B'zのアルバム人気ランキング最下位の作品を聞いて思ったこと
皆さんは、邦楽ロックバンド、B'z(ビーズ)のアルバムでどれが一番好きですか。B'zは1988年のデビューから現在まで、22枚のオリジナルアルバムを発表しました。アルバムを発売順に聞いていくと、壮大な邦楽史の進歩と、B'z自身の変化を感じます。デビューしてから35年の間、ブリたちに多くの名曲を届けてきました。2023年9月21日に、B'zはデビュー35周年を迎え、SNSではファンからたくさんのお祝いが贈られています。
彼らがデビュー20周年を迎えた2008年には、「日本で最もアルバムを売り上げたアーティスト」(CD媒体で)として、ギネス記録に認定されました。
ある日、インターネットの記事で、B'zの歴代オリジナルアルバムで好きな作品は何か、読者からのランキング投票を見ていました。以下結果です。
ランキング10位内には、彼らが飛躍し始めた1991年、全盛期である1992~1999年の作品、原点回帰の作風に変わった2000年代、新たなファンが増加した2010年代の作品がランクインしました。ブリは、1~5位のアルバムを全曲も歌えるほど聞いたので、最も順位が低かった作品に注目したくなりました。以前書いた、別デュオのアルバム記事と同様、隠れたところを気にしてしまいます。
最も順位が低かったアルバムは、1988年9月21日に発売された『B'z』でした。このアルバムは、CD・カセットテープ・アナログレコードとして発売されました。収録シングル曲は、彼らのデビュー曲『だからその手を離して』のみで、アルバムとシングル曲が同時発売されました。
ブリは驚きました。バンド名がそのまま作品名になったアルバムで、デビュー日を迎えた彼らが出した、最初の作品があまりにも低い立ち位置になってしまって、ブリは首をかしげました。
このアルバムに対する、B'zファンの反応は以下の通りです。
このアルバムからB'zを聞き始めたファンは、俗に呼ばれる「最古参」のファンです。もし、この頃のB'zを知っている少年少女がいたら、今は50代後半の方々に当たると思います。デビューしたばかりの彼らを見ていたファンは、ここまで知名度が高く、数々の業績を作り、長く活動しているアーティストになるとは、想像しなかったと思います。ボーカリストの稲葉浩志(いなばこうし)、ギタリストの松本孝弘(まつもとたかひろ)なる名前は、「稲葉さん」「松本さん」と呼ばれ、誰もが知るアーティストとなりました。
この記事では、ブリが記念すべき最初のアルバム『B'z』を100周聞いて、思ったこと、なぜこのアルバムがこんなに知名度が低いのか、まとめました。このアルバムの立場をからかう記事ではありません。ブリの独自解釈なので、あくまでも一例として受け取ってください。
☆なし崩しの様子からデビューした作品
B'zは長い活動期間を持つバンドなので、聞いている世代によって、彼らの代表曲、音楽イメージが違って見えます。ブリは子供時代に、1990年代後半のB'zから知ったので、「まさにロックバンド」「ハードロック作風」のイメージを持ちます。デビューしたばかりのB'zは、全くハードロックな感じがありません。「昔は打ちこみビートだった」という雰囲気です。このアルバムをよく知らない理由は、1990年代の代表曲『LOVE PHANTOM』、2000年代の代表曲『ultra soul』からのファンには、「昔の音楽」に聞こえてしまうからです。一方、初期の代表曲『太陽のKomachi Angel』からのファンには、親しみやすい様子があります。
(彼らが結成した流れ、初期曲に感じた印象を書いた感想はこちらの記事へ)
B'zがデビューした、1988年当時の邦楽界は、邦楽ロック界では2度目のバンドブームがそろそろ起きようとしていました。アナログレコード中心だった邦楽ファンの間では、CD媒体は広まったばかりでした。彼らのデビュー発表は、派手な宣伝もなく、淡々とデビュー発表の知らせが音楽店や音楽雑誌で流れました。
B'zは4ヶ月間の打ち合わせで、結成されました。松本さんは自分のバンドを作るなか、技術力だけではなく、良い人間性と歌声を持ったボーカリストを求めていました。ある日、音楽事務所のプロデューサーを通して、手にしたデモテープの歌声を聞いて、松本さんはその歌声を選びました。その人は、音楽事務所が運営するボーカルスクールに通っていた、稲葉さんでした。松本さんは、まだ顔を見ぬ稲葉さんが「良い人であってほしい」と願いながら、すぐに彼をボーカリストを選びました。
松本さんは稲葉さんの顔を初めて見ました。稲葉さんを見て、松本さんは彼におとなしい印象を持ちました。数々のアーティストたちのサポート演奏をして、ギタリストの活動経験を積み重ねていた松本さんと違って、稲葉さんは、高校時代にバンド活動をしていただけで、まだ経験値が浅いボーカリストでした。松本さんと稲葉さんは、これからのバンド活動の目標について、話し合いました。
稲葉さんは、松本さんから邦楽界で有名な雑誌やランキングの話を聞いても、何も知りません。用語を知らなくても、「デビュー3年以内に音楽雑誌の表紙になって、音楽ランキングの上位へ行く、売れるバンドを目指す」という目標を理解しました。いつの時代も、すぐに売れないと、レコード会社から見捨てられてしまうからです。
松本さんと稲葉さんは、レコーディングスタジオで、セッションをしました。本格的に演奏したわけではなく、アンプがうっかり壊れてしまうまで、軽くセッションを行いました。松本さんは、稲葉さんとは一回も「バンドをしよう」とは言いませんでした。軽いセッションのなかでも、松本さんは稲葉さんとうまく行きそうだと、確信しました。
以上の出来事が、B'zのデビュー日までの4ヶ月間でした。
B'zは最初のアルバム『B'z』を制作しました。音楽事務所の制作スタッフに聞かせるために、アルバムの楽曲を作り出しました。稲葉さんにとって、初めての作詞でした。こうして、後に多くの名曲を作る、変幻自在のモンスターバンドが、デビューしました。
ブリは、まだ邦楽界のことを知らない人間だった、稲葉さんの様子に共感しました。結成話を知って、これからバンドがどうなっていくのか、わくわくしました。松本さんはいきなり大きな目標へ向くのではなく、できるところから、小さな目標を作って、活動していく姿勢に関心しました。
☆邦楽の最先端へ向かう2人
初めてアルバム『B'z』を聞いた時、とにかくB'zのようだけど、ブリの思うB'zじゃない感じでした。ダンスミュージックが流行していたなか、シンセサイザーが奏でられ、松本さんのギターは後ろで響いている感覚がしました。
稲葉さんの歌声は、ブリの知る力強く鋭いハイトーンな感じではなく、声が硬く、一つひとつの言葉を歌うようなフレーズでした。ただ、初期の頃から力強さがある歌声の印象がありました。
楽曲のメロディーは聞きやすく、キャッチーで覚えやすい感じがありました。B'zの楽曲の特徴である、「キャッチーなメロディー」がこの頃からあったと気づきました。
歌詞は、英語歌詞が多い様子です。後のB'zの楽曲は、日本語が多く、最低限の英単語のみにしぼった作風が定まっています。でも、難しい英語ではないので、歌詞の意味はつかめます。ただ、『太陽のKomachi Angel』のような遊び心ある題名はありません。
収録曲の大半は、恋愛を描いた楽曲になっています。デビューシングル曲『だからその手を離して』は、松本さんのギターが響く印象的なイントロと、好きな人の未練をしつこく吹っ切る、ツッコミどころあふれる歌詞を稲葉さんが歌います。
ダンスパーティーを楽しむ女性を主人公にした『Half Tone Lady』は、珍しく女性の主人公を描いた楽曲です。恋愛に涙する人を呼んで、スローで冷たいビートが響く『ハートも濡れるナンバー』、一人ぼっちで刺激を求めてパーティーで踊るダンスミュージック『孤独にDance in vain』、好きな相手を一途にロマンスを求めるアップテンポな曲『It's not a dream』。憧れの美人に気に入られたい心境を歌うステップを踏んだ曲『Fake Lips』。パーティーやおしゃれな女性が登場する雰囲気が、1988年当時の好景気の文化が見えます。
恋愛の楽曲だけではなく、迷いを描いた楽曲があります。夢で落ちこんだ人に前向きに現実に向き合う楽曲『ゆうべのCrying』、別の道へ向かう相手に何もできないさびしさを歌うスローバラード曲『Nothing to Change』、雨の中で想い人を呼ぶ光景を描いたポップスロック曲『君を今抱きたい』。何かに振り回されながらも、現実に向き合う主人公を描いているのが、B'zらしい主人公の描写です。
実は、一部の楽曲は別の作詞者と作曲者が担当しています。『Nothing to Change』は稲葉さんが書いた歌詞ではなく、エッセイストの亜蘭知子(あらんともこ)さんが作詞しました。『孤独にDance in vain』は松本さんが作曲した楽曲ではなく、作曲家の大槻啓之(おおつきひろゆき)さんが作曲しました。こうなってしまった理由は、2人はもう作るのに疲れてしまったからです。
全くハードロックな楽曲はありませんが、後のB'zにも通じる「キャッチーなメロディー」、「何かに振り回される主人公の心境」、それらの作風を作り出しています。
☆後に生まれ変わった楽曲たち
実はこのアルバムの一部の楽曲は、後に再録されました。『君を今抱きたい』は、ミニアルバム『BAD COMMUNICATION』で、『OUT OF THE RAIN』と曲名を変えて、英語歌詞のダンスミュージックとして、再構築されました。
『ハートも濡れるナンバー』は、アルバム『The 7th Blues』で、『SLAVE TO THE NIGHT』と曲名を変えて、英語歌詞のブルース作風の楽曲として、再構築されました。
デビューシングル曲『だからその手を離して』は再録されて、裏ベストアルバム『Mixture』に収録されました。シンセサイザーが響く作風から、B'zらしいハードロック作風に生まれ変わりました。
後のB'zの活躍により、これらの楽曲は代表曲からファンになった人々から、知られるようになりました。
そして、アルバム『B'z』の次で、いよいよ彼らの個性が大きく成長していきます。
(次のアルバムについての感想は、こちらの記事でどうぞ)
☆まとめるとまだ個性が出る前のデビュー作
以上、B'zの最初のアルバム『B'z』を聞いて、思ったことをまとめました。
このアルバムを初めて聞く人に簡単に説明すると、「まだ個性が出てくる前のB'zのデビュー作品」として、受け取ってください。ハードロックなイメージを持っている方には、とにかくダンスミュージック作風のギャップに驚くと思います。でも、よく聞くと作風は違うけど、作り出す楽曲の内容は後の楽曲と変わらないと、気づきました。
今日まで25年ぐらい、B'zの活躍を見てきて、最新曲から過去の作品を振り返っていくなかで、今まで気づかなかった彼らの個性を再発見する機会が増えました。彼らのデビュー作品を聞いて、彼らの一歩が後の活躍になっていったことに、大きく感謝しています。