北京人おっさんと行くタイ珍道中 1
おっさんと共にメーサロンから山を下りてメーサイに向かうことになった我々だったが、山を下りる手段が問題であった。ソンテウの定期路線が消滅していたからである。
おっさんの奢りで、市場で朝メシを食らったあと、我々、というかおっさんは昨日文史館まで送ってくれた爺さんの家を訪ねた。昨晩、「ワシとおっさんの関係は終わった(算了)。」と断言していたのは何だったのか。あの謎の愚痴タイムは本当に何だったのか。愚痴タイムにメシ食えただろ。爺さんは多分おっさんのことを煩わしく思っていただろうが、親切にもドライバーを手配してくれた。爺さん、ありがとう……
快適なハイエースに乗り、おっさんもさほど車酔いに苦しめられることなく我々はメーサイに向かって山を下り始めた。ドライバーは途中の茶園で停まって写真撮影タイムを用意してくれたりしたので、メーサロンで大してまともに観光していなかった我々はやっと観光気分を味わうことができた。これにはおっさんも大満足で、ドライバーを大絶賛していた。チョロいおっさんである。
ドライバーが流す演歌みたいな台湾語の歌謡曲に、ドライバーの台湾人のような南方訛りの中国語、そして台湾のような茶園。これは紛れもなく台湾の空気だ。そして台湾気分のまま車はメーサイに到着した。しかしここでトラブル発生。私はメーソットに向かうバスのバスターミナルに近い宿に泊まりたかったのだが、おっさんもドライバーもチェンラーイ行きのバスターミナルを想定していたのである。私が想定していたバスターミナルはメーサイの中心部(タイ・ミャンマー国境ゲート周辺)から数キロ離れたところだったのだが、おっさんとドライバーが想定していたのは中心部であった。私は2つバスターミナルがあることを知らず、まあ中心部に移転したのだろうくらいに考えており、ドライバーを信用したのだがこの問題に気づいたのはホテルにチェックインしてからであった。
ホテルにチェックインしたあと、仕方なくドライバーに頼んでバスターミナルまで行くトゥクトゥクを手配してもらった。まあ良かろう。バスターミナルで明日のメーソット行きのバスを取ろうとすると、おっさんが中国語で窓口の姉ちゃんに捲し立てている。いや、通じてないから。中国語がどこでも通じるっていう前提やめーや。仕方なく英語で窓口の姉ちゃんに説明すると、メーソット行きのバスは隔日で運行しているらしく、明日のメーソット行きのバスはないらしい。代わりに行けるところまで、つまりチェンマイまでの切符を取ろうということになった。こんなところで長距離バスに乗ろうとする外国人は想定されていないので、そのような情報が英語では得られないのがいささか不親切ではあるが仕方ない。そしてホテルに戻り、トゥクトゥクのドライバーに明日の朝またよろしくと伝えて次の目的地に向かうことにした。
次の目的地はラオスにある中国資本の怪しい経済特区、その名も金三角経済特区である。対岸のゴールデントライアングル公園エリアに向かうバスがないのでソンテウをチャーターして行くことになった。しかし、おっさんはフロントの姉ちゃんに中国語でまくし立てる。いや通じてないから。しょうがないので私が通訳して英語にするも、英語も通じない。おっさんは例の翻訳アプリで交渉を試みたが、なんか高い、ボられていると言って流しのタクシーを探しに出た。しかし、タイ・ミャンマー国境が閉まっている今、メーサイに来る観光客は皆無であり、タクシーもいない。試しにGrabが使えないかやってみたが捕まらなかったので無理だった。諦めてホテルに戻ったところ、おっさんが翻訳機能を使ってフロントの姉ちゃんと雑談を始めた。フロントの姉ちゃんはミャンマーはタチレク(メーサイの向かい側)出身のシャン族らしい。本人はタイヤイ(大タイ族)と説明していた。シャンという言葉に聞き覚えがないらしく、シャン?と訊くとタイヤイだと答えていた。おっさんは彼氏はいるか、何歳か、結婚しているか、美人だねなどのセクハラを流れるように始めていたので、こいつは頼りにならんなという意識が我々に芽生え始めた。我々が先ほどの交渉をやり直すべきだと考え直し、翻訳アプリでフロントの姉ちゃんにソンテウがいくらか訊いてみた。すると800バーツだという。3人で往復800バーツなら悪くなかろうということで、おっさんに伝えると「ワシがフロントの姉ちゃん褒めたからやな、ガハハ」などと抜かしていた。
さてソンテウに乗ること40分弱、途中検問があるも我々が掲げた日本国旅券パワーにより何故かパスポートをホテルに置きっぱにしてきたおっさんも日本人だと思われてノーチェックで通過し、母なるメコン川に沿って広がるゴールデントライアングル公園エリアに到達した。おっさんはビザが心配ということで、ラオスに行かないという。中国人は何故か中国の身分証だけで金三角経済特区に渡れた筈だが、厳しくなったのだろうか。
とにかく、おっさんが行かないということで我々は「ゴールデントライアングル」モニュメントを撮ったあと、おっさんとソンテウのドライバーをタイ側に置き去りにし、ラオスの金三角経済特区へと向かったのであった。