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アマゾンプライムお薦めビデオ④ 162:深く、そして面白い。哲学(存在論)とエンターテイメントの融合点。映画『不都合な記憶』

この映画、アマゾンプライムビデオで世界配信されていることが物語っているように(というかアマゾンプライムオリジナルであることがもったいない。もっといろいろなところで配信されればもっともっと評価が得られる作品であるはず!)、まさに世界に届く映画である。そしてこの国際色あふれるエンドロールを見るまでもなく、監督である石川慶氏も、まさに世界に通じる、というか世界を相手にできる映画監督である。

「愚行録」「蜂蜜と遠雷」「ある男」「アーク」と我々を魅了してきた石川慶監督が盟友とも言える撮影監督であるポーランド出身のピオトル・ニエミイスキ氏と組んだ今作もまた傑作中の傑作である。ある意味ネタバレとなるため敢えてストーリーについてはここでは書かないが、「ある男」で芥川賞作家の平野啓一郎が言うところの分人主義を描き、「アーク」で現代SFを描いた石川氏がここに来て、これを撮ったということは当然の帰結と言えるかもしれない。一言で言うと、私というものは常に複数であり、私を単数として捉えるものに対しては、たとえそれが一度は愛した人であっても「No」と言わなければいけない、というのが私がこの映画から受け取ったメッセージである(そして私はそのメッセージを全面的に肯定する)。

繰り返すがストーリーについて触れるとネタバレとなるため(と言いながらほとんどの映画紹介サイトではもうほとんど書かれているが)、今回はその映像的美しさを前面に推したい。宇宙のシーンこそCG感がどうしても否めないが(そう考えるとキューブリックの『2001年宇宙の旅』はやはり傑作!)、撮影監督であるピオトル・ニエミイスキ氏が今回も腕を振るっており、映像の美しさにまずは魅せられるだろう。小道具一つ一つのデザインやその撮り方にもしっかりとこだわっている。そして何と言っても、主演の新木優子氏の圧倒的な美しさ!彼女がスクリーンに映るだけでまさに絵になる。さらに言えば伊藤英明氏も良い。美形俳優でありながら、「この人ヤバいな」という雰囲気を醸し出せるのは、彼ならではである(『悪の教典』での役もよかった!)。

そして、恐らく日本の人にとって今回が初見となるのがタイの俳優であるジアッブ=ララナー コーントラニン氏であろう。2006年ミスタイランドに輝いた彼女であるが、2014年度には自らがタイで言うところのトムボーイであることをカミングアウトしている。そしてその中性的な魅力はこの映画のテーマとも見事にマッチしている。男性か女性か、と言ったことなどは問題ではない。男性でも女性でもある生き方もできるという意味で。


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