良いインプロバイザーに必要な力とは?
インプロバイザーっていうものは、ある程度いくとその良し悪しがわからなくなってくるが、確実に良し悪しはある。
それはもちろん、人によって基準は違うと思うので、あくまでもこれは僕にとっての良し悪しの基準だ。
今日はそんなことを書きたいと思う。
インプロバイザーとは
まず、インプロバイザーというのは「即興で演じながら、ストーリーを作っていく人」なので、もちろん演技力とストーリーテリングの力は必要だ。
だがそれは純粋なインプロの力とは別の技術であり、俳優として、脚本家としてのセンスやキャリアがものを言ったりする。
僕がここで明示したいのは、純粋なインプロの力。インプロバイザーって呼ばれる人たちは、俳優や脚本家に比べて、ここが出来ていてくださいねっていう部分だ。
それは、大きくわけて3つある。
瞬発力、発見力、拡張力の3つだ。
瞬発力について
例えば、母と息子のシーンをやってて、お父さんの話題が出てきたとする。仮に「お父さんが最近占いにハマっててさあ」みたいな話だとしよう。
この話が出た瞬間に観客は「お父さん出てきて欲しい!」って思うわけだ。そして良いインプロバイザーはその瞬間にお父さんとして舞台上に出て来てくれる。
他にも「この本には恐ろしい呪いがかけられている」と言われたら、良いインプロバイザーはすぐにその本を開けてしまう。
つまり、「今必要なことを今やる」のが良いインプロバイザーなのだ。
そうでないインプロバイザーは、必要なこととわかっていても「どうやって入ろうか?」と一瞬頭の中で準備してしまったり、もしくは必要なことがなんなのかがそもそもわからなかったりする。
今必要なんだからとにかく入る!とにかくやる!ことが出来るのが良いインプロバイザーだと僕は思う。
「いやいや、話的には後々出てくるように引っ張った方がいいでしょ!」って思うかもしれないが、それをやってる段階でもう既にプレイヤーは未来を生きている。
「お父さんってどんな人なのか」「呪いとは何なのか」を後々に説明するために演じ始めてしまう。
ストーリーを何度も書き直し、練りに練れる脚本芝居なら、もちろんそれはアリだ。だが、インプロにおいて先送りにすることは、何もワクワクしない。
インプロではどの瞬間にどんなことが起こるかわからない。それを一つ一つ積み上げながら未来に進んでいくから常に興味深いわけで、未来が用意されているのだとしたら、そういった瞬間をある程度無視しなければいけなくなる。
そうやって演じるのは楽だ。わからない方へ行かなくていいから。
でも、何となく見えているような方向へ行く即興なんて、即興である意味があるのか?と僕は思ってしまう。
発見力について
インプロとは、アドリブで面白いことを言ったりやったりすることだと思ってる人がいるかもしれないが、残念ながら僕はそれをインプロとは認めていないし、インプロバイザーだと思わない。
ただおちゃらけてるやつ、目立ちたがり屋、芸人になり損なった人…とまあ、そこまでは思ってはいないが、とにかくインプロバイザーとはそういうことをやる人ではない。コメディアンではないからだ。
インプロとは、発明ではなく発見だ。つまり0から何かを生み出すというよりも、この場にあるものを発見して、広げていくことなのだ。
例えば、舞台上で子供がテレビを見ている状況だとしよう。
その時、控えているインプロバイザーはこういった思考になる。
“テレビを見てるな?どんな風に見てるだろう?お?エキサイトしながら身体を事細かに動かしてるな、てことはスポーツか何かかな?ん?一瞬テレビの右上を見たな?窓があるのかな?外に出て行きたいのかな?よし!”
俺「ただいま。お、サッカー見てんのか?まだ外明るいから、やって来たらどうだ?」
相手「(振り返って、ちょっと顔をしかめて)あ、おかえり、早かったね」
“ん?今顔ちょっとしかめたな?関係性良くないのかな?「早かったね」ってことは普段はもう少し遅いのかもしれない、その理由が欲しいよな。よし!”
俺「ああ、お前と仲直りしないとなと思って、会社早退してきた。昨日はごめんな、試合行けなくて」
…っていうことを瞬時にやってるのがインプロバイザーだ。
相手のセリフや態度、表情、行動はもちろん、自分が言ったことややったことにも注意を向ける。
なぜなら、お客さんにとってはそれが今ある全てだから。
この場に起きたこと、生まれたものから、お客さんはストーリーを想像する。だからインプロバイザーもこの場に起きたこと、生まれたことをわかってる必要がある。
インプロやりたての頃は、お客さんの方が舞台上で起きてることにたくさん気づいてる。なぜからお客さんの方が冷静だから。
だが、インプロを誠実に学んで、やり続けていると、段々とお客さんが見えているものと同じものが見えるようになってくるのだ。
そしてそこから更に行くと、お客さんですら気に留めてなかったこと、だけど確かにそこに存在したことを掴めるようになってくる。良いインプロバイザーと言われる人は、この領域にいる人だと僕は思う。
こうなってくると、お客さんは一瞬一瞬を興味深く、注意深く観るようになる。そうやって即興で生まれるものを真に楽しむことが出来る。
逆にインプロバイザーサイドがそれほど意識し切れていないのであれば、お客さんは同じくらい雑に観てしまうのだ。
拡張力について
これは発見力と繋がっている。発見したものをどこまで使えるかという力だ。
例えば「僕は好きだよ」というセリフを自分が言ったとしよう。
「好きだよ」でも「僕も好き」でもなく、「僕“は”好きだよ」。
他の人はどうかわからない、もしかしたら嫌いかもしれないけど、僕"は"、僕だけは、好きなんだってこと。一語違うだけでも随分ニュアンスが違う。
インプロにペーパーズという有名なゲームがある。
セリフが書かれた紙を演じてる最中にランダムに拾って読み上げ、それを使いながらシーンを作るというもの。どんなものが出てくるかわからないワクワクが人気のゲームだ。
が、プレイヤーの良し悪しによって、このペーパーの扱い方が違う。
ひどいプレイヤーは「『あれはなんだ!』…あ、ただの鳥か」みたいに、セリフを矮小化してしまう。『あれはなんだ!』と言ったのだから、当然とんでもないものであって欲しい。
他にも『今まではよかったね』というセリフを言った後、何事もなかったかのように「今も幸せだよ」って言ったりする。
『今まで“は”』って言ってるんだから、今は違うってことだ。例えそれがどんな良いシーンで、望ましいエンディングに向かっていってる途中だとしても、それを無視してはいけない。
どんなに細かい言葉、表情、態度、行動の違和感でも、発見したら、それを生かし切る。さらっと触って次なんていかない。
もちろんそれを使ってしまうと、どうなるかわからないところへ行ってしまう。でも、それがインプロし続けるってことだ。インプロバイザーは常に未知にいたいのだ。
終わりに
とまあ、こうやって偉そうに語って来たが、はっきり言って、僕でもいつもいつでもこれらがうまく出来るわけではない。
入るべき時に入れない、違和感を見逃す、さらっと流してしまう…全然ある。
ただ、目指したいのはそこなんだよと思っていることが大事なのだ。
お客さんが喜んでたから、共演者に褒められたから、じゃあ良いかーで終わっていたらずっとインプロは成長しないままだし、本当のインプロの面白さと奥深さを知らないままになってしまう。
これを追い求めるのは、ある種の求道者の態度かもしれない。
だって、お客さんには多分伝わらない。『弓と禅』のような世界の話だからだ。
でも、僕はあくまで「今この瞬間を生きる」「次の瞬間が未知で生き続ける」というインプロの真髄を探求していきたい。