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アマゾンプライムお薦めビデオ④ 173:やりたいことをやるにはやりたいことをやり続けること!鬼才井口昇監督の忘れられた傑作!『恋する幼虫』
井口昇監督と言えば、我々特殊映画ファンにとっては『片腕マシンガール』がその出世作であり、『悪の華』が「特殊」を超えて「一般」の域にまで到達したその最高傑作であるが、それ以前に既に『悪の華』に匹敵する傑作を撮っていた。というかこの作品が当時はそれほど評価されなかったからこそ、後に「じゃあ、売れてやろう」と想い、『片腕マシンガール』以降の一連の傑作、そしてその集大成としての『悪の華』が生まれたと言っていいであろう。そう、これが出発点であり、到達地点であると言意味での傑作がこの荒川良々氏をはじめとした劇団大人計画の面々が(というか井口監督もその「面々」の一員である)出演している『恋する幼虫』である。このような隠れた名作がアマゾンプライムビデオで観ることができるようになったとは、まさにいい時代であり、その時代に生きていられることに感謝している。
井口監督の一般的なイメージはエロやグロを「笑い」というファクターでくるんだ、というイメージであろう。特に『片腕マシンガール』に続く『ロボゲイシャ』以降は、そのタイトルも含め「面白」要素がかなり前面に出ていたし、だからこそ人気も出たし、売れた。その監督が、シリアス方向に舵を切ったからこその傑作が『悪の華』なのだが、この人もともとシリアスだったんだと改めて教えてくれるのがこの『恋する幼虫』である。さらに元をたどれば、井口監督の映像作家としての原点は、いわゆるアダルトビデオにあるのであるが、かの『監督失格』の平野勝之監督をその業界での師として仰いであるだけあり、「いつかは映画を」という想いはあったのだろう。実際、さらに元をたどれば学生映画出身でもある。アダルトビデオという酸いも甘いも満ち溢れている世界を経験してきたからこそのエロでありグロであり、さらにそこに笑いや演劇(自身も俳優として劇団大人計画に所属)も取り入れていった貪欲さ、その貪欲さのまさに最中に撮られたのがこの『恋する幼虫』である。そのため、映画の完成度としては確かに今一つかもしれない。でも、その完成度を脳内で補う力があるのが、我々観客なのである。そう、観客とは決して「見る」だけの、一方的な受け身の存在ではない。「観る」という能動的な活動を行う存在なのである。その意味でまさに「眼」が、もっと言ってしまえば『眼球』がこの映画の一つのテーマとなっているのは意味深でもある。
とにかく、恐らく多くの人がこの映画はまだ見ていないであろう。たしかに見る人を選ぶタイプの映画ではあるので、万人にはお勧めできないが、私個人としては是非お薦めしたい一本である。