アマゾンプライムお薦めビデオ③ 146:鬼才による傑作にして奇作にして大作: 『アンダーグラウンド』
今回お薦めする作品はこちら。鬼才エミール・クストリッツァ監督が母国ユーゴスラビアの歴史をいわゆる歴史ものとは一味も二味も違う形で描いた傑作にして名作『アンダーグラウンド』です。
ユーゴスラビアの歴史を描いた作品、しかも3時間近い大作と聞くと、恐らく皆さん、シリアスな映画を思い浮かべるでしょう。ところがこの作品、ギャグ満載のとんでもブラックコメディーです。そんなの不謹慎だと思われる方も多いでしょう。確かにこの作品1995年にカンヌ映画祭でパルム・ドーム賞を受賞していますが、その後も賛否両論(というかどちらかというと否(映画に対する「否」というよりもそのアプローチに対する「否」)が多く、一時は監督も「もうやってられない」と引退を示唆したほどです。
と、そのぐらいのある意味奇作、珍作(しかし名作にして傑作)なのですが、とにかく凄い。笑ってしまうとともに考えさせられるというか考えざるを得ない作品です。個人的には初期のナンセンスギャグ時代の永井豪のとある漫画作品を思い起こしました。『ハレンチ学園」というPTAを敵に回したことで有名な漫画で描かれた「ハレンチ大戦争」です。それまでの学園コメディから一転、学生側(しかもまだ小学生)と戦争の記憶がまだ残っている教育委員会側とで行われた、まさに血で血を洗う大戦争の話です。ここで、永井豪先生は、あっさりと、しかも残酷に準主人公たちを殺してしまうのですが、それを描くことで、しかもギャグとして描くことで戦争の怖さと愚かさを当時の子供たちに示しました。それと同じようなことが、時と時代と国境(そう、国境というか国というのがこの映画の、そしてユーゴスラビアという今は亡き国のテーマでもあります)を超えて、この映画でも描かれています。
しかし/しかも、この映画は、たんにギャグと残酷さだけではなく、ある種の「美しさ」をも併せ持っています。タイトルになっている「アンダーグラウンド」とは、まだ第二次世界大戦が続いていると信じている(信じさせられている)人たちが暮らしている地下都市のことなのですが、そこで行われる結婚式のシーンは、ギャグであると同時に、なんともいえぬ不思議な、幻想的な美しさがあります。ウエディングドレスを着た花嫁は、幽霊のように地下空間を飛んでやってきます(もちろん仕掛けはあるのですが)、そしてその花嫁というか幽霊というかは映画の終盤では今度は地上にある海の中を泳ぎます(漂います)。そう、先にも述べたようにユーゴスラビアという国はもうありません(この映画が公開された1995年の時点ですでに体制は変わっており、国名としては2003年まではありましたが)。よってこの花嫁=幽霊がこそがある意味そのユーゴスラビアという国の象徴(あるいは暗喩)なのかなとも感じさせられました。
と、とにかくこの映画、一般的にはさほど知られていませんが、一度は見てみてもらいたい傑作というか大作です。超お薦めです!