インプロバイザーがストーリーテリングで陥りがちなこと
結論から言いましょう。
見たいものと見えてるものを混同する、です。
例えば、公園のベンチで高校生の男女がこんなやりとりをしています。
男「(脚のストレッチをしながら)俺たち卒業したんだね」
女「(ジュースを飲みながら)あっという間の3年間だったなあ(寂しそうに)」
男「あ、そのジュース、おごりじゃないからちゃんと後でちゃんと返せよ、金ないんだから」
女「わかってるよ、それくらい」
はい、問題です。
このシーンの後、どんな展開になると思いますか???
ーーー
さあ、どうでしょうか?
多くの人が予想した展開は「ロマンス」が含まれているものではないでしょうか?
「どっちかが告白するんじゃないか?」「もしくは別れを告げるんじゃないか?」そう思ったのではありませんか?
もちろんこれは別に間違いではありません。大概の人はそんな想像をすると思いますし、期待します。
でも、ここで問題になるのは「そういう展開以外考えられない」となることです。
このやりとりで「ロマンス」を想像した人は、このシーンを「ざっくり」そんなこと見ているのです。
高校生の男女、卒業式後、2人きり…という設定から、そういった想像をしているのです。
先の会話を振り返りましょう。
男「(脚のストレッチをしながら)俺たち卒業したんだね」
女「(ジュースを飲みながら)あっという間の3年間だったなあ(寂しそうに)」
男「あ、そのジュース、おごりじゃないからちゃんと後でちゃんと返せよ、金ないんだから」
女「わかってるよ、それくらい」
このようにセリフや行動の中には、いくつも謎が含まれています。太字部分がそれに該当します。
・なぜ脚のストレッチをしているのか?
・なぜ寂しそうなのか?
・どのくらいお金がないのか?
・なぜわかってるのか?
この部分に着目していくと、いくつものストーリーの可能性が見えてきます。
・男は脚を怪我していて、ようやく完治したが、最後の大会に出られなかったことを後悔しているのかもしれない
・女はもう寿命で、もうすぐ死んでしまうのかもしれない(だから時間があっという間に感じた)
・男は家族を自分一人で養わなければいけないほど貧乏で、借金取りに追われているかもしれない
・女は男の心が読める能力があるのかもしれない
…など
そんな超展開があり得るのか?って思われるかもしれませんが、ここで大切なのは展開うんぬんよりも、セリフ、行動、表情、態度の一つ一つに物語の可能性が含まれているということです。
しかし、多くのインプロバイザー(ないしディレクター)が、これらの可能性をロスします。
そして、自分が見たこと、やったことのあるパターンに当てはめてシーンを展開させてしまうのです。
物語の、特に冒頭には、もっと多くの可能性が満ち満ちています。
そして世にある素晴らしい物語、映画、舞台は、それらを緻密に計算して作られています。
クオリティの高い物語を即興で作り上げる場合も、それ程の緻密さがあれば良いなあと思います。
つまり、全てに可能性があると思えること、それらに気付けること。
そんなインプロバイザーが増えていけば、もっと日本のインプロの質は上がっていくでしょう。
そしてそんなことまで意識した稽古会を、本日から行っていきます。