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「見せたい自分」ではなく、「見たいあなた」になる
僕が海外でパフォーマンスをしたり、ショーに出演したりする時、やっていてよかったなあと思うものが2つあります。
1つはクロサワインプロ(これについては後日書きます。参考記事はこちら)
そしてもう1つがクラウンです。
※下記写真は、フランスにあるフィリップ・ゴーリエ国際演劇学校にて
クラウンとは
クラウンとは「道化師」のことで、お客さんに笑われる存在です。
日本ではピエロが有名ですが、あれはクラウンの中の数あるキャラクターの一つで、クラウンの幅はもっと広いのです。例えば、チャップリン演じるチャーリーや、ローワン・アトキンソン演じるミスタービーンも、クラウンに分類されます。
クラウンは、コメディアンとは少し違います。
緻密に計算された話術や技術で、賢くお客さんを笑わせるというよりは、失敗したり、間違えたりして、お客さんに笑われる馬鹿な存在といった感じです。
つまり、コメディアンが技術による笑いだとしたら、クラウンは存在による笑いであり、身につけていくものというよりは、自分の中に発見していくものなのです。
誰もがクラウンになれる可能性を持っている
クラウン指導の権威であるフィリップ・ゴーリエはこう言います。
あなたが笑われた瞬間、あなたの下にクラウンがやってくる。それを両手を広げて迎え入れた時、あなたはその瞬間クラウンになる。
例えば、居酒屋でグラスを倒してしまったり、チャックが空いているのが見つかってしまった時、見ている人達はそれを笑いたいですよね。
その瞬間、その人にクラウンが飛んできて、その人はクラウンになれる「可能性を得る」わけです。
ここで「可能性を得る」と表現したのは、その人の反応によってクラウンにならないようにすることも出来るからです。
例えば、凄く申し訳なさそうにして謝ったり、「何が悪いんだ」といった態度を示してみましょう。
そうすると、誰もその人のことを笑わなくなります。
すると、せっかくやってきたクラウンは「あ、そう」と言いながら去っていくでしょう。
逆に、「やってしまったー」とお茶らけたり、恥ずかしさを隠しきれずあたふたしたりしたら、皆大笑いし、その場は盛り上がり、その人はその瞬間クラウンになるでしょう。
ゴーリエが「やってきたクラウンを迎え入れる」と表現したのは、失敗や間違いを受け入れるということに他ならないのです。
「うまくやりたい」「失敗したくない」気持ちがクラウンを遠ざける
しかし、それを舞台上でやるのはなかなか難しいのです。
2019年夏、フランスでゴーリエのワークショップを受けた時のことです。
参加者には、プロの俳優、演出家、クラウンはもちろん、教育関係者や、趣味で演劇やクラウンをやっている人、興味本位で来た人など、キャリアが様々な人達が参加していました。(ちなみに、ゴーリエの学校には参加条件項目に「経歴問わず」と書いてあります。このことにも、万人にクラウンの可能性があるというメッセージを感じますね)
そんな多種多様な参加者の中で、最も苦労していたのは、
ノリに乗っている若い俳優、女優でした。
彼ら彼女らは、自分が今までやってきたことへの自信に満ち溢れており、それによってどこかエゴイスティックな一面を持っていました。
その状態のまま舞台上に上がるのですが、観客からはクスリとも反応がありません。
その人達は「うまい自分」「出来る自分」を見せようとしていたのです。
そしてそれは、先述した「クラウンを迎え入れない」状態になっているのです。
それに対して、演劇経験の全くない素人さんが、爆笑をかっさらっていくことが多々ありました。
彼らにとっては、舞台に立つこと自体が新鮮なので、喜びや不安がそのまま表れます。そういう人達は純粋で無防備なので、とても可笑しいのです。
また、演技指導をやっているというアイスランドの女性も面白い人でした。舞台上での本当の在り方を知っている感じがしました。逆に、プロのクラウンとして長年活動しているという男性(出身国は忘れてしまった…)は、あまりうまくいってませんでした。
ちなみに、僕は結構ウケてました(笑)
「プロのクラウンなの?」と聞かれたので「プロのインプロバイザーだよ」と言ったら「どうりで!」と言われました。
インプロを長年やってき他ので、「失敗をオープンにする」「うまくいかなくていい」というマインドで舞台に立つのは、僕にとって普通のことでした。
なので、やってきたクラウンを迎え入れることはそこまで難しいことではなかったのです。
そして、このワークショップを通して、役者として、クラウンとしての経歴よりも、そのマインドがあるかどうかが、クラウンとしての明暗を分けることがわかりました。
「見せたい自分」が死に、「見たいあなた(=クラウン)」に出会う
僕の尊敬するクラウンは、こう言います。
人は皆「自分」を表現しようとする。でも、皆が見たいのは「あなた」なんです。
ここでいう「自分」というのは、「こうありたい」「こう見られたい」というエゴで固められた「見せたい自分」のことです。
ここでいう「あなた」というのは、皆が好きなところ、素敵だと思っているところを集めた「見たいあなた」のことです。
そしてこれらはイコールではなく、むしろ真逆のことが多いのです。
皆が良いと思ってる部分は、自分が受け入れられない部分だったり、
皆が見せて欲しいと思ってる部分は、自分が許せていない部分だったりします。
クラウンをやると、そういう部分を笑ってもらえます。
笑ってもらうと、そういう部分を見せても平気になってきます。
そうするとどんどん好かれるようになっていき、舞台上で包み隠さない、魅力的な「あなた」を見せることが出来ます。
僕はクラウンを経験してから、パフォーマンスがガラッと変わりました。
そして、本当に自分自身を愛せるようになりました。
しかし、残念ながら、日本ではクラウンをやる機会が少ないので、今はオンラインでのワークショップなどで日々研鑽を積んでいます。
いずれ日本でもクラウンが広まり、こんな素敵な体験が出来る人が、もっと増えていくことを願っています。
※10月17日、オフラインでクラウンのワークショップを行います。この記事を見て興味を持ってくれた人は、以下のフォームより詳細を受け取ってください。
※フィリップ・ゴーリエ国際演劇学校での体験は、以下の記事に詳しく書いてありますので、興味ありましたらこちらもご覧ください。