一切れのトマト
私はトマトが苦手だ。酸っぱいことよりも、青臭い味がすることが苦手。同じ理由で水菜も苦手である。
今日の夕飯は唐揚げだった。お皿の上には一切れのトマトが置かれていた。私は、たったそれだけの小さな理由で、夕飯を食べないという選択をした。
そもそも、そこまで空腹でなかったのは事実だ。暑さのせいか昼間もほとんど眠っていて、昼ご飯を食べたのは15時。しかもお米は食べずにおかずとお味噌汁だけを食べた。
母親も今日はいつもより多めの昼寝をとっていた。夕飯が遅くなってしまうことを気にしていた。ごめんと言っていた。
途中、トマトを出すと言われたとき、それなら夕飯はいらないと私は言った。冗談だと捉えられたのか運ばれたお皿は私の分もあった。つい言ってしまった、「いらないって言ったじゃん」。悲しさを隠した「じゃあ自分で片付けなよ」という怒りに、あ本当に? なんてお道化てみせながら片付けて、自室に籠もった。
空腹は気にならない。でも罪悪感が心を絞める。いくつになって何をやっているのだという自分への呆れもある。分かっていて傷つけた自分の選択を恨んでもいる。
たった一切れのトマト。でも私にとっては大きな壁で、今日はタイミングが悪かった。ただそれだけ。素直になれないまま拗らせて、幼稚なおとなになってしまったことが、なんだか悲しく、また滑稽でもあるのだ。