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窃視

 目の前に、女性が10人くらい座って本を読んでいる。その後ろには、「社会・科学」と書いてある書架が左右に3列、計6つ。女性はマスクをして受験勉強をしている高校生から、何かの試験勉強をしている、30前後の女性。高校生は話してばかりで、勉強が進まない。社会科学の本を読んでいる人がどれだけいるだろうか。少しの間見ていても、誰もそこから本を取って読んだりはしない。ここは図書館だが、結局は漫画喫茶の代わりのような場所なのだ。
 高校生は話していると突然、笑いだしたり、驚いた声を出してお互いのスマートフォンをのぞき込んだりしている。30代に見える女性は黙々とページを見返しながら、集中しているが、自分で注意散漫にならないか、と思うぐらい大きな音を立ててページをめくっている。集中すると、キーボードを打つ指の力が強くなるタイプなのかもしれない、と思いながら見ている。
 角にいる女性は大学生か社会人か。20代だろうという感じ。ボーダーシャツを着ていて、化粧も薄く、こちらも黙々と資料を見ている。大体が、自分が持ち込んでいる資料を広げている人が多く、本を読んでいる人間は少ない。そして、老人は新聞や歴史小説の様なものを読んでいることが多い。結局、「ガリア戦記」だとか、「イスラム国について」などを読む人を見ることは少ない。本を読むより、たまり場、行くところがない人間の吹き溜まりのような場所になっているのだ。

 目の前にいる30代くらいの女性。ロングヘアーで、マスクをしており、目つきは若干キツめ。美人な印象。マスクがあるので、どんな鼻でどんな口なのかはわからないが、たまに飴玉を舐める時にマスクを外す一瞬を見る限りでは、いい女だと思う。
 赤いニットをに隠れた体つきは、それほどはっきりわからないが、すらっとしている感じで、肉付きが良いタイプではなさそうだ。胸もそれほど大きくないように見えるが、脱いでみると大きいという女性はたまにいるし、体とのバランスと、胸の柔らかさ、肌の質感など、全体のバランスが醸し出す雰囲気で、なぜか「美乳」に見えることもある。これが女性の体の良いところだ。
 この女性はどこから来たのだろうか。同じ、区民なのだろうか。本人の右手に資料を積んでおり、たまに飴玉を舐めたり、お茶らしきものを飲んでいたりする。ペットボトルではなく、タンブラーを持参している。飲み口をっ見ていると、唇は若干、薄づくりで横に大きいが下品ではない。目も大きいので、見栄えのする顔立ちだろう。

 彼女をもっとよく観察しようと思い、社会・科学に興味はないが、近くを通ってみるために何となく、彼女の後ろの本棚の本を物色してみる。目は背表紙に書いてある題名を見ているが、感覚は女性のにおいは温度すら感じたいと思って集中している。たまにシャンプーの香りがするのは、この女性の物だろうか。女性のこうした香りは十分に興奮する。私は目の前にある訳の分からない本を立ち読みするふりをして、その香りを堪能した。
 私は先ほど目に入ってきた、唇と大きな目がを思い浮かべながら、その女性の香りを匂い、感じながら夢想した。彼女があえぐ顔を夢想して、勃起しながら、書架をうろついた。彼女は私と背合わせになっているので、私がたまに彼女の後ろで、彼女を見ても、見続け気配を感じさせなければわからないだろう。私は彼女を見た。脇から腕、角度によってたまに見える腰回り、ぴったりしたジーンズに大振り過ぎない臀部が収まっている。
 よく見るために真後ろで背合わせに立つのではなく、その書架の裏側に立ち、本の隙間から彼女を見た。足を汲んだり崩したりしている。彼女はキャメル色のボアブーツを履いている。手の先は綺麗で、指には目立ったネイルアートは無いように見えた。手の先まできれいにまっすぐである。
 書架越し、高さが様々な本と棚の間から彼女を見ていると、段々と彼女のイメージが頭の中を支配し始めてきた。彼女の後ろから、彼女のむき出しの臀部を掴んで、後背位から勃起した陰茎を挿入したい、図書館のテーブルに手をつかせて、足を広げさせて挿入する姿が思い浮かんだ。また勃起した。

 彼女は立ち上がり、黒い大きめのトートバッグと、財布などを入れるようなバッグを二つ机の上に出した。資料をまとめると大きなトートバッグの中に資料をまとめ始めた。恐らく、作業が終わったのだろう。帰る準備を始めた。
 私は自席に戻ると、パソコンを閉じて、読んでいた本と一緒にバッグに仕舞った。彼女はグレーのハーフコートを羽織り始め、うなじとロングヘアーの間に手を入れて、紙をハーフコートから出し、若干揺すった。立ち姿を見る限り、ほっそりしていて、いつ抱いても飽きなさそうな体つきだった。標準といえば、標準だが、一緒に過ごしたくなる雰囲気が漂った。ホテルに一緒に入る妄想がよぎっても、自然だった。
 彼女はそのまま階段で1階に下っていた。手には2つのバッグしかもっていないし、図書館の貸し出しカウンターによる様子もなく、本を返す雰囲気もないので、そのまま帰るのだろう。彼女は階段で下るので、エスカレーターを使って下った。1階の自動ドアの前で彼女を発見した。足取りは軽く、UGGのボアブーツは足音がしなかった。スマートフォンを出して、何か確認していたが、すぐにしまった。彼氏か旦那だろうか。何もなかったか様子で、そのまま歩きながら、コートのポケットにしまい、自動ドアを通って、図書館を出て行った。自動ドアが閉まるタイミングで、そこを通り、少し離れて彼女の後ろを歩くことにした。彼女は駅の方に歩くのだろうか。電車に乗るのだろうか、自転車置き場に行くのだろうか、バスに乗るのだろうか。どちらでもない様子だった。歩いて帰れる距離か、買い物をするのか。

 後をつけていくが、ある場所で彼女は止まった。駅から少し離れた場所でコンビニからも少し離れている。図書館からは5分程度の場所だ。5分間、遠目に彼女を見ながら、妄想を繰り返し後をつけていった。彼女は何を食べ、どんな部屋に住み、誰と話をしているのだろう。どこから来たのか、両親と同居か一人暮らしか、音楽は聴くのか、下着の色は何色だろう。乳首の色は、感度は良いのか、あらゆる妄想をしながら、数分、あとをつけて歩いた。
 止まった場所の周りには、コンビニしかなかったので、コンビニに入り、雑誌売り場のガラスから彼女を見続けていた。雑誌売り場には成人向けの雑誌が隅の方に申し訳ない程度おいてあった。男性の性欲を掻き立たせようとする扇動的なキャッチコピーと、胸が強調され、肉付きの良い熟女らしきイメージの女性が綺麗に印刷されている。そのイメージと、後をつけていた女性とを重ねた。熟女という言葉が重なるほど、熟しているイメージはない。
 立ち読みをすることもなく、スマートフォンをいじりながら、その場で女性を見ていた。女性は、スマートフォンをいじりながらそこに立ったままだった。電話をするでもなく、スマートフォンで、一生懸命メールを打っているというわけでもなく、たまにジーっと画面を凝視している。

 5~6分経っただろうか、何だいか目の前を車が通る。どの車も駅の近くで程々の人通りもあるため、徐行したり、人を下ろしたり、駅から降りてくる人を迎えに来たりするために少し路上駐車をしたりしていた。コミュニティバスが止まり、人の乗り降りもあった。
 目の前に黒い、新しいクラウンが通って、左ウィンカーを出したと思ったら、彼女の前に止まり、ハザードランプを出した。少し離れてコンビニから見ていたが、助手席に彼女が座ったのは間違いなかった。そのまま、ドアが占められ、ハザードランプは右ウィンカーに代わり、スーッと車は動き出し去っていった。

 コンビニでスマートフォンを弄るのをやめて、缶ビールを買って家路につくことにした。勃起していたことなど当の昔に忘れていた。缶ビールを2つ買い、会計の列に並んだ。並んでいるのは、40代くらいのサラリーマンと老婆、あとは外国人男性で年齢は見分けがつかない。順番を待っている間、後ろを少し見てみたが、男子高校生が2人、ペットボトルとカップラーメンをもって、話をしていた。
 女性の姿はない。そのまま、会計を済ませ、店の外に出た。夜風が冷たく、街頭が白くギラギラとあたりを照らしていた。街頭がLEDになってから、やたらと道が明るくみえる。
 逆に、道のわきの暗い部分が妙に暗く、LEDライトのまぶしさで暗闇すら隠れるようだった。ライトの眩しさに追いやられるように歩き始める。自分の家のほうへ、歩くが誰の気配もない。段々と自宅に近づくにつれて、人通りも、街頭の数も減り、目に暗闇の中にある街路樹や路肩のコンクリートが入ってきた。家の方角に勝手に足が向く。目の前には、該当と、住宅街、人はいない。家と家の間の隙間に目を向ける。薄暗い夜空が見える以外、なにもない。目の前には何も追うものがない。

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