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アマゾンプライムお薦めビデオ③ 122 :巨匠だからこそできる一見普通でありながら重厚な映画『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』

さて、今回お薦めする 作品は、巨匠スピルバーグ監督の社会派ドラマ『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』です。

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言わずと知れたスピルバーグ監督ですが、この映画、決して派手ではありませんが(というかほぼ同時期にあのガンダムもメカゴジラも、AKIRAのバイクも出てくるある意味ド派手な『レディ・プレイヤー1』を撮っていたのだからその振り幅には改めて驚かされます)、映画としてある意味完璧です。脚本もいい、カメラの動きもいい、演出(撮り方)もいい、役者の演技もいい、といい点を挙げるときりがありません。いちいち例を挙げるまでもなくすべてのシーンに無駄がなく完璧で、まさに「映画の教科書」と言っていいでしょう(時間的にも2時間を切りちょうどいい!)。個人的には、ある意味クセの強い映画の方が好きなのですが、こういった作品を見せられると、これが巨匠の巨匠たるゆえんなんだろうな、とただただ頭が下がります。

ということで今回は映画そのものというよりも、映画の内容について触れたいと思います。この話、いまさらですが、実話がもとになっています。そして普通であればその実話の方を、その機密を漏らした(漏らしたというか、敢えて公開した)人物やそれを最初にスクープした新聞社の方を主役に持ってくるでしょう。ところがこの映画はそうではありません。一番目にスクープしたほうではなく2番手となってしまった新聞社のほうを敢えて取り上げています。そしてストーリーはその新聞社が経営危機を乗り越えるべく株式を公開しようとするところから始まります。つまり、この映画は、政治という名の統制と新聞という名の報道の自由の対立の話でもありながら、資本主義という名の下で行統制(株主によるコントロール)とそこからの自由、あるいは闘争の話でもあるのです。政治による統制はある意味分かりやすい統制であり、分かりやすい敵です。一方資本主義という名による統制はどうでしょうか。これはもはや統制とは言いにくいものです。なぜなら株主が会社をコントロールするというのはある意味国民が政治側を統制することとイコールなのですから。そしてそれ故に「民主的」なのですから。

しかし、政治力のあるもの、つまりは権力を持つものが政治を行うことが危険であるのと同じように、資本力があるものが会社を動かそうとすることもこれも同じように危険なことです。この映画の中では、当時のニクソン政権に対し「やっていることが共産主義ではないか」というようなセリフがありますが、しかし、そもそも共産主義とは資本主義の矛盾の解消を目指した運動だったはずです。問題なのはそこで力を持ってしまったもの、あるいは力を持ってしまった政党が、今度はその力ゆえに独裁的となってしまった点にあります。その意味で歴史は繰り返すと言えるでしょう。資本主義と自由主義、違う言い方をすれば資本主義と民主主義とを結びつけるのはその意味で危険です。自由であるには、資本の力からも自由でなければならないからです。この映画ではそこまでははっきりとは描いていませんが(というか表面的に見れば国家権力対報道の自由という構図にとどまっていますが)、しかし、大女優であるメリル・ストリープの存在が、あるいは存在感をも演技と捉えればその演技自体が、まさにそれを示していると言えるでしょう。彼女(というか役の中での彼女)は決して自信家ではありません。悩む存在ですし、板挟みに苦しむ存在です。そして、彼女自身はトム・ハンクス演じる人物のような新聞記者、すなわちジャーナリストでもありません。彼女はあくまで経営者です。しかし、最終的に彼女を突き動かすのは経営者としての自分ではなく、「新聞人」としての自分です。そしてその「新聞人」であることとは、新聞記者ではなくてもジャーナリストであるということであり、ジャーナリストであるということは、言ってみれば全ての拘束に対して、戦うということです。

その考えると、彼女が法廷から出てくるときに彼女を見つめる女性たちの姿が改めて印象的に見えてきます(というか敢えてこのようなシーンを入れたのには当然何らかの意図があってのことでしょう)。これらの女性たちを拘束していたのは当時の社会そのものだったからです。彼女たちにとってはメリル・ストリープ(繰り返しますが、あくまで役の上でのメリル・ストリープ)は、国家に対し戦った女性というよりも、当時の民主主義や資本主義、つまりは、表面的には民主的な思想を唱えながらも、その裏で女性たちを拘束していた社会に対して戦いを挑んだ女性なのです。

ということでこの映画、政治を扱っているからという意味で社会派なのではなく、まさに社会を扱っているという意味で社会派の映画です。そしてこれも既に述べたことの繰り返しになりますが、映画としてもある意味完璧です。是非、ご覧ください。


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