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40. 追悼 高橋幸宏氏:”チュルドレン”達と作り上げたTechnoise Rockバンド「META FIVE」

YMO世代である我々はもちろん、その上の世代にも下の世代にも多大な影響を与えた氏の逝去はショックというか喪失以外の何物でもないが、盟友である細野晴臣氏が言ったように物語は終わっても本は消えることはない。氏の音楽はこれからの新しい世代にも間違いなく影響を与えるであろう。

さて、先にYMO世代より上の世代にも下の世代にも、と書いたが、氏はソロとしてというよりもバンドやユニットにおいて活躍した人物であり、だからこそそこに凄みと強さがある。ソロやある特定のバンドのみで活動するのはある意味楽である。しかし氏はそれを選ばなかったし、様々なバンドやユニットで活動するとともにしっかりとそのそれぞれで成果を残してきた。YMOなどもむしろその幅広い氏の活動うちの一つなのであろう。サディスティックミカバンド、サディスティックスとしての活躍から始まり(というか調べてみたら、それ以前にすでに高校生の時点でスタジオミュージシャンとして活躍していたとのこと。改めてその才能の開花の速さに驚かされる)、YMOやその後のスケッチショーはもちろん、ムーンライダースの鈴木慶一との「ビートニクス」もあるし、あの原田知世もボーカルとして参加している「pupa」もある。

そして今回、改めて取り上げたいのが、氏のキャリアとしては残念ながら晩年のものとなってしまったが、小山田圭吾、砂原良徳、TOWA TEI、ゴンドウトモヒコ、LEO今井、といったまさに氏の影響を大きく受けた”高橋チュルドレン”と言ってもいいメンバーとともに結成された「META FIVE」である。このバント、決してチュルドレン達による高橋レスペクトだけのバンドでもないし、チュルドレンがレジェンドを引っ張り出してきて、「あの頃の音楽を我々で」、というようなものでもない。レジェンドにレスペクトをささげた上で、しかもそのレジェンド本人自身がさらに新しいことにチャレンジしているバンドである。タイトルにおいて「Technoise Rockバンド」という言い方をしたが、もちろんこれは私の造語である。いわゆる再結成前のYMOはそのキャラクター付と言う意味もあったのであろう「無機質」という側面を前面に出し、「テクノ」(正確に言えばYMOの場合は「テクノポップ」だが)という当時はまだ目新しかった音楽を広めていった。よって、コンピューターによる電子音のリズムに高橋氏の生ドラムを重なるという斬新なスタイルにおいても、そのドラムの「生々しさ」は抑えられていたと言えよう。一方、META FIVEはテクノを取り入れながらも、そこにさらに生々しさと荒々しさと取り入れている。高橋氏のドラムはもちろんだが(しかし、ドラムを敢えて叩いていない曲もある)LEO今井氏のホーンも様々なエフェクトが加えられたうえでの生音であるし、小山田氏のギターはうなっているし、ゴンドウトモヒコ氏のボーカルはシャウトしている。そう、YMOが「テクノポップ」であったとしたら、META FIVEは「テクノロック」であると言っていいであろう。そしてこのバンドにおけるもう一つの特徴はさらにそこにノイズサウンドを追加している点である。TOWA TEI氏はまさにノイズ担当として参加している。ノイズ自体は基本的に電子音であるが、いわゆるドラムマシンが電子音の特徴の一つである反復性、リズムパターンの方を代表するのであれば、ノイズは電子音の特徴のもう一つの側面である「ゆれ」や「歪み(ゆがみ/ひずみ)」を代表している。そしてその「ゆれ」や「歪み」はやはりポップよりもロックと相性がいい。クールにしてホット、それがこのバンドの特徴であるし、だからこそこのバンドはカッコいい。そう、とにかく音的にも絵的にもとにかくかっこいいのである。

そのカッコよさを体験するには「ラストアルバム」と銘打たれた『METAATEM』がやはりお薦めである。1作目の『META』では少しセーブされていた感のあるその「生々しさ」と「荒々しさ」がこちらはより強調されている。さらにはこのアルバムのデラックスエディション版には2016年に行われたライブの模様を収録したブルーレイも収録されている。このライブは『METAATEM』販売前の物なので、その演奏曲は当然『META』からのものが中心だが、ライブではCD等のいわゆ「音源」ではある程度セーブされているその生々しさと荒々しさが、クールをベースにしたうえで最大限に発揮されていることが改めて確認できる(どこまで本当かは分からないがこのバンド結成時の仮の名前は「高橋幸宏とクール・ファイブ」だったという話もある)。その映像演出やステージ上での各メンバーの立ち位置や演奏なども含めてとにかくカッコいいの一言である。クールにしてホットとはまさにこのことであろう。

高橋氏が亡くなられた今、残されたバンドメンバーにとってはもはやこのバンドを今後も続けていくモチベーションはもうないのかもしれない。しかし、サディスティックスやYMOも高橋氏にとってはそのキャリア=財産であったように、チュルドレン達もこのバンドでの音作りをそのキャリア=財産としてこれからも継続発展させてくれることであろう。もちろんメンバーの中には既にレジェンド級の人も多くいるが、高橋氏のキャリアに比べればまだまだであろう。次の世代には彼らのチュルドレン達が、そのキャリアを踏まえた上でまた新しい音作りをしてくれるはずである。



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