「そうはならんやろTRPG なっとるやろがい!!」 デザイナーズノート
つい先月,私は1ページTRPGとして,「そうはならんやろTRPG なっとるやろがい!!」というものをTwitterに投稿しました。
いろんな方々にリツイートやいいねをいただき,とても嬉しかったです。また,実際にプレイしていただいた方もいらっしゃり,その感想ツイートでのセッションの概要にあった,まさに荒唐無稽,いい意味で無茶苦茶な内容に,笑いがこみ上がりました。
私も一介のTRPGプレイヤー,そしてプロでこそありませんが,TRPGシステムデザイナーでもあります。当該システムでも遊んでくれた方が楽しめるように可能な限りの工夫を凝らしたつもりです。せっかくですので,その工夫というものをこのような形でしたためておくことにしました。みなさんが遊ぶ際の参考にしていただければと思っております。
またこの記事は私が初めてnoteに投稿する記事でもあります。拙い所があるやもしれませんが,ご了承いただけると幸いです。
ターゲット >”めちゃくちゃ”をやりたい人
システムを考える上で,遊び方や遊ぶ人を想定するのは大事なことだといえるでしょう。「このシステムはどういう人がどういう風に遊ぶのだろう」という問いです。私はシステムを考える時,このことについて思いを馳せます。
TRPGにおいて,「笑い」というのはセッションを楽しくするために,必須ではないといえど,簡単に無視できるものではないでしょう。しかしその扱いには注意が必要です。特にシュールギャグなど,荒唐無稽な演出は,場合によっては,世界観を壊したり,ゲームの進行を滞らせたりしてしまうことがあるなど,他のプレイヤー・ゲームマスターを困らせてしまうかもしれません。
そんな,セッションでの「笑い」を追求したいプレイヤーは少なくはないと思います。私にだってそういう一面はあります。しかし,世界観を壊してしまわないか,ゲームの進行の邪魔になっていないか等,思うところがあって全てをぶっ壊すほど”はっちゃける”ことは難しいのです。
「それでも”むちゃくちゃ”をやりたい」と思った私は,そういうシステムを作ればいいのでは,という考えに至ったのです。
コンセプト >シュールギャグを思う存分
このシステムのコンセプトは,「シュールギャグを思う存分やれる」というものです。突然キャラクターが歌いだしたり,その歌によりダメージを負ったり,そのダメージで死にそうになっているところを脈絡もなく登場したライバルに救われたり,最後の決戦と称して指相撲が始まったり,突然の爆発オチ,そこからアフロの髪型になって敵味方関係なく肩を組んでダンスを踊ったり……。そんなシュールなギャグがこのゲームのコンセプトです。
このコンセプトを実現させるには,いろいろな課題をクリアしなければいけません。自由で無茶苦茶な発想を許容するシナリオやゲーム進行の構成,そのような発想を可能にするキャラクターなどの素地,コンセプトに合ったゲーム要素など,オーソドックスなTRPGシステムにはないようなものを考えなければいけないと感じました。
自分自身にとって,とても考えごたえのある課題でありました。
ゲーム進行の構成 >シンプルで頑健な進行
このシステムのゲーム進行について考える上で,最も重要なのは「シナリオが壊れて,進行不可能にならないこと」だと考えました。シュールギャグにおいて,その展開を完璧に予測できる人はいないでしょう。その予想のつかなさにこそ面白さの大部分があると言ってもいいでしょうから。そのため,このシステムにおいては,「状況がどうなったとしても,”次”に進むことができる」ようにしなければいけません。
このシステムにおいて,その状況で起こっている困難の解決のため,プレイヤー達はその行為の成否を決める際に判定を行います。しかし,あくまでプレイヤーの提案の成否であり,状況の解決の成否ではありません。状況は必ず解決するようにルールとして規定されます。
他のTRPGにおいては,プレイヤーの宣言した荒唐無稽な提案は,GMによっては不利な要素として判定に影響を与えかねません。それにより,本来簡単に判定に成功してほしいと想定されているポイントで必要以上に躓き,シナリオが崩壊してしまうキッカケとなる可能性があります。このようなゲーム環境では”のびのび”としたシュールギャグはできないでしょう。そのため,シュールギャグを楽しむこのシステムでは,絶対に状況が解決するということがルールとして規定されているのです。
また,シナリオの構成にも考えるべき余地はあります。もしシナリオの構成が複雑であった場合,シナリオの目的の解決,NPCの情報,虚偽やブラフの存在など,ゲームをやっていく上で考えなければいけないことは多くなるでしょう。これらは自由な発想を楽しむ上で邪魔な要素であるかもしれません。
そのため,このシステムでは,セッションの目的をシナリオレベルではなく,システムレベルで規定しました。また,セッションの進行を一定のシークエンスで規定しました。プレイヤーは「BP(ブットビポイント)を多く獲得する」というシンプルな目的で,順番に目の前にある課題を解決していけばよいだけになっています。単純化された進行により,プレイヤーはその思考のリソースをシュールギャグにすべて費やすことができるようになっています。
そのため,含みの多いシナリオ,学びの多いシナリオといったものは,このシステムには上手く適合しません。それはこのゲームにおいて,意図的に切り捨てた部分です。
キャラクター >自由な発想の素地
次に,コンセプトにあったキャラクターについてです。
まず,真っ先に「必要のないもの」として切り捨てたものは「能力値」や「技能値」といった概念です。数値化され,変動することの少ない能力値は発想を固定化してしまいかねません。またセッション中に変動する能力値であっても,数値を採用した判定方法では,その能力値をどう使うかという点に,思考のリソースを費やす必要があるでしょう。セッション中に変動する能力値であれば,なおさらです。
そのため,このシステムのキャラクターは,「名前」と「設定」しか持ちません。このシステムで遊ぶために必要十分な要素はそれだけであり,さらに言うとその「設定」の形態も問わない(言語表現,イラスト表現)うえに,「設定」の数にも制限はありません。そのため,思考のリソースをキャラクターの性能の優劣の判断に費やす必要はないため,自由な発想がしやすくなると考えました。
それとは別の問題として,プレイヤーによっては発想が固定化してしまい,セッションがマンネリ化してしまうことも考えられます。問題の解決方法の引き出しが1通りしかなければ,このシステムにおいて重要視している「自由な発想」を楽しむことはできないでしょう。
このシステムは,発想を固定化させないために,3つの工夫をしています。
1つ目は,セッション中に「設定」を自由に追加できることです。これはシュールギャグという点においても合致しています。シュールギャグにおいてはしばしば,何の脈絡もなく設定が追加されることがあります。その唐突さに驚き,笑いが込み上がってくるということがあるでしょう。このように「設定」が足りなくなっても追加することができるわけです。
2つ目は,一度使用した「設定」の使用の禁止です。発想の固定化を避けるための直接的な規定として,一度使用した「設定」を判定に使用することができなくなくようにしました。せっかく自由に考えることを楽しむシステムなので,多様性に富んだ解決方法を考えて欲しいというデザイナーの思いがあります。
一方で「一度使用した「設定」の使用の禁止はプレイヤーの自由な発想の制限に当たらないか」というご意見も尤もです。そのため,3つ目の工夫として,同一「設定」を追加できるようにしています。例えば,「〇〇は歌がうまい。そして何より歌がうまい。三度の飯より歌がうまい」といった具合です。同じ設定でも,それが2つ,3つと書いていれば,それはかなり個性的なキャラクターと言えるでしょう。「どんだけソレにこだわるねん」というツッコミが聞こえてきそうなものです。お笑いにおいても,同じボケを何度も繰り返して笑いをとることを「天丼」と表現しますし,同じものであっても,繰り返せばそれはそれで面白い展開になるでしょう。そのための同一「設定」の追加です。あえて”同じ”「設定」を使い続けるという選択も独自性の余地を付加した上で,「アリ」になるようにしています。
ゲーム要素 >発想力と運を競う
TRPGである以上,ゲーム要素は欠かせないと思うところはあります。ゲーム要素と一言にいっても,その内容には様々なものが考えられます。このシステムのコンセプトに合いそうなものは,やはり「大喜利的なゲーム要素」でしょう。「誰が面白い発想ができるか」をゲーム要素にしたいという思いはありましたが,「何が面白いか」というものは人によって好みがありますし,恣意性が高いものです。審判役の存在によって,その恣意性にセッション内のみの権威性をもたせることもできたのですが,絶対的な権威の付与は人によってはストレスを感じてしまうかもしれないという思いもありました。
幸い,このシステムのコンセプトはシュールギャグであるため,「面白い発想」というものが「他の人が思いつかないようなぶっ飛んだ発想」と重なる部分が多いだろうという発想に至りました。そのため,このシステムでは「誰が『他の人が思いつかないような発想』ができるか」ということをゲーム要素にしました。
一方で,「他の人が思いつくような発想」も「笑い」に繋がることがあります。そのため,”トンデモ”発想(誰も同じことを考えている人がいなかった)も”トンデモ”じゃない発想(誰かが同じことを考えていた)もそれぞれ異なる点で有利になるようにしています。
また,TRPGにおいて物語を盛り上げるのは,やはりダイス目でしょう。人事を尽くして天命を待つ,運がなければそれはそれで面白い。そういう運もゲーム要素として絡めるべく規定した判定方法となりました。運がないことも楽しめるように,判定に失敗してもシナリオが進行するなど,ゲーム進行においても工夫をしています(上述)。
ただゲームバランスはほとんどないようなものです。しかしそれは意図的に切り捨てた部分です。プレイヤーが考慮すべきゲームバランスは,セッションの複雑性を上げ,思考のリソースをそれに費やしてしまうことになります。そのためこのシステムのゲームバランスは判定難易度がちょっと変わるくらいのものになっています。「ぶっ飛んだことを考え,ダイスの目に一喜一憂する」,このシステムはそれで十分楽しめると踏んでいます。
他にゲーム要素として意図的に切り捨てた部分としては,シナリオの攻略の面白さという要素となります。逆に攻略について考えなくていい分,発想に思考のリソースを回せるというのも上述しているとおりです。
ルール表記 >ギャグシステムであることを伝える
ここまでで,システムそのものの設計においてこだわった点はおおよそ描き終わりました。しかし,もう一つこだわった点として書いておきたいことがあります。
それはルールの表記法です。これまで書いてきたようにこのシステムはシュールギャグのシステムです。さらにいうと,自由な発想がしやすいようにシンプルな構造にしたシステムです。
まず,黒と赤で文字の色を分けることで,重要なルールの可視性を上げています。
そして,語尾を「〜だぜ」にすることにより,さながら小学生をメインターゲットとした月刊少年誌によくあるギャグマンガ風な雰囲気を醸し出しています(醸し出せていたら良いな)。
さらに,セッションにおけるスタンスも,ちょっとヘンテコリンな感じに書いています。「素敵に演出していこうぜ」や「素敵な瞬間を最高に盛り上げようぜ」,「お互いを称え合って,セッションが終了するぜ」,「みんなに拍手だぜ」などです。ちょっとくらいクサイ表現の方が,この雰囲気にあっていると思っています。
このようにメタ的な部分でもこのシステムの雰囲気を伝えるべく,工夫をこらしました。
さいごに
1ページTRPGとしてデザインしたシステムにもかかわらず,デザイナーとしてしたためた文章は数千文字に及ぶものとなってしまいました。自分でも,それだけ色々と考えていたのだなぁと驚くばかりです。
また,実はこのシステム,私はテストプレイしておりません。それでいいのかと思われるかも知れません。確かに私もそう思います。しかし,このシステムは皆でワイワイやる1ページTRPGで,なおかつゲームバランスなんてあってないようなものなので,多分大丈夫でしょう。ただ,もしかするとこかまいルールの変更等があるかもしれません。
さて,この「そうはならんやろTRPG なっとるやろがい!!」は自分のやりたいことであるシュールギャグに特化させて作ったものです。特化させた分,他の多くの要素は切り捨てるデザインとなっていますが,だからこそ,濃いTRPG体験ができるのではないかと踏んでいます。楽しんでいたただけば,デザイナー冥利につきます。
というところで筆を置きたいと思います。
お付き合いいただき,ありがとうございました。
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