北京人おっさんと行くタイ珍道中 5
出入国管理施設に入り、ラオスからタイヘ戻ろうとすると、やけにガタイのいいスポーツ刈りの集団が前に並んでいた。最初はスポーツ選手かな?と思ったが、どうやら様子がおかしい。アスリートにしてはイカツ過ぎる。
謎のイカツイ集団にビビりながら出国手続きの列に並ぶと、集団のボスらしき男が我々のパスポートを見て「你是日本人嗎?(お前日本人か?)」と話しかけてきた。笑顔で「そうっすね、みなさん台湾人ですか?」と相手のパスポートを見ながら答えると、「そうそう、台湾人。何しに来たん?」と探りを入れてきた。口が裂けてもタコ部屋見学とは言えないので、「カジノに遊びに来たんですよ、だけど負けちゃいましたわ、ハッハッハ」と誤魔化す。その時、彼らの腕から彫り物がコンニチハしているのがわかった。台湾ヤクザ、それも人蛇集團(人身売買グループ)だこれ……。
機嫌を損ねないように「何してはるんですか?」とニコニコしながら訊くと、「KTVや、カラオケな」とボスらしき阿六(仮名)は答える。「こいつがうちのスターやねん」と韓国風イケメンのような細身の男を指差しながら付け加えた。おもむろに阿六は「微信やってる?」と訊いてきた。「台湾人なのに微信…?」という疑問が湧く。私は微信をやっていないのでないと答え、代わりに阿六のスマホにあるテレグラムのアイコンを指差し、「テレグラム交換しましょうや」と言った。彼はテレグラムを交換すると、「東京行く時よろしくな」と笑いながら言う。勘弁してくれ、台湾ヤクザの接待なんてたまったものではない。
出国審査の順番がやってきて、無事にラオスの無法地帯から出国できると思ったら、職員が小声で「50バーツ」と言ってきた。なんと、約200円のしょぼい賄賂を旅行者に請求してきたのである。私は手持ちに100バーツ札しかなかったので、100バーツ札を手渡すと友人と併せて二人分か?と訊いてきた。申し訳なさそうに、律儀にしょぼい賄賂を取ろうとする途上国の公務員の姿は何か滑稽であった。
台湾ヤクザご一行も出国審査を終え、船に乗ろうとしたが、帰りは保津峡川下りではなく、普通の旅客船だった。阿六がこいつらにもチケット買うたれと舎弟に言いつけ、一人200バーツの船賃は台湾人ヤクザご一行に奢ってもらうことになってしまった。阿六さんありがとうございます。
しかし、台湾ヤクザ御一行と同じ空間で数分間一緒に過ごす時間は異様に緊張した。胃が痛かった。エンジン音が弱くなり、タイ側に着くと、心の底から安堵が込み上げてきた。