日本は“民主主義の危機“? 本当の課題と市民・メディアの役割とは
サムネイルクレジット:Photo by Arnaud Jaegers on Unsplash
日本の民主主義の世界的な状況
しばしば、日本の民主主義を巡る状況は「危機」という言葉で表現されることがある。例えば、Google検索における検索状況を調べることができる「Googleトレンド」で過去5年の「民主主義の危機」の検索状況を調べると以下のような結果を見ることができる。
検索ワードが急上昇している4つの山はそれぞれ、21年8月8〜14日、22年3月20〜26日、24年6月23〜29日、24年10月6〜12日である。
上記のデータ・表から分かる通り、日本において、しばしば「民主主義の危機」という言葉で政治的状況が論じられている。本当に日本の民主主義は危機にあるのだろうか。
日本は世界16位の民主主義国家
イギリスの経済誌である「エコノミスト」の調査部門が2024年2月に公表した「Democracy Index(民主主義指数) 2023」において、日本は世界16位だった。調査対象となったのは世界167の国と地域で、60の指標を5つのカテゴリーに分類し、その平均値を総合スコアとしてランク付けをしている。
トップ10にはノルウェー、ニュージーランド、アイスランド、スウェーデンなどの北欧を中心とした国々がランクインしている。
日本の総合スコアは10点満点中8.40であり、このスコアは世界平均・アジア平均を上回るスコアである。さらに、G7各国を比較しても3位に位置している。
日本の民主主義に不足するもの
では、日本の民主主義には何が不足しているのだろうか。ここでは、「政治参加」と「言論空間」、「メディア不信」の3点を指摘する。前述の民主主義指標では日本の民主主義における「政治参加」の不足を指摘している。そして、よりよい社会や政治のための議論の場、そして健全な民主主義のためのメディアの機能不全を挙げる。
「政治参加」しない日本
前述の民主主義指標において、5つの評価カテゴリー「選挙プロセスと多元主義」、「政府の機能度」、「政治参加」、「政治文化」、「市民の自由」のうち、他の項目が9〜8点であるのに対し、「政治参加」は6点台にとどまっている。
この「政治参加」という項目には、国政選挙の投票率や女性議員の割合、政治への関心度合いなどの指標が含まれている。既に様々な報道がされているように、いずれも日本の選挙を巡る課題である。
民主主義・選挙支援国際研究所の調査によると、日本の選挙の投票率は55.97%である。民主主義指数上位のノルウェーでは77.16%、オーストラリアでは89.74%、スウェーデンでは84.21%となっている。
内閣府男女共同参画局の資料によれば、日本の女性議員割合は186カ国中164位となっている。しかし、このランキングの1位はルワンダ、2位がキューバで3位がニカラグアとなっており、他の指標とはランキングの性質が異なっているという点には留意が必要である。それでも、4位にニュージーランド、7位にアイスランドと民主主義指数上位国もトップ10に入っており、日本の政治におけるジェンダーギャップが世界的にも遅れていることは否定できない。
また、政治への関心の低さについても、直接的なデータはないものの、支持政党なしの割合の高さや、政治信条がない人の多さなどから見えてくる。
言論空間の不足
では、政治参加しない市民が多い社会に足りていないものは何だろうか。その1つが「言論空間」である。国際日本ランキングによると、「意見の違う人たちの考えを理解しようとすることが重要」だと思う日本人は26カ国中22位、「友だちや親せきや仕事仲間といっしょのときに、政治の話をすることがよくある・ときどきある」人の割合は26カ国中17位、30歳未満においては24位にまで後退する。
このように、日本において政治参加を阻むのは単に個人の意識や規範だけではない。市民社会において政治や社会について健全に議論し、その方策について話し合う土壌が不足していると言える。
メディア不信
ではこうした政治不参加や、不足する言論空間は市民社会に、もっと言えば市民意識の問題と言ってよいのだろうか。メディアの機能不全についても指摘したい。
アメリカのジャーナリスト、Bill KovachとTom Rosenstielの共著、『The Elements of Journalism』において、ジャーナリズムの役割の1つに「It must provide a forum for public criticism and compromise(国民の(権力への)批判と妥協の議論の場を提供する)」を挙げている。日本の報道機関は市民社会に対し、政治に対する批判・妥協のための議論の場を十分に提供していると言えるだろうか。
また、「政治不信」を問題視するメディアも、一方では「メディア不信」と呼ばれるように信頼を失いつつある。日本のメディア研究者である林香里は著書『メディア不信』において日本のメディアについて以下のように指摘する。
また、新聞購読者数の減少や、日本人の半数がオンラインニュースをポータルサイト経由で取得しているという事象は、今後日本の民主主義の根幹を揺るがすことになりかねない。メディアは信頼の回復と業態やデジタル化・デジタルコンテンツの強化という2つの意味において健全な民主主義を守り、より良くするためにすべき仕事がまだ残っている。
まとめ
本稿では、定期的に叫ばれる「民主主義の危機」というキーワードから出発し、世界における日本の民主主義の状況を確認し、現在日本に不足する要素の抽出とその分析をごく簡単に行った。その結果、日本の民主主義は世界的に見ても比較的安定しており、極端に悲観的になる必要はないことが分かった。しかし、現在の水準を守り、よりよい民主主義社会にしていくためには、国民の政治参加と言論空間の維持と発展、メディアの信頼回復の3つの要素が少なくとも必要であることが分かった。
その上で今後、日本は民主主義をどうしていくべきか。何よりもまずは1人でも多くの人が選挙の際、投票所に足を運び、候補者の名前を記入して投票することだろう。そして余力のある人たちは投票に行ったことをSNSで自分のネットワークの人々と共有し、他者が投票に行くフックを作ることができるだろう。
そして、もう少し視点を上げるならば、現在の民主主義制度自体をアップデートすることを考える必要がある。投票の仕組みや選挙キャンペーンのしかたなど選挙に関連する様々なルールや慣習も変化が必要だが、一番は日常の中でいかに市民が政治と接点を持ち、政治家に市民の声を届けるかという点である。PMI ThinkTankでは引き続き、Democracy 2.0のための具体的な議論を進めるだけでなく、実装の仕組みについても検討していく。
PMI ThinkTankの「Democracy 2.0」ペーパーはこちら。
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