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BSプレミアムシネマお薦め⑲『アルプスの若大将』

さて、今回お薦めする映画はこちら、ご存じ若大将シリーズの7作目、『アルプスの若大将』です。こういう邦画の娯楽作品もたまにやってくれるという点でやはりBSプレミアムシネマは分かっています。

こういうタイプの映画は、今はほとんどなくなってしまいましたが、まだ娯楽の中心がネットやテレビではなく映画であった時代は、いわゆる「スター」による「ショー」としての映画というものがありました。後にそれはテレビへと移行しますが、しかし映画だからこそお金もかけられましたし、映画だからこそ壮大な絵を見せることができました。加山雄三さんによる若大将シリーズはその集大成にして最後の作品と言えるでしょう。ちなみに当時の併営作品はクレージーキャッツによる『クレージーだよ奇想天外』だそうです。クレージーの路線はのちにドリフに受け継がれますが、残念ながら加山さんの流れを受け継いだ「スター」及び若大将シリーズのようなスター映画はその後作られていません。「スター」を俳優として起用するのがスター映画なのではなく、「スター」そのものが映画に映し出されるのがスター映画です。

さて、この映画、当時では珍しい、そして貴重なヨーロッパロケを実現しています。今は亡きパンナム航空(パンアメリカン航空)とタイアップしていたようで、マドンナの星由里子さんはパンナムの職員という設定です。さらには当時大相撲の表彰式で、ユニークなイントネーションで日本語で表彰状を読み上げることで有名だった(さらには重いトロフィーを一人で持ち上げようとし、いつも優勝力士に手助けされることでも有名だった)パンナム極東地区広報支配人のデビッド・ジョーンズ氏も、映画の中でのテレビ画面においてですが、出てきます。と、当時の時代を懐かしむ(といっても私も生まれてはいないのですが)と同時に、そのかっこよさが全然色あせていないことにもまた改めて気づかされます。特にファッション!大学生という設定にもかかわらず常にスーツやジャケットをビシッと着こなしている加山さんはもちろんですが、いわゆるコメディリリーフ役の青大将こと田中邦衛さんの柄物ジャケットもかっこいいです(当時としては気障な金持ちのボンボンという演出だったのでしょうが、しかしそれでもかっこいい)。邦衛さんについていえば、乗り回している車もまたかっこいい!そして女優陣のファッションも、今でも通用するおしゃれさです。そしてそのファッションがまたTPOにピタッとあっている。自宅での加山さんは基本的にアイビールックですし、スポーツ時(今回はスキー)ですが、本格的な運動部という設定もあってか、本格的な、そして最新の(もちろん当時の)スキーウェアーを着こなしています。

TPOつながりで言えば、それぞれのシーンの舞台がまたいい。今回はスキー編なのでスキー場はもちろんですが、ちゃんと一般用のコースと競技用のコースを使い分けていますし、苗場もホテルと山小屋(ロッジ)をちゃんと使い分けています。そして加山さんの実家の設定が、老舗のすき焼き屋というのもまたいい。この和風の豪華建築(自宅兼店舗)の自室でアイビールックの加山さんがくつろいでギターを持って歌を歌う(基本的にショー映画なので歌のシーンは当然何回も出てきます)ところも絵になりますし、また苗場のホテルで開催されるパーティーシーンでは、今度はジャケットをビシッと着こなした加山さんがエレキを持って登場します。そしてそのバックで演奏しているがブルージーンズだったり、スキー審で出てくるのが当時の一流プロスキーヤーだったりと、とにかく本物を本物の舞台で使う、それをフルカラーの大画面映像で撮影する、しかし主役はあくまでスター、本物の舞台に本物のスターが立つ、これがスター映画、ショー映画の基本です。この映画ではスキー大会のシーンも出てきますが、これもおそらく実際に大会を開催したのでしょう。加山雄三というスターのためのスターによる映画、しかしそこに出てくるのは加山雄三本人ではなくあくまで「若大将」というキャラです。が、観客は「若大将」というキャラを通してあくまで「加山雄三」というスターを見ていたことは事実でしょう。これもスター映画の基本構造です(つまりその意味では「加山雄三ショー」ではなくあくまで一本の映画として作られている。そしてちゃんとその映画としてのストーリーもご都合主義的ではあるが面白い)。しかし、こうなると今度は「若大将」=加山雄三となってしまいます。多くのスターはそのギャップに悩むのですが、加山さんは悩みません。なぜなら「若大将」というキャラ自体が加山雄三さんに合わせて作られたものだからです。つまりキャラが先にあったのではなく、キャラは加山さんの一面を前面に押し出したものに過ぎないからです。だからこそ加山さんは今でも「永遠の若大将」を名乗っていられるのです。

と、とにかくかっこいい!とにかくおしゃれ!とにかくスター!今見ると逆に新鮮な映画です。お薦めです!

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