アマゾンプライムお薦めビデオ③ 125 :何だこれは!?、強いて言えば、ブラックエクスプリネーション×日活無国籍アクション×実相寺昭雄×ホドロフスキー?『サン・ラーのスペース・イズ・ザ・プレイス』
「何だこれは!」としか言いようがない。ヤバい、そしてマズイ(いい意味で!)。決して上手くはない、「いい」映画ではない、しかし面白い、惹かれる、それがこの映画であり、それが鬼才サン・ラーの音楽であり、そしてサン・ラーという人物(というか宇宙人?)であり、その思想なのである。
まあ、映画についてはとにかく見てくれというしかないので(しかし、前回紹介した『不思議惑星 キン・ザ・ザ』同様、この手の映画が自宅でしかも無料で(もちろんプライム会員会費は払っているが)見られるようになったとは嬉しい限りである!)、今回は、この映画の主役である「サン・ラー」について紹介したい。日本語では「サン・ラ」と表記されることも多い、というかむしろそちらの方が音楽ファンにとっては一般的である。ジャンル的にはフリージャズに分類される音楽家である。当初はピアノを弾いていたようだが、後にはこの映画でも見られるようにシンセサイザーを弾くようになった。いや、「弾く」という表現が正しいかどうかも疑問である。むしろ「鳴らす」と言った方が適切だろう。
このお方、自分は土星から来たと名乗り、本名はもちろん、私生活は一切不明である。というかもちろん調べようと思えば今の時代いろいろ調べられるのだろうが、調べること自体が無粋である。そう、サン・ラは土星から来たのであり、彼の奏でる音楽は土星の音楽、さらに言えば宇宙の音楽なのである。サン・ラは宇宙と交信しているのであり、音楽はその交信の一部に過ぎない。サン・ラが伝えているのは宇宙からのメッセージであり、そのメッセージとは、一言で言えばすべての抑圧からの解放である。そしてその抑圧からの解放の思想というものと一番近かったのがたまたまフリージャズであったので、サン・ラは一般的にはフリージャズのアーティストと見なされるのだが、今の感覚で言えばむしろそれは「ノイズ」に近いと言えよう。しかし、サン・ラの音楽には「ノイズ」とは言い切れない、ある種の美しさ、メロディーとまでは行かなくても旋律と言えるのがあるのもまた事実である。そう、「すべての抑圧からの解放」とはノイズ=なんでもありではないのである。そこには秩序が、宇宙の秩序というべき秩序があるのである。そう考えると、サン・ラの音楽も理解できるし、この映画も理解できるであろう。そしてその点でやはり、サン・ラはジョン・コルトレーンの流れを受け継いだフリージャズの中でも、いわゆるスピリチャル・ジャズの人であるとも言える。コルトレーンはいわゆる「フリージャズ」化したその後期においても、同時に音楽としての美しさを捨ててはいなかったのだから。
しかし、先に「理解できる」と言っておいてなんだが、この映画もサン・ラの音楽も決して「理解」するものではないし、「理解」を求めるものでもないこともまた事実である。ブルース・リーのあの名言ではないが「Don’t think! Feel!」の世界なのである。とにかく見てくれ、とにかく感じてくれ、そういうしかない。その意味でも本稿のタイトルにも挙げた鬼才、ホドロフスキー監督作品(特に、『リアリティのダンス』以降の後期作品)とも通じるものがあると言えよう。両者とも、ある意味神秘主義である。そして両者とも決してそれを商業主義的に利用しているのではなく、それを本気で信じているのである(ホドロフスキーには『ホドロフスキーのサイコマジック』という映画と『サイコマジック』という単行本もある(ちなみに『ホドロフスキーのサイコマジック・ストーリー』という映画もあるがこれは別の監督によるもの))。この魅力、この映画としての『スペース・イズ・ザ・プレイス』の魅力にはまってしまった人は是非、サン・ラの音楽も聞いて(感じて)欲しい。彼が伝えようとした宇宙のメッセージとは何だったのか、それは単なる神秘主義なのか、あるいはそれを超えて本当に宇宙の真理というものに到達しうる何かだったのか、是非、あなたの耳で聞き、判断してほしい。