見出し画像

スズキさん家の音楽部屋 #5~Sakura_Odyssey:Neo-Generation/丹下桜~

前回記事(#4 Sakura_Odyssey:Alice/丹下桜)はこちら

40過ぎのおっちゃんの音楽部屋へようこそ!家主のスズキと申します。丹下桜さん特集ですが、1stシーズンでご紹介するフルアルバムは今回がラストとなります。

1999年10月22日にリリースされた4thアルバム『Neo-Generation』をご紹介します。


M0 アルバム概要

M0-1 Activities in 1999

99年の桜さんの活動は、前回ご紹介した「Alice ON WONDER-NET」が3月まで放送、「CCさくら(クロウカード編 1期)」が6月まで、そして「CCさくら劇場版」が8月に公開されました。

それからFM番組のラジオドラマとアニメ、さらに今回の音楽活動と、この年も盛りだくさんだったようです。多忙な状況が続いていますね。繁忙を極める中、素晴らしいアルバムを作り、こうして未来に残してくださったことに本当に感謝しています。

M0-2 参加クリエイター紹介

今回の「Neo-Generation」では、これまでの作品とは大きく制作陣が変わりました。今作ではサウンドプロデューサーに「岡田実音」さんを迎え、収録曲のうち5曲が岡田さん制作の楽曲残り7曲がこれまでのクリエイター陣による制作という試みが行われました。

岡田さんは主にボイストレーナーとして活躍されており、なんと「TKファミリー」のボーカリストのトレーナーも担当されていたとのことです。その中には「tohko」さんもいらっしゃいました。

このnoteを自己紹介回から読んでいただいている方は覚えていますか?私が桜さんを「tohkoさんみたいだ」と例えたことがありましたよね。まさかこれほどの巡り合わせがあるとは…。この事実を知った時には震える思いでした。

桜さんと岡田さんの出会いについてですが、こんなエピソードがあるようです。

 7月23日にシングル「Bright shine on Time」を発売することになりました。プロデュースを岡田実音さんという女性の方にお願いしました。これまでに西田ひかるさんなどを手掛けていらっしゃいます。

 ゲームか何かの打ち合わせでコナミの人が岡田さんの事務所に行ったとき、岡田さんがうたっているデモテープを聴いたんです。素敵な曲ばっかりだったので、そのたくさんあるストック中から今回、この曲を選びました。

丹下桜のサイバー日記(1999年7月7日)より

先行シングル「Bright Shine~」と「TO LOVE」は、岡田さんのストック曲が採用されたものです。プロデュースにおいて、最初の楽曲にストック曲が使われることはよくあるケースなので、桜さんの場合も同様のパターンだったのかもしれませんね。

岡田さん制作の楽曲はすべて作曲が岡田さんアレンジは高島智明さんとの共作です。お二人の経歴を調べたところ、後にAKB48ももいろクローバーZといった平成アイドルの楽曲も手掛けていたことがわかりました。

今回は楽曲ごとに制作陣が総入れ替えのようなラインナップになっていますので、勝手ながら以下のように表記したいと思います。

さくらチーム」※これまでのクリエイター陣の制作
岡田チーム」※岡田さん、高島さんの制作

Create by Munetaka"kool"Suzuki

これまでの制作陣には、今回も作曲を担当する朝井泰生さん吉田潔さん松浦有希さん、アレンジを手掛ける福田裕彦さんが参加されています。今回も「安心安定の福田さん曲」が登場するので、どんな楽曲になっているのか楽しみです!

そして、今作で最も重要な出来事は、新たな作曲家が加わったことです。

桜さん作曲の楽曲が登場します!!!

どうやら多忙の合間に少しずつフレーズを書き溜めていたようで、今回ついにその努力が作品として結実しました。作曲についてエピソードがあります。ほぼ全文引用になってしまうため迷いもありましたが、非常に重要なエピソードなので、しっかり引用させていただきました。

そのやりたかったことのひとつが一人で楽曲を作ること。今回、アルバムの最後に「Trinity」という私ひとりでつくった楽曲が入っています。

 私は曲を聴く場合でも技術的なことよりも、耳で聴いていいなあって感じるほうなんです。ですから、ピアノを習っていたから譜面は読めるのですが、曲を作るときは最初は鼻歌なんです。心に浮かぶもの、それが結局はいい曲になるではないかと考えているのです。鼻歌でうたったものをレコーダーにとって、あとで鍵盤でメロディーとコードをつけてまとめます。それをプロデューサーに渡して、こんな感じですって作ってもらうのです。

 でも、この曲のサビは街中を歩いているときに思い浮かびました。それも、昼間の虎ノ門で。譜面にすることができないから、急いでお家の留守番電話に思い浮かんだメロディーを吹き込もうと考えました。ところが、ご存じの通り、虎ノ門は官庁街、ビジネス街ですからサラリーマンや人がた~くさん。一人で携帯電話に向かって「ラララ~」なんてやっていたら変ですよね。だから、路地に隠れて、お願い!人来ないで!と思いながら自分の家に電話しました。これって、すっごい不審な奴ですよね、人から見ると。

 そのあとも、何度もこのサビが思い浮かんでくるので、これは自分の体内から出てくる好きな音なんだと思い、このサビで曲を作ろうと思いました。

丹下桜のサイバー日記(1999年10月27日)より

桜さんはフレーズ先行タイプだったのですね!恥ずかしながら、私もオリジナル(と言ってもほぼ大ちゃん風ですが…(苦笑))を制作したことがありますが、良さそうなコード進行を作ってからメロディを考える手法を取っていました。小室先生がよく用いられるパターンです。

こっそり留守電にフレーズを吹き込んでいる姿を想像すると、ちょっと微笑ましいですね(笑)。どんな楽曲になっているのか、とても楽しみです!

M0-3 アルバムコンセプトなど

リリース日 1999年10月22日
レーベル KONAMIレーベル(キングレコード)
オリコン最高位 20位

丹下桜/Wikipediaより

※2024年12月現在、サブスク配信(AppleMusic、Spotifyなど)なし。

本作のコンセプトについては、桜さんから非常に具体的なイメージや方向性のリクエストがあったようです。エピソードを調べる中で驚いたのは、桜さんがセルフプロデュースをしているのでは?と思える点です。

アスリートなどに多いのですが、活躍される方は自己を客観視する力に長けていますよね。桜さんのエピソードを見ていると、96年から数年間これだけの実績を残せたのは、その客観視する力が大きな要因だったのではないかと感じました。

ここ数ヶ月、改めて桜さんと向き合い過去から現在までを辿る旅を続けていますが、新たな発見がたくさんあり、桜さんをより好きになりましたし、リスペクトの気持ちも一層強まりました!さて、そろそろ本作のコンセプトに関するエピソードを紹介しますね。

今回、アルバムをつくる上で2つやりたいことがありました。ひとつは東洋っぽいニュアンスを出すこと。もうひとつは小宇宙をイメージしてみました。

 3月にシングル「ワンダー・ネットワーク/プライペート・リンク」出したときはラジオ番組をやっていて、そのオープニングとエンディングテーマでした。ラジオとかインターネットという外の世界につながっている雰囲気を「ワンダー・ネットワーク」では出してみました。その流れでミニアルバム「アリス」を今年3月に作りした。

 そして今回はカップリングの「プライペート・リンク」寄りのアルバムにしようと思っていました。ちょっとインナーな感じを出して。3枚目のアルバム「ニュー・フロンティア」のときからそうだったのですが、ものごとの二面性を描いてみたいと思っています。強さとやさしさとか、光と影とかをひとつの楽曲で表現できたらなと思っています。歌詞の中で具体的に言っているわけではないのですが、そんな雰囲気の楽曲を選んでみました。

 アルバム12曲中、5曲をシングル「TO LOVE」でおなじみの岡田実音さんにサウンドプロデュースをお願いしました。ほかの方にも、インナーな感じやスペイシーな世界で統一していただけるようにお願いしました。

 また、今回初めて作詞作曲に挑戦しました。アルバムの最後に私ひとりで作詞作曲した「Trinity」という楽曲を入れています。「プライペート~」のときから、いつかはひとりで作ってみたいと思っていたのですが、それが今回、実現しました。

丹下桜のサイバー日記(1999年10月13日)より

このエピソードに出てきたコンセプトを少しまとめてみたいと思います。

  • 東洋っぽいニュアンス

  • 小宇宙

  • インナーな感じを出してものごとの二面性を描く

  • 強さとやさしさ、光と影

記事作成にあたり、じっくりと聴き込んだのですが、まさに先述の通りの世界観がしっかりと描かれていました。また、私自身、このエピソードもアルバムコンセプトとして重要なのではないかと考察しました。

曲によって、やさしくうたおうとか、元気にうたおうとか考えていたときもありますけど、最近はかえって何も考えないようにしていたのです。でも今回は、岡田さんにレッスンをつけてもらい、アドバイスされた通りに表現しようと一生懸命でした。

 歌詞の意味をよく理解して、その気持ちでうたう…というのがどちらかというと私のパターンだったのですが、岡田さんは「音の響き」を大事になされる方なんです。ですから歌詞に出てくる言葉も同じ意味でも「ここはこの言葉でないと」とひとつひとつに思い入れがあるようです。

 「Bright shine on Time」はメロディーも夏っぽいし、うたっていてとっても気持ちがいいです。歌詞も意味をよく考えるというより「キラキラした雰囲気」が伝わればいいなって思います。

 今回のレコーディングは岡田さんの助言を受け“まな板の上の鯉”になってうたいました。

丹下桜のサイバー日記(1999年7月21日)より

これまで桜さんのボーカルは、作品ごとに考え抜かれた表現がされていましたが、今回は岡田さんのディレクションに従って歌うという、新たなアプローチが採用されています。

Vocal」というよりは「Voice」というイメージで、桜さんの声をディレクション通りに操り、声という音色で演奏する感覚です。これまでとは真逆ともいえるこの試みによって、従来の制作陣が手掛ける楽曲ではどのような化学変化が起こるのか、また岡田さんの楽曲では桜さんの新たな一面がどのように発見されるのか。この点に注目して紹介していきたいと思います。

余談ですが、99年のJ-POP界では「世紀末」をテーマにした楽曲が多数リリースされました。このアルバムにも世紀末の雰囲気が感じられるのかどうか、こちらも注目ポイントです。

それでは、大変長い前置きとなりましたが、いよいよ曲紹介を始めていきましょう!



M1 天星小輪〜スターフェリー〜

Lyrics by 丹下桜 Composed by 丹下桜・朝井泰生 Arranged by 吉田潔

アルバムのオープニングトラックは「さくらチーム」が制作を担当しています。(桜さんと朝井さんの共同作曲です!)初めて聞いたとき、サブタイトルの「スターフェリー」は宇宙的なイメージから取ったのかなと思いました。

しかし、2024年夏に「CCさくら劇場版」のリバイバル上映が行われ、桜さんのYouTubeラジオにも映画の感想がたくさん届いていた中で、「スターフェリー」は香港にある観光船だと知りました。(CCさくら劇場版の舞台が香港でした。もしかして自分の記憶が無いだけかもしれません。…?)

いろいろ調べましたが、この曲を制作中に桜さんが香港を訪れた記録は見つかりませんでした。それでも改めて聞いてみると、スターフェリーの船上で想いに耽る雰囲気を感じました。

スターフェリーについて先入観なしで聞いたときの印象は、宇宙船に乗り、船の窓から宇宙空間を眺めているような雰囲気でした。バックトラックは「Alice」の「innocence」のアンビエント系を、さらにスペーシーな雰囲気に仕上げたものとなっています。

そして、この楽曲をよりスペーシーにしているのが、楽曲中盤に突然入ってくる桜さんのセリフです。「星の方舟よ、どうか私を」「未来へ連れて行って」と、右チャンネルで囁くように聞こえます。先入観なく聞いていると、心を急につかまれる感覚が宇宙感と世紀末感を与えてくれます。

脱線したい話題はたくさんありますが、楽曲そのものが素晴らしく、語り尽くせません(笑)。今回は脱線せず真面目に書かせていただきました。本当に大好きな楽曲です。





M2 Neo-Generation

Lyrics by 丹下桜 Composed by 相川夏生 Arranged by 福田裕彦

アルバムのタイトルトラックです。突然ですが、曲の細かな紹介の前に第1印象をお話しさせてください。初めて聴いたときに真っ先に頭に浮かんだのは、「これで登場したらかっこいいな」という感想です。(※脱線します(笑)

野球のリリーフ、もしくはクローザーがこの曲に乗って登場する場面が見えました。イントロが突然流れ始め、ブルペンのゲートが開き、4小節目くらいでウグイス嬢が選手をコールし、スタンドから歓声が上がります。(笑)

AメロからBメロでリリーフカーがマウンドに向かい、大歓声のピッチャーコールを受け、サビを聞きながら投球練習。そしてバッターアップからのプレイボール!本当にめちゃくちゃかっこいいです!といったところで長々と脱線してしまい、失礼しました。(笑)しかしながら、この妄想が意外と当たっていることが発覚するんです…。

歌詞の謎解きの前に、まずは制作陣やバックトラックの紹介をしたいと思います。楽曲は「さくらチーム」が制作を担当しています。アレンジは福田さんで、「安心安定の福田さん楽曲」です!バックトラックは、前作『New Frontier』の「女神たちの夜明け」とはまた違ったスタイルになっています。

TR-909系の太い「キック」の4つ打ちに「ブレイクビーツ」が乗った、2000年代前半浜崎あゆみさんの「Evolution」をはじめとした「avex系アーティスト」が猛威をふるった疾走感のあるリズム隊になっています。歌詞のメイン世界観としている「サッカー」のスピード感疾走感を見事に演出しています。

実は、同じ手法でサッカーをイメージした楽曲が、この作品の前年に発表されていました。フランスのシンセサイザー奏者ジャン・ミッシェル・ジャール氏と小室先生が、フランスワールドカップのイメージソング「Together Now」を制作したのです。

この楽曲は、ブレイクビーツを前面に出し、ドリブルや素早い選手の動きをイメージしたものとなっています。(残念ながら、この楽曲の権利はジャン氏の母国フランスの権利団体が管理しているため、日本での配信可能性は大変厳しいようです…。

どうしても聴き比べていただきたく、YouTubeを大捜索しました!なんと、ブレイクビーツを電子ドラムで「叩いてみた」動画を投稿されている方を発見しましたので、今回は久々の特例措置として動画を埋め込みます。(ちなみに、めちゃくちゃドラムが上手いです!

リズム隊以外では、印象的なのがイントロのシンセリードのリフです。これ少し「デチューン」というシンセ音を重ねて、それぞれチューニングをずらす手法で若干「バグパイプ系」に寄せてるかな?とも取れました。

それからバッキングのエレピ音色、これも意図的に揺れた感じの音色がチョイスされていて、「スペーシー感」と「東洋的ニュアンス」を演出してくれているのかな?と考察しました。

楽曲自体のパワフル感はギターが演出してくれていて、「世紀末版 BeMySelf」と言っても過言ではない「120%POSITIVE」雰囲気を演出してくれていています。

さて、歌詞の謎解きですが、このアルバムについて、桜さんからこのようなコメントが残されていました。

タイトルチューンの「Neo-Generation」は実は、高校野球の影響を受けているんです。高校野球に感動して詞を書いたのですが、フタを開けるとなぜがサッカーになってしまいました。

丹下桜のサイバー日記(1999年11月24日)より

ボールに夢 託していたね」「果てしなく 飛んでいけるように」といったサッカー的世界観の中でも、「ハッと」させられるワードがあり、少し引っかかっていたのですが、高校野球のイメージも入っていたんですね。バックトラック側に影響があったのかは不明ですが、野球をイメージしてもおかしくはなかったということでした。(笑)

さて、歌詞全体の世界観ですが、メインとなるのは「サッカー」、それも応援する側のイメージを想像させられます。#2で紹介したエピソードで、サッカー部を舞台にしたゲームに出演されましたが、担当したサッカー部のマネージャーのイメージもあったのでしょうか。それとも実体験なのか。歌詞を読み解くと、結構迷う箇所があります。

高架線下にあるスタジウム」とは、いったいどこなのか?と考えたとき、真っ先に浮かんだのが「千駄ヶ谷~信濃町界隈」です。今はなき旧国立競技場周辺ですね。首都高の高架から信濃町、神宮外苑にあるフットサル場などが連想されます。たしか旧国立競技場も見えたような記憶があります。

さらに、歌詞後半には「首都高速のスピードで」というワードも出てくるので、もしかしたら、あの周辺を移動しながらこの歌詞を考えていたのかもしれません。(99年にフットサル場が存在していたかは不明です。外れていたらごめんなさい…。)

桜さんのPOSITIVEな楽曲をこれまでたくさん聴いてきましたが、この楽曲にはこれまでとは少し違う、新しいアプローチが散りばめられています。「世紀末」に向けて、何か新しいことに挑戦しようという姿勢が感じられる一曲です。






M3 tick away the landscape...

Lyrics by 岡田実音 Composed by 岡田実音 Arranged by 岡田実音・高島智明

本作初の「岡田チーム」楽曲です。レコードノイズからリズム隊のフィルインで始まります。まず、M2とM3で雰囲気ががらっと変わります。メインのバッキングはアコースティックギターですが、これまでなら生ドラムで編成されるであろう雰囲気が、TR-909によるリズム隊で形成されています。

さらに、サビのバッキングにはアコーディオン系の音色が加わり、デジタル×フォーク×フレンチポップといった「ミクスチャー」的なアプローチを感じさせてくれます。

そして、大きな変化を感じさせてくれるのが、「桜さんのキーが上がっている」という点です。正直、初見ではかなり違和感がありました。これまでの作品では、少し陰る雰囲気のあるキーの高さが個人的に好きだったので、「え?ここまでキーを上げるの?」という驚きが先行しました。

しかしながら、そこは桜さんのボーカル。聴き込むうちに、その良さがしっかり耳と心に刺さってきます。ピッチのブレがなく、まっすぐ透き通るボーカルの根底は変わらないからこそ、より新鮮な印象を受けました。

歌詞の世界観ですが、岡田さんが描いたのは、少し大人の階段を登り始めた主人公が「あなた」と街を歩きながら「景色を刻んでいく」様子を想像させるものです。この歌詞は、これまでの桜さん作品にはなかった、より現実世界に近い内容となっているのが印象的です。

また、現実的でありながら「情緒感」を感じさせる雰囲気があり、「東洋っぽいニュアンス」にも通じる部分があるのではないかと考察しました。また、この楽曲でも、M1と同じように後半に「peace of mind」という桜さんの囁くセリフセンターチャンネルに入ってきます。このふとした囁きにハッとさせられる感じは、「小宇宙」っぽさがあるのかもしれません。

ちなみに桜さんのボーカルは、ところどころに「tohko」さんを想像させる部分があります。この楽曲もそうですが、高音を伸ばしていくアプローチが、tohkoさんの「take a breath」という楽曲のBメロの歌い方に近いんです。

岡田さんのディレクションの影響が大きいと思いますが、ここまで近いとは…と驚かされます。しまった…この楽曲もカバーしていただきたくなりますね。(笑)参考までに、Apple Musicのリンクを置いておきます。


M4 Bright shine on Time

Lyrics by 岡田実音 Composed by 岡田実音 Arranged by 岡田実音・高島智明

先行シングル曲です。まずは、シングル盤の紹介をさせてください。

シングル Bright shine on Time
リリース日 1999年7月23日
レーベル KONAMIレーベル(キングレコード)
オリコン最高位 47位

丹下桜/Wikipediaより

概要でもお話したとおり、「岡田チーム」と桜さんの最初の楽曲です。レコーディング時のエピソードなどたくさん発見したので、その一部を引用します。

 岡田さんも私のアルバムを聴いて声に興味をもってくださり、ボイストレーニングをしていただきました。また、レコーディングでは、いつもは1人でブースに入ってうたうんですけど(スタッフの人はミキシングルームにいるんです)、今回は岡田さんと一緒にブースに入ってレコーディングしました。

 岡田さんはキーボードを弾きながらその都度「ここはこううたって」とアドバイスをしてくれました。自分でも気がつかなかったのですが、「地声と裏声の境がない」と言われました。普通の人だったら地声から裏声に変わるとファルセットのようになるので分かるらしいですけど、私の場合はその境が分かりにくいらしいんです。

 それで、「地声で、真っ直ぐにうたって」と言われました。上手に説明はできませんけど、声をポーンとストレートに出すということだと思います。

 確かに裏声の方が音程もとりやすいし、自分で知らないうちに裏声を選んでいたようです。私って裏声が強くて、裏声で地声の音量を出せるようなんです。だから岡田さんからは「意識して」真っ直ぐ、真っ直ぐうたうようにと指示されました。ですから今回のレコーディングのキーワードは「真っ直ぐ」です。

丹下桜のサイバー日記(1999年7月7日)より

 今までは自分のカラーそのままでうたっていたのですが、今回はプロデューサーの岡田さんからその都度アドバイスを受けうたいました。ですから私は「素材」としてレコーディングにのぞみました。岡田さんは「素材としての私」を千切りにしたり、ミジン切りにしたり、塩コショーかけたりして味を調整して料理してくれました。ですから私は岡田さんのさじ加減で「鯉こく」になったり「鯉のあらい」になったりしました(意味が分からない人は前回の日記を読んでね!)。

 曲の歌入れってアフレコと違って何度もやるんですよ。まず、練習でうたってみて、それから何度かうたって、それから本番を選ぶのです。でも「本番」となると緊張してしまうんですよね。写真を撮られるときも同じなんですけど、「スタート」って言われると急に「よそ行きの顔」になっちゃうんです。だから撮り終わって「お疲れさま~」っていうときの表情が一番良かったりするんですよね。

 レコーディングも同じで、練習でうたっているときや仮歌のときのほうが緊張していなくて、かえって良かったりするんですよ。だから「本番」でも「練習」でも“おいしければ”どっちでもいいなって思います。

丹下桜のサイバー日記(1999年8月4日)より

これまでのボーカルディレクションとは全く違う新しい試みに、桜さん自身も楽しんでチャレンジしていたように感じました。早速、楽曲の紹介に移ります。

バックトラックを聴いた第一印象は「打ち込み系J-R&B」、それも99年のトレンドを意識した作りになっている印象です。倉木麻衣さんの「Love, Day After Tomorrow」の夏バージョンのようなイメージです。ここまでトレンドを意識したバックトラックは、斬新に思えます。

M3同様、楽曲のキーはこれまでより高く設定されていて、引用文のとおり、高音部分で裏声感を感じさせず、離陸する飛行機のようにまっすぐ一気に駆け上がるボーカルがとても印象的です。最も印象的なのは、ラストのサビで転調する部分で、今まで感じたことのない「力強さ」が伝わってきました。今回のキー変更とボーカルディレクションの変化によって、桜さんボーカルの良さのひとつ「透明感」がより際立つようになったと感じました。

歌詞の世界観は、夏の日に少し大人の女性が新しい何かへ向かって飛び立とうという、キラキラした夏の雰囲気を演出しています。

楽曲を聴いていて、久々にMVのイメージが湧いてきました。当時よくあったビルの屋上でボーカルと楽器隊が撮影しているイメージです。バックの楽器はドラムではなく立奏しているパーカッションとキーボード、そして桜さん。ちなみにジャケット写真もビルの屋上で撮影しています。サビの部分は地面から一気に空に向けてパンして、桜さんにフォーカスするような画が合うだろうなと妄想してしまいました(笑)。

最後に、この楽曲のサビの歌詞が2パターンありますが、そのひとつ「時の中で」の桜さんの声が、ふと何かが降りてきたように感じます。地声で歌ったというコメントがありつつも、「この声色になるのか?」と驚きました。この謎は鍵として、読んでいただいた皆さんにお渡しします(笑)。ぜひ楽曲を聴いて一緒に謎解きしていただけたら嬉しいです。もしわかったら、X(旧Twitter)までご一報ください(笑)。




M5 inner space trip

Lyrics by 丹下桜 Composed by 朝井泰生 Arranged by 福田裕彦

楽曲は「さくらチーム」が制作を担当しています。そして、本アルバムで最も大好きな楽曲です。バックトラックの紹介の前に、歌詞と世界観についてお話しさせてください。

この楽曲は、まさに「さくら版銀河鉄道の夜」といっても過言ではない壮大な世界観を持っています。1人分のチケットを握りしめ、列車に乗り、アクアリウムに立ち寄ったり小宇宙を旅しながら自分自身の内面と向き合う、とても深く心に響く世界観です。

楽曲を聴いていると、歌詞の場面が鮮明に見えてくる感覚があり、1コーラス目のAメロでは、某鬼退治アニメの列車編(笑)で出てきたようなレトロフューチャーな駅で列車に乗り、木製のシートから窓の外を眺める桜さんの姿がはっきりと浮かんできます。

サビの部分では内面と向き合い、瞑想しつつ、透過映像で歌っている姿が重なる画が見えてきます。(言っていることがめちゃくちゃでごめんなさい…(苦笑))

まさに、アルバムコンセプトで挙げられたすべての項目が網羅されている楽曲であり、楽曲の世界に一気に引きずり込む。上手く表現できませんが、良い意味で神秘的な力を感じました。

バックトラックですが、スペーシーかつスペースオペラ風な雰囲気福田さんが演出してくれています。印象的だったのは、間奏部分の転調ピアノソロからサビと同じコード進行に再転調する部分で、ピアノソロが壮大なフレーズで展開されたあとのサビが、メロディは少し暗めな印象なのに、実は明るめのコード進行だったというギャップに驚きました。

1人でも多くの人に聴いてもらいたい、未来に残したい楽曲です。





M6 private link

Lyrics by 丹下桜 Composed by 中山手瞬・丹下桜 Arranged by 吉田潔

前回「Alice」でご紹介した「Wonder Network」のダブルA面曲です。制作は「さくらチーム」が担当し、この楽曲もM1と同じく、桜さんと作曲家さんとの共作です。

時系列的に見ると、この楽曲が共作の初作品になるようです。まずは、楽曲に関する桜さんのエピソードをご紹介します。

どちらの楽曲も詞は私が書いたのですが、「private link」では初めて作曲にも挑戦しました。共作ですけど。詞を作っているとき、頭の中にメロディーが浮かんできて、スタッフに「これを使ってください」って渡したんです。ふつうは曲が先にできていて、それに詞をつけるのですが、詞を先に作ったのは初めてです。しかも、作曲にもかかわることができて、このシングルは今まで以上に思い入れが深いものになりました。

 でも、いままで詞を書くことは恥ずかしくなかったのですが、作曲は初めてだったので、なんか恥ずかしいですね。プロデューサーに「こんな感じなんです」ってキーボードを弾いてみせたのですが、なんであんなに恥ずかしいんでしょう。

 最初から私のやっているラジオ番組「Alice ON WONDER-NET」(NACK5)のオープニングとエンディングのテーマになるというのは決まっていたので、ラジオでいつもやっていることをモチーフにして詞を書きました。

 「Wonder Network」は男の子の視点で詞を書いてみました。前回、そのパターンで書いてみたら世界が広がって、はまってしまいました。今までの女の子の視点も好きだけど、どうしても同性というのは主観になってしまって書いていて恥ずかしいところがあるんですよね。女の子の視点だと描ききれないことも男の子となると、いろんなことが書けるんです。今後は、いろんな視点で詞を書いてゆきたいです。

丹下桜のサイバー日記(1999年3月3日)より

「Wonder Network」が外へ向かって広がっていってる曲だとすると、「private link」は内面を掘り下げた世界だと思います。全然カラーが違う曲なのですが、どこかつながっているような感じがするんです私には。シングルもアルバムもラジオ番組もインターネットもみんながつながっていているような気がします。

 この曲をアレンジしてくださった吉田潔さんは「この曲のおかげて自分の新しい引き出しができたよ」って言ってくださいました。私もとってもうれしくなりました。

丹下桜のサイバー日記(1999年3月17日)より

Wonder Network」が外面の「Network」をイメージした明るい楽曲である一方、この楽曲は内面の「Network」をイメージした楽曲だというエピソードを読んで、今回のアルバムコンセプト桜さん自身の中ですでに固まっており、実はこのシングルが実験的な立ち位置で、そのコンセプトで制作を進めていたところに岡田さんが登場し、さらに広がったのかな?と考察しました。

いつもあなたとつながっていたい」「あなたがねついていれば私はねだいじょうぶ」という、ひらがなを使った歌詞表現からも、内心の世界、いろいろ表向きには頑張っているけれど、本当の気持ちはこうだよ、というメッセージが表現されているような世界観を感じました。

M5内面と向き合い、その後にこの楽曲が続く流れは、世界観が繋がっているように感じさせてくれる素晴らしい選曲だと感銘を受けました。バックトラックはデジタルポップで、リズムマシンが刻む3連の跳ねたリズムが心地よく、メロディと歌詞に引き込んでくれます。

また、ラストサビ前には左チャンネルから桜さんのセリフが入ってきて、ここでもハッとさせられます。内面世界が連続して展開される楽曲が続き、次はどんな世界を見せてくれるのか、ワクワクします。





M7 falling〜my love is falling into your heart〜

Lyrics by 松浦有希 Composed by 吉田潔・松浦有希 Arranged by 吉田潔

楽曲は「さくらチーム」が制作を担当しています。単刀直入に、内面の小宇宙に落ちていく、そんな世界観を感じさせてくれます。バックトラックでは、時計の針音がセンターに座り、現実なのか空想なのか、時間の狭間にいるような感覚になります。

また、柔らかめのシーケンスフレーズや、宇宙系でよく使用されるSEが「小宇宙感」をより演出しています。さらに、間奏ではスティールドラムの音色が登場し、ある種の「懐かしさ」を感じました。

#1で紹介した「MERMAID」にも登場した音色です。意図的な狙いはなく、楽曲の雰囲気にマッチしているため採用されたと推測しますが、ふと楽曲を思い出してしまいました。

また、ラストの子どもたちのコーラスは、小宇宙の中で内面と向き合うことで、子どもの頃の純粋な感情を呼び覚ますような雰囲気を想像させます。アルバムコンセプトを実現するため、かなりチャレンジングなアプローチが盛り込まれた素晴らしい楽曲です。




M8 TO LOVE

Lyrics by 岡田実音 Composed by 岡田実音 Arranged by 岡田実音・高島智明

先行シングル曲です。まずは、シングル盤の紹介をさせてください。

シングル TO LOVE
リリース日 1999年9月22日
レーベル KONAMIレーベル(キングレコード)
オリコン最高位 41位
タイアップ TOKYO FMラジオ「氷上・丹下のトラチョコ・チャット」OP

丹下桜/Wikipediaより

M8からM10まで3曲続けて「岡田チーム」の制作になります。まずは楽曲について桜さんのエピソードを引用します。

9月22日にシングル「TO LOVE」をリリースしました。前作「Bright shine on Time」と同じくサウンドプロデュースは岡田実音さんにお願いしました。前回と同じように岡田さんのたくさんある曲のストック中から私がうたいたいというものを選ばさせていただきました。ですから、この曲は自分の中の「世界観」というより、岡田さんの持っていらっしゃる「引き出し」から私が表現しているという感じです。

<中略>

「Bright shine ~」もそうだったのですが、岡田さんがつくる世界ってアップテンポで明るい歌でも、どこか胸がキューンとするような、なつかしい気持ちにさせてくれます。岡田さんが作る歌は、明るい歌でも「底抜けに」明るいものではない、というところが好きです。今回は、そんな部分が前面に出ている感じがします。

 ジャケット写真も気に入っています。今回からビジュアルのスタッフも一新しました。デザイナーさんが雑誌の切り抜きを組み合わせてサンプルというかデモデザインを持ってきてくれました。これに私の写真が入るとどうなるのだろうと楽しみにしていたら、すごくお気に入りのものができました。

 これまではナチュラルな感じのものが多かったのですが、ちょっと遊び心を出してみました。私は白が一番好きな色だから、どうしても白とかナチュラル系のものが多くなっていたのですが、今回はブルーにしました。東洋ってピンクとかオレンジなどの暖色系よりも深い青とか紺というイメージがあって今回、ブルーで統一してみました。  

丹下桜のサイバー日記(1999年9月29日)より

冒頭でお話したとおり、「Bright Shine~」と同じく岡田さんの「ストック曲」を桜さんがチョイスして制作された楽曲です。エピソードの中でジャケットについて桜さんがコメントされていたので、少しビジュアル面について「超個人的な」お話をさせてください。

どの年代の桜さんのビジュアルも大好きなのですが、特に97年のジャケット写真や写真集のインパクトが強く、もし当時の何か画像をシェアして!と言われたら、97年版の桜さんをシェアすると思います(笑)。もちろん、「Stand By Me」のジャケット写真や「CATCH UP~」のジャケット写真も良いですが…結局全部好き、という結論になりますが(笑)。

今回99年版のビジュアルを初めて拝見しましたが、良い意味で急激に大人の雰囲気が出ていて、これまでとは異なる雰囲気に引き込まれました。

冗談はさておき、アーティストのビジュアル、通称「アー写」は楽曲や音楽の方向性を示す羅針盤のような役割があります。そのため、ただ撮影するだけでは通用しない世界です。桜さんについても、毎年アルバムのイメージに合わせたビジュアル戦略を取られていたと推測します。本作も新しい試みとしてビジュアルチームをリニューアルされたのではないかと思います。

さて、楽曲の紹介に戻ります。この楽曲の印象は「90年代王道のJ-POP」です。バックトラックは小室先生のアレンジスタイルを踏襲したような雰囲気を感じます。リズム隊は90年代の王道で、尖ったインパクトのあるスネアドラム、フィルインのエレクトリックタム、8分音符で刻むタンバリンとコンガなど、数々のヒット曲で耳にしたリズム隊です。メインで演奏されているピアノは「JDピアノ」で、切なさを感じさせるストリングスも印象的です。

桜さんのボーカルですが、この楽曲では「Bright Shine~」よりもキーが低く設定されています。Aメロの音域自分が好きな桜さんのボーカル音域で歌われています。声優業やラジオでの柔らかい「ほんわり」した印象を持たれることが多いと思いますが、このAメロの音域で歌われる桜さんのボーカルは、柔らかさ透明感を持ちながらも、心を掴む力強さが際立っています。

この音域バックトラック大人びた世界観の歌詞、そして岡田さんのディレクションが合わさり、この楽曲は今回の取り組みの「完成形」と言えるのではないかと思いました。

岡田さんが桜さんの新たな魅力を引き出してくださった、素晴らしい楽曲です。



M9 love stream

Lyrics by 岡田実音 Composed by 岡田実音 Arranged by 岡田実音・高島智明

To Love」の世界観から一転、東洋風の雰囲気が押し寄せてくる楽曲です。イントロの琴の音色のアルペジオで、一気に別世界に引き込まれます。これまでアルバムコンセプトの「東洋っぽいニュアンス」は隠し味的な立ち位置でしたが、この楽曲で一気に前面に押し出されました。

この「東洋っぽいニュアンス」について、次のようなエピソードを見つけたので引用します。

 10月に発売するアルバムもそうなのですが、どっか和風情緒があるものを作りたいとお願いしていました。ラジオでも「次回のシングルは和風です」と言っていたら、リスナーから「桜さん、演歌をうたうんですか」というハガキがきたので、それから和風と言うのはやめて「東洋系」と言うようにしました。

 異国情緒でもアジア、東っぽいノスタルジーのある作品にしたかったのです。というのは、今年の春、京都に行ったとき、日本のもとからある姿っていいなって思ったのです。それで、自分の足許にある文化を見つめ直してみました。「日本の文化」「古い日本」とか言うと大それた感じがしてしまいますが、このシングルは不思議な音が入っていたり、リズムもちょっと変わっていて、私が求めていた東洋の感じが出せたと思います。

丹下桜のサイバー日記(1999年9月29日)より

もともと京都を訪れたときの印象からインスパイアされたもので、それを「和風」と表現した結果、「演歌歌うんですか?」とリスナーさんから直球の質問を受けた、という少し笑えるエピソードです(笑)。

さて、この楽曲ですが、「東洋的ニュアンス」がはっきりと見えるため、おそらく岡田さんが本作向けに書き下ろした楽曲だと推測します。

バックトラックでは、イントロの琴やサビで聞こえるボトル系シンセ音色で尺八のようなニュアンスを表現し、間奏のリフにはシタールの音色を使用するなど、「和風かつ東洋風」の雰囲気をしっかりと引き出しています。

さらに、アウトロではリズム隊だけが残り、オリエンタルなコーラスが流れる終わり方が最高です!ちなみに、このコーラスは岡田さんが担当されたそうです。

歌詞の世界観も、「頼りなく浮かんだ月」や「危なげに咲く花びら」といった和風情緒を感じさせるワードが散りばめられています。情緒的でありながら、これはおそらく別れの歌だと思われます。

桜さんのボーカルも「To Love」同様、個人的にはちょうど良いキー設定に感じました。それにしても、以前お話しした「バグパイプ系音色」や今回の「東洋風」といい、オリエンタルかつ神秘的な雰囲気と桜さんのボーカルは本当に相性が良いですね。

実現可能性はわかりませんが、現代版「MAKE YOU SMILE」のように、東洋系やオリエンタルな国や地域をテーマにしたコンセプトアルバムを制作したら、非常に合うのではないかと想像してしまいました。

出来ることなら、桜が舞い散る季節に京都を歩きながら聞きたい楽曲です。




M10 Dancin' in moonlight

Lyrics by 岡田実音 Composed by 岡田実音 Arranged by 岡田実音・高島智明

Bright Shine~」同様、「打ち込み系J-R&B」であり、99年のトレンドをしっかり押さえた楽曲です。これまでの桜さんの楽曲では想像がつかなかった「スクラッチノイズ」や岡田さんのコーラスが前面に出ており、間奏ではブラックミュージック感を演出するなど、斬新なアプローチが随所に散りばめられています。

AメロからBメロにかけては、自分の好きな桜さんの音域ですが、この楽曲では同じ音域ながらも大人びた雰囲気を感じ取れます。バックトラックの影響もあると思いますが、アルバムの楽曲が進むにつれ、桜さん自身が進化しているようにも思えます。

この楽曲については、「スペースシャワーTV」などでMVが制作され、当時のトレンドに紛れ込んでいたら、きっと多くのリスナーが興味を持ったのではないかと感じます。そのような試みがもし行われていたなら、どのような反応があったのか、少し見てみたい気もしますね。




M11 メトロポリス

Lyrics by 丹下桜 Composed by 朝井泰生 Arranged by 朝井泰生

楽曲は「さくらチーム」が制作を担当しています。桜さんの作詞では珍しく、現実世界がはっきりと見える「メトロポリス」というタイトルが印象的です。雨の日に窓際から「メトロポリス」の街並みを眺めて想いに耽る世界観が描かれています。



【お願い】
この楽曲を聴いて感じたことをストレートに表現させてください。事実と異なっている可能性もありますが、その点をご理解いただければ幸いです。






率直に言って、この楽曲から「桜さん、少し疲れている?」「何かしんどそう?」というアラートを受け取ったような感覚に陥りました。「『ココロ』ひとりにしないで」「ひとりにしないで」と、ひらがなで表現されたワードが特に気になりました。また、「雨が止むのをまってる」というフレーズも印象的です。

何か自分でも対処が難しい場面に直面し、呆然と立ち尽くしているような雰囲気が、この雨が降るのを窓から見ている世界観に隠されているのではないか、と考えてしまいました。

この考察は、桜さんの足跡を辿る旅の中で避けては通れない出来事を先に知ってしまったことから生じた先入観かもしれませんが、落ち着いた良い雰囲気の楽曲の中に、何かアラートのようなものを感じ取ってしまいました。

仮にこの考察が正しいとしても、当時リアルタイムで聴いていたら、こうした感覚には気づかなかったと思います。

このレビューをそのまま書くべきか大変迷いましたが、自分が感じた印象を捻じ曲げることがどうしても受け入れられなかったため、率直に書かせていただきました。



M12 Trinity

Lyrics by 丹下桜 Composed by 丹下桜 Arranged by 吉田潔

楽曲は「さくらチーム」が制作を担当し、桜さんが作詞・作曲を手がけた楽曲です!作曲のエピソードから、フレーズの部品を組み合わせクリエイターさんの添削を受けながら制作された作品と思われますが、Aメロからサビへと展開する構成はJ-POPというより洋楽に近く、とても斬新です。

また、サビ途中で転調が入る点が印象的で、間奏明けのCメロが最後の盛り上がりをしっかり演出しています。

バックトラックもスペーシーで、イントロからAメロに入る直前に「東洋風」の琴の音色が加わるなど、アルバムのラストを飾るのに相応しいアレンジになっています。

歌詞には「2000年に一度しかない伝説」という世紀末感が盛り込まれ、4分弱の楽曲の中で次々と音の世界観が変化していく様子が素晴らしいです。

歌詞に登場する「天使達」は本当に想像できるようで、眩しい光の中天使達が浮かんでくるような情景が目に浮かびます。天使は創造の天使なのか、それとも桜さん自身が天使化したのか…。聴いた方それぞれで印象が異なるでしょう。自分の印象ですか?それは内緒です(笑)

また、イントロとアウトロのピアノリフについてですが、これを桜さんが演奏しているのではないかと思いました。

アウトロのピアノには少しミスタッチのような音が混じっていますが、本当のミスタッチというよりはライブ感を感じさせるもので、全く気にならないレベルです。

もしかすると、一発録りで収録されていたのかもしれませんね。

世紀末の「Neo-Generation」のラストを飾るに相応しい、素晴らしい楽曲です。


M99 あとがき

1stシーズンアルバムレビューラスト無事完走しました。ボリューム満点、某豚系ラーメン全マシマシのような胃もたれする量になってしまい申し訳ありません(苦笑)。プロのライターさんなら上手に文字を詰められるのでしょうが、アマチュアという立場に甘えて(笑)、良さと思いの丈を全力で書かせていただきました。

桜さんの90年代のレビューを読んで、「聴いてみようかな?」とか「久々に引っ張り出してみるか!」と思っていただけたら本当に嬉しいです。

惜しむらくは、新たに聴いてみたい方への間口が大変狭いことです。今回記事を作成するにあたり、自分も買い直しをしましたが、Amazonマーケットプレイスや近隣のブックオフなど、かき集めるのは一苦労でした。

少し愚痴になってしまいますが、一番望ましいのは、Apple MusicSpotifyなどの配信サイトで解禁されることです。しかし、見えない事情で解禁されないようです。

(個人的推測はありますが、責任を持てないのでネットでの発言は控えます…。)

これに関して、1stシーズンで取り上げた範囲の楽曲は2024年12月現在、KME株式会社(KONAMIの著作権管理会社)が権利所有者となっています。
JASRAC照会サイトで確認済み

Xでも少しこの話題に触れましたが、廃盤かつ現在も需要がある楽曲は、もっと積極的に配信してほしいと思っています。商業音楽なので利益がなければ難しいというのは社会で働く大人として理解していますが、音楽は「作って売って終わりではないと思うのです。

音楽は人の歴史や思い出のページに残る存在であり、その楽曲で命を救われた、人生を変えられたという方もいるでしょう。かつてライブDVDのインタビューで、大ちゃんも「僕には音楽を作った責任がある」とコメントしていました。

作って、人の歴史や思い出に残る音楽になったからこそ、長く残していくべきです。新譜に関しては収益などのルールの見直しが必要と感じていますが、廃盤音源については配信サイトをもっと活用するべきだと思います。

今回、桜さんを取り上げたのは、「この素晴らしい音を未来に残したい」という思いからでした。桜さんのYouTubeラジオを聴くようになり、「CCさくら」で桜さんに出会った新しい世代のファンがたくさんいらっしゃることに時代の流れを感じ、新しい世代の皆さんにも90年代の音を知ってもらいたいと思い、この企画を立ち上げました。

そんな「愛の重い(笑)」熱意が少しでも届いていたら本当に嬉しいです。まずはアルバム4枚ここまで読んでくださり本当にありがとうございました。

さて、次回はいよいよ1stシーズン最終回、「未来からのエアメール」を紹介します。次回は最終回かつ初のシングル単体での紹介です。これには深い理由がありますが、本編で詳しくご紹介します。

次回はかなり悲しく切ない内容になるかもしれません…。構想段階でも胸が締め付けられました。次回もぜひ読んでいただけたら嬉しいです。

それでは最後は恒例の挨拶で締めたいと思います。

ほなまた!