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彼と、彼らがしてくれたこと

先日、一年半ぶりにある友人が会いに来てくれた。

彼とは大学のサークルで出会い、学科は違ったが同い年・同じ学年で少しずつ仲良くなった。そこからは今でも親交を続けているほど仲が良い。そして今回の、私の自殺未遂にも大きく迷惑をかけた。

久々に会った彼はいつもと変わらない様子で、私は心から安心した。というのも、私のもとに来る人は何かしら大きな報告があるから。私の知る限り、彼は積極的に誰かを予定に誘う方ではなかったから、向こうから会いに行ってもいい?と連絡が来たときに「きっと転勤とか、何か報告があるに違いない」と内心ドキドキしていた。

結果としてそんなことはなく、今のところ転勤も結婚もしないようだった。

他愛のない話をしている中で、前に来てくれた親友の彼氏が事件当時のこと話してくれたこと、自分もそれらを聞く心持ちになっていることを話した。すると「それ話していいんだ」とやや驚いたように、それなら…と、当時の状況を話してくれた。

私が飛び降りたのは日曜日だったらしい。彼は休日を自宅で謳歌していたところ、SNSで私の様子がおかしい事に気づいたと言う。LINEも既読がつかないし、家まで行かねばと、私の住んでいたアパートまで向かった。

彼は私の部屋の合鍵を持っている。大学卒業前後で、しばらく実家に帰る事になった彼は「あんまり家に居たくない」と言っていたので、いつでも逃げこめるようにと、合鍵を渡していた。
その合鍵でドアを開けるも、内側のドアロックで開かない。彼は私の親友に連絡をとって、親友を通して叔母に連絡をした。
その場で呼びかけるも返答がなく、いよいよ警察に連絡したところ、私は既に病院に搬送されていたらしい。

実は私のSNSを見て、不審に思った幼馴染が車で彼より先に駆けつけており、救急車を手配していたという。私が知らなかった事実だった。

彼は親友と合流して病院に向かうと、私の幼馴染とその旦那がいて、そこから警察に色々と説明をした…というものだった。

私が家に帰れる容態だった場合、家にひとりにさせるのは危険だ、ということで「誰かのご自宅に一時的に引き取ってください」と警察からの指示があり、親族である叔母が居たため、その場は叔母が引き取る事になった。
しかし、警察からの問いかけにはその場の全員が、私が引き取りますと答えていたという。

そういえば少し前に叔母から、「幼馴染ちゃんも親友ちゃんもね、泣きながら"私が引き取ります"って言ってたのよ、そんなお友達がいるって奇跡だよ」と聞いていたが、何のことを言っているのかさっぱりだった。
この事を言っていたのか、と納得しつつ、私はこんなに私を想ってくれる優しい人たちに囲まれているんだ、その人たちを悲しませたんだと、喉の奥が苦くなる。

そして彼はもう終わった事だからいいけど、とした上で「お前が飛び降りた日曜日、絶対忘れない」と私の方を向いてこの話を締めた。私は彼の目を見られなかった。

ずっと謝りたかった。謝った。けれど、いくら謝っても、私にしてくれた事や向けてくれた優しさを埋められない。
私が「糖尿病でセクマイで身体障害者、要素が多すぎるよ」と言ったときに、車椅子を指して「大きなアクセサリーが増えたもんね」と言ったのも、彼にとっては何気ない一言だったのかもしれないが、救われた気がした。
終始笑って話してくれている姿と、終わった事だから、で済ませてくれた事にも感謝が止まない。

彼が買ってきてくれたシルバニアを眺めながら、私は私に向けられた優しさに報いる為に生きようと思った。

この気持ちが一時的なもので、明日には強い希死念慮に襲われているかもしれないけれど。彼が、彼らがしてくれた事は、絶対に忘れないように。

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