矮小なる者よ!儂の『龍の加護』は『サイクロプスの殴打』でさえ無傷…
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
一人の女性が走り寄ってきて猛烈に感謝を述べる。
「ありがとうございます!娘を助けて頂いて!ありがとうございます!」
えっ?娘?
見ると子グマのヌイグルミを抱えた女の子が、泣きじゃくりながら道路にへたり込んでいた。
そっか、さっきの大型トラックはクラクションを鳴らしていたんだから、すでに道路には女の子が飛び出していたんだ。
「お嬢ちゃんたち!大丈夫だったかい!?」
大型トラックからも運転手のオジさんが飛び出してくる。
「ありがとう!助かったよ!もう少しで轢いちまうところだった!」
あれ?私は轢かれたことにカウントされてないの?
騒ぎを聞きつけた他の人々が集まりだし、交差点は一種のお祭り状態となる。
凄い凄いと騒ぎたてる人、必死に現場の写真や動画を撮る人などなど。
私はまた居心地が悪くなり、それじゃ!とだけ言いその場を後にするのだった。
何なんだ、これは。
ことごとく自殺が失敗するどころか、逆に人の命を救っているようではないか。
なんだよ、さっきチラッと聞こえたスーパー女子高生って。
このままでは自殺をする前に、恥ずかしくて社会的に死んでしまうかもしれない。
文句をブツブツ言いながら街中を歩いている時だった。
「いやー!いやー!」
なにやら人集りができ騒がしくなっていた。
「中には…、中にはまだ息子がいるんです!」
「お母さん!危ないから下がって下さい!」
どうやら家が火事になり、中に息子が取り残されたらしい。
…
…私は自殺の場所を探しているだけ…
もしもし、ドラゴンさん?
「ぶわぁーはっはっは!矮小なる者よ!儂の『龍の加護』は『ファイアーウォール』程の火炎でも効かぬわ!」
まだ詳しく話していないのに、さすがドラゴンさん。
よく分かってらっしゃる。
私は深く深呼吸をする。
お父さん、お母さん、今までありがとう。
そして…、さようならー!!
私は人々の静止を振り切り、炎渦巻く家の中へと飛び込んでいったのだった。
ピピピピッ
アラームが鳴り、目が覚める。
昨日は色々とあり過ぎた。
ろくに自殺できなかったどころか、最後の火事現場なんかテレビカメラで撮られそうになったし…
しかし不思議と嫌な気はしない。
私は度重なる出来事で重たく感じる体を起こす。
まぁ、龍の加護とやらで体調はすこぶる良いのだが。
部屋のカーテンを開ける。
そこでは相変わらず犬に吠えられているドラゴンがいた。
もしもし、ドラゴンさん。
今の私って大人の男の人にも勝てるかな?
「ぶわぁーはっはっは!矮小なる者よ!『大人の男の人』という程度は分からんが、儂の『龍の加護』は『オーガの大群』ぐらいは無傷で倒せるぞ!」
よし。
私はそこで一つの決意をする。
今日は曇り空だったので家で理想の自殺についてノートに書きまとめていると、玄関の方が急に騒がしくなる。
…来た!
私は慌てて玄関に向かう。
「金が無いって、どういうことじゃー!」
いかにもなヤクザ風な男性二人が、両親に向かって怒鳴り散らしている。
お父さんが青ざめた顔で対応し、その後ろでお母さんがブルブルと震えている。
「おっ、なんや娘おるんかい。それならエエ働き口紹介できまっせ。」
私に気がついた男の一人が下卑た笑みで私を見る。
私はガクガク震える足でなんとか両親の前に出る。
両親は慌てて私を後ろへ隠そうとするが、下卑た笑みの男が私に近づき、
「そない怖がらんとコッチに来…
嫌ぁーー!!
私は叫びながら両手を前に突き出した。
すると私に押された男はぶっ飛んでいき、玄関の扉を突き破り、表の道路まで転がって止まった。
仰向けに倒れピクピクしている。
両親も、残りの男も大口を開けてポカーンとする。
私はもう一人の男に向かっても、
ダメェーー!!
叫びながら両手を前に突き出す。
大の男が二人、道路の上でのびていた。
両親は二人とも今起こった現実を受け入れられず、ただただ呆然としていた。
ふぅ…よし、じゃあ行ってくる。
私は両親の返事も聞かずに表へ飛び出す。
そしてのびている男二人を叩き起こし、彼らの事務所へと案内するよう指示をした。
彼らはコクコクと何度も何度も首を上下させ、私を案内するため立ち上がる。
ドラゴンさん、怖いから一緒に来てくれる?
「ぶわぁーはっはっは!矮小なる者よ!敵の根城に攻め込むのだな!儂が居れば城の一つや二つ粉砕してくれよう!」
ふふっ、本当に心強い。
私たちは今から敵城に攻め込むのだ。
お父さん、お母さん、今までありがとう。
夕飯までには帰るから待っていてね。
フンフーン♪
私は鼻歌混じりで夕焼けの道を歩いていた。
「随分とご機嫌ではないか、矮小なる者よ。あれで良かったのか?」
モッチロン!
あの後ヤクザの事務所に攻め込んだ私たちは見事に事務所を壊滅させ、両親がサインした書類を取り戻すことができたのだ。
しかし凄かったね、ドラゴンさんの雄叫び。
「うむ、あれは『龍の咆哮』といってな、相手の戦意を喪失させる効果があるのだ。後の仕返しもできぬよう奴らには全力で浴びせてやったわ。」
事務所の窓、割れてたもんね。
「奴らは儂の全力の『龍の咆哮』を受けたのだ。二度と戦えぬ。廃人と化し、一生を過ごすことになるだろう。」
さらっと怖いこと言わないで。
でも…、ありがとう。
「ぶわぁーはっはっは!矮小なる者よ!とうとう儂という存在の有り難みを実感したか!」
うん、感謝してる。
それに…、なんだか死ぬのが怖くなってきちゃった。
「おぉ!ではとうとう『不死の体』を受け入れるようになったか!」
それは嫌!
「ぶわぁーはっはっは!」
あははは!
私たちは笑いながら家路につく。
家に帰ってからは大変だった。
両親に怒られるわ、書類を見せたらまたポカーンとした顔でビックリされるわで。
そんでお父さんもお母さんも泣きながら抱きついてくるもんだから、私まで泣いちゃった。
その日の夕飯は豪勢にスキヤキだった。
みんな、笑顔だったよ。
あぁ、生きてるってこんなにも暖かいものだったんだ。
ピピピピッ
アラームが鳴り、目が覚める。
太陽の陽射しが爽やかな朝の訪れを知らせる。
うん、絶好の登校日和だ。
私は制服に着替え、朝食を食べ、玄関を飛び出す。
外ではすっかり犬とも仲良くなり、じゃれ合っているドラゴンがいた。
よし、行こっか。
「ぶわぁーはっはっは!今日こそは貴様に『不死の体』を授けてくれよう!」
急がないと電車に乗り遅れるよ!
私たちは登校するため最寄り駅に向かう。
ドラゴンさんに乗せて行ってもらったら満員電車ともオサラバできるかもね、などとホームで電車を待ちながらボーッと考えていると、唐突に後ろから誰かに突き飛ばされた。
え?
ホームに落ちる私、迫りくる電車。
やだ!死にたくない…!
ガシャーーン!
ギュッと目を閉じた私と、大きな音を立てて急停車する電車。
…電車は私の手前で止まっていた。
よく見るとドラゴンさんが電車を鷲掴みにして止めている。
「今のは流石に『龍の加護』でも無傷では済まなかったからな。それよりあやつは良いのか?」
突然の出来事に騒然となるホーム。
その混乱に乗じ、一人の女性が走り去ろうとしていた。
私はハッとなり人々の静止を振り切り、その女性を追うのだった。
人気のない空き地。
そこで私は逃げ出した女性に追いつく。
ちょっと、どういうつもり!?
私は怒りに任せて大声を出す。
「なによ…、全部全部アンタが悪いんじゃない!」
そこにはクラスのリーダー格の女子がいた。
「アンタが私の彼氏を奪おうとしたから懲らしめてやっただけなのに…。アンタが不登校になったせいで、やり過ぎだって今度は私がクラスの悪者になっちゃったじゃない!」
リーダー格の女子が吠える。
「クラスのみんなも余所余所しくなっちゃうし、悪口も言われるようになっちゃうし…。全部全部アンタが悪いのよ!」
リーダー格の女子が喚き散らす。
「アンタなんか死んじゃえばいいのよ!!」
…
…ドラゴンさん、私の龍の加護ってやつを無くしてもらえる?
「え?しかしだな…」
いいから!早くして!
「わかったわかった!そんな大声を出さなくてもいいのに…」
私は龍の加護が無くなったことを確認してから、リーダー格の女子の顔を思いっきりビンタした。
「ひぇ!」と叫び目を覆うドラゴン。
突然の出来事に呆然とするリーダー格の女子。
これでチャラだから!もう二度と私には関わらないで!
リーダー格の女子は何がなんだか分からなくなったのか突然泣き出し、その場から走り去ってしまった。
「あれだけで良かったのか?貴様は殺されかけたのだぞ?」
いいの。これでもういいの。
これ以上彼女と関わると、私のこれからの人生メチャクチャになっちゃうから。
「これからの人生…ぶわぁーはっはっは!先日まで死にたがっていた者の言葉とは思えんな!…っむ!」
馬鹿笑いしていた矢先、突然ドラゴンの体が光りだす。
「これは『転移の光』…そうか、どうやら儂は元の世界へと戻らなければならないらしい。」
そう…なんだ。
ゴメンね、私のワガママに色々付き合わせちゃって。
「なに、構わん。それよりも良いのか?『龍の加護』も『不死の体』も今ならまだ間に合うぞ?」
ううん、いいの。
私はドラゴンさんにもっと素敵な物を貰っちゃったから。
「そうか…あい、わかった!気高き者よ!貴様のこれからの生に幸あらんことを!さらばだ!ぶわぁーはっはっは!」
ドラゴンはそう言い残すと光の粒子となり空へと消えていった。
なによ、最後まで馬鹿笑いしちゃって…。
ありがとう、ドラゴンさん…。
私は涙ぐむ目を擦りながら、学校へと駆けていくのだった。
ここは世界の最果て。
おぞましき魔物たちが巣くう『神龍の山』。
その地の最奥、深淵にて世界が誕生した時から存在する神にも匹敵する龍がいるという。
その龍に出会うことができれば、誰もが羨む絶対的な力が手に入るらしい。
かの歴代最強の神殺しの勇者や、世界最大の帝国の頂点に君臨する皇帝がその力を手にし、世界を変えたと噂されている。
あるパーティーの一行もその噂を聞きつけ、ここ『神龍の山』に来ていた。
「もう少しで山の最奥だ!みんな頑張れ!」
パーティー全員がボロボロになった状態だが、リーダーらしき男がみんなを励ます。
そう、この者たちには使命がある。
魔王を倒し、世界に平和をもたらすという使命が。
そして辿り着いた。
山の最奥、深淵に。
重厚な扉に護られたその場所からは、神々しくもあり、禍々しくもある重い空気が漂っていた。
リーダーらしき男は重厚な扉を開く。
恐る恐る扉を潜ったパーティーの目の前に、神とも言える高貴なる存在の龍が現れた。
そして龍は語る。
「ぶわぁーはっはっは!よくぞ我が前にまで辿り着いた!矮小なる者たちよ!貴様たちには褒美として『生きる勇気』を授けてやろう!」