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【ゆりうララ】そんなこと起こってない日記3(Fish編)
岩橋由梨と五味ウララがお送りする ちょっとはちゃめちゃな夜のワークショップ『ゆりうララ』。8/28にオンライン開催したこの日は「そんなこと起こってない日記」を書いて、それぞれを声に出して読んで発表しあうというものでした。
事前に書いて参加しても良し、ワークショップ中に15分で書くも良し。前回ご紹介したそんきょさんは、その場で書いた「そんなこと起こってない日記」でしたが、
今回ご紹介するのは、事前に書いてきてくださったペンネームFishさんの「そんなこと起こってない日記」。
こちらは超大作です!
まずは読んでみてください。
そんなこと起こってない日記
Fish
6/15
去年から悩んでいた蕁麻疹は大分よくなった。でも、肌全体がカサカサ(ToT)以前のもち肌目指して、お手入れ頑張るぞー。
6/26
ニュースでは6月には珍しい大型台風の話ばっかり。このノロノロ台風・マサルはやっと日本から離れたと思った途端、何と戻って来るらしい。最近私は、肌がピリピリ痛い。おへその下辺りにぷくぷくっと発疹が出ている。休んでいた飲み薬をまた飲むことにした。
6 /28
ピリピリどころか、ヒリヒリと肌が痛い、痛い!真っ赤な発疹が、立体地図のように膨らんで見える。台風・マサルが戻って来て(しかもより大きくなって!)、電車も止まりバイトも休み。擦れるので服も着たくない。ほとんど真っ裸で過ごす。むき出しのお腹を見下ろすと、数日前までは右、一昨日は左脇腹にあった赤い玉状のブツブツが、逆Uの字を描きながらまた右のお腹へ戻りかけている。Uターンする蕁麻疹なんて変なの、マサルみたいだ、ウケる〜。顔が入らないようにお腹の写真を撮り、(我ながらキモいので)閲覧注意をつけてSNSへアップした。フォロワーもつかずちょっとヤケクソ気味(笑)。
7/1
マサルはまだいるのに、カントンが接近中。な〜んて書くと私モテモテみたい♡台風の話だけどね。新しい蕁麻疹がオヘソの下の方に出現。小さいのに猛烈に痒い。大きくなりそうな予感…。この画像もSNSへ。
夕方、今は薬だけもらうクリニックの看護師長から電話あり。最近の蕁麻疹の様子を尋ねるので悪化したと伝えると、診察をと強く言う。明日は日曜だけど特別に診ますよと圧をかけられ?予約を取る。いつ見ても忙しそうな怖いヒトなのに、わざわざ電話をくれるなんて、キャラ変か?
7/2
強風の中、クリニックへ。今日はおじいちゃん院長の他に白衣を着たイケメンもいる。おじいちゃん先生はなぜだかキョドり、ほぼ無言。イケメンが失礼、と言い、細い金属のペンのようなもので、お腹から鎖骨まで私の肌をゆっくりとひっかく。たちまちみみず腫れが…出たが、その紅い線は鎖骨まで行かず、なぜかぐいっと曲がり左下乳で止まった。始まりの場所を変え何回が試すが、必ず線は左下乳で止まる。ほぉーとイケメンが呟く。なに遊んでんの?!と、もう少しで言いそうになった。
帰宅後、爪で自分の肌をひっかき、みみず腫れをくいっと曲げる動画を投稿。プチバズった。
7/8
マジびっくり。私は今、「お屋敷」のふかふかベッドに寝転んでいる。
今日、政府の偉いさんと、気象庁の偉いさん、そしてあのイケメン皮膚科医が突然アパートへ来た。それだけでもびっくりなのに、彼らの話に二度びっくり。
私の発疹は最近頻発する大型台風の進路とリンクしている…というのだ!
体感ではそうだったがそれは偶然、ギャグのつもりだったのに。しかも私の発疹の方が、台風よりも幾分先に現れる。ほとんどが数分、数時間の差だが、非常に有意義な差だ、と政府のお偉いさんはツバを飛ばす。人々を避難させたり、交通規制を行ったり逆に解除したり、進路が事前に分かればできる事はたくさん沢山あるそうだ。
そのためにも私を、いや私の蕁麻疹を観察したい、情報漏洩を防ぐために私を管理下におく…いや、ゆったりと過ごして頂きたいので、ぜひお連れしたい場所がある。その屋敷にはコックもハウスキーパーもいるので、な~んにもする必要はない。もちろんお礼としてこれこれの金額を支払わせて頂きます…。
これこれの金額はフリーターの私の数年分の年収…、そして、台風シーズン=夏休み。面白そうじゃないか? 私は即オーケーした。そしていま、びっくりする程のお屋敷のふかふかベッドに寝転んでいるって訳。ゴージャスなホリデーを過ごせそう♡
今の台風・アサドは東京を直撃し、外は大荒れ。私のオヘソ周りは大粒の発疹で真っ赤っ赤だ。写メを撮ろうとし、SNSを禁止されている事を思い出した。
7/9
昨日の続き。彼らはSNSで私を発見し、注目したんだって。マミは気圧の変化で頭が痛くなるってしょっちゅう学校フケてたけど、私の蕁麻疹の悪化も、恐らく台風による気圧の変化によるものらしい。ただ、なぜ台風よりも先行するのかはわからない。台風って自分で動く事ができないんだって!周囲の風や気圧が東西南北に動かすだけ。トリビア〜。ごくごくわずかな気圧の動きをも私の自律神経は敏感に察知し、そのストレスが蕁麻疹になるのでは、とイケ(メン医者の事。面倒なので)は言う。過去、世界で数人、同じ能力を持つ人達がいた、と聞き、繋がりたい!その人達は今どうしているの?と叫んだ途端、彼らの顔に貼り付いていた笑顔が消えた。
7/11
また続き。私の体の表側を日本地図(ぎゅっと圧縮した地図ね)に見立て、毎日データを取る。中心のオヘソは東京。向かって右側は東北や北海道(こちら側には元々あまり発疹は出ない)。左側は四国、九州、少し離れて沖縄(確かに左半身に蕁麻疹は出やすい)。世界は広いけど私は小柄だし日本人だから、日本近辺での進路さえ分かれば充分なんだってさ。
7/15
シルクのパジャマがさらさらと肌を滑る。素肌にいいとネットで知ってはいたが、高価でとても手が出なかった。今は下着やTシャツ、部屋着までもがシルク製品。美味しいご飯も、三時のおやつも上げ膳据え膳。欲しいゲームやコミックもネットで買い放題。日に数回、イケ医者に肌を見せるだけで(キャッ♡)、私は一銭も使わない。こんな美味しい話、自慢したいが、SNS同様皆への連絡も禁止されている……。ちょっと淋しいな。
7/25、 だと思う。
ダルい、体が重い。ハウスキーパー、料理人、皆が身の回りの事をやってくれる。もちろんアルバイトは辞めた(辞めさせられた)。この屋敷へ来てから外出はもちろん、ほとんど体を動かす事はなくなり、はっきり言ってかなりデブッた。今年は台風の当たり年らしく、大きな奴らが次々とやって来る。つらい、夜も眠れない。薬で抑えたいと訴えたのに、処方された薬は全く効かない。ヤブ医者だ。
8/1
運動したいと強く言ったら、中国人のイケオジが来た。太極拳の名手だと言う。何もしないよりはとレッスンを受ける。意外と汗をかいた。
夜、超豪華な中国料理のフルコースが出た。中国料理の名コックでもあるんだって。明日はレッスンの後、飲茶を振る舞う、とニコニコして言う。超超美味いけど、どう考えても摂取カロリーの方が多いんだよね…。
8/5
チャイニーズの数日後から、アメリカ人のイケオジもチームに加わった。スポーツ万能だと自分で言っちゃって、君と一緒にフットサルをしたかったんだけど、と強風で荒れ狂う庭を指し、肩をすくめる。そしてあぁ、彼は優れたパティシエで、食後のデザートはもちろん、繊細で優美なアフタヌーンティの世界を創り上げるのだ。いけない、と思いながらも食べてしまう。他に楽しみもない。満腹すぎて頭もぼんやり。今の台風は何号? ステファンだっけ?いやコン・ユ? 何でもいいや、ただ早く去って欲しいだけ。
8/16
夜中に目が覚めた。まだお腹がいっぱいで気持ちが悪い。毎日ご馳走三昧。太った分、蕁麻疹の範囲も広がった。今まであまり出なかった体の右側に頻繁に発疹が出る。あちこち痒い、痛い。せめて胃袋だけでも落ち着かせようと、散歩する事にした。そっと部屋を抜け出して長い廊下を歩いていると、広間のドアの隙間から、イケ医者の声が聞こえた。
「……拡張はもう限界ですね。元々小柄だし短期間過ぎて、負担が大きすぎます」
「しかし、あと一歩なんだよ」唸るような中国人の声。
「もう諦めたらどうですか?」渋い米国人の声もする。
「君、いや貴国はいいよ、もう出現したんだから。…後から来たくせにな」太極拳の名手らしい、普段の大人めいた言動に似つかわしくない吐き捨てるような声だ。
「Uh-hun!私は拡張に協力しましたからね。女性は美しいスイーツが大好きだ」
「わ、私だって腕をふるっている!いま、満漢全席の材料を取り寄せている所だ。それを食べれば彼女ももっと肥えて、歴史ある我が祖国も必ず出現…」
「まあまあ」
なだめるような日本政府高官の声。
「もちろん広く世界に役立てればとの気持ちから、高額なレンタル料を頂いておりますが…このご時世、維持費の捻出もなかなか大変ですからね。ただ元々アレは日本の貴重な資源ですから、どうぞお手柔らかに」
そっとそっと私は部屋に戻った。
8/17
脳内バグっていたが、やっと少し考えられるようになった。……資源って私の事だよね?拡張って…デブッた事だろうか?この豪華な夏休みと引き換えに、私は大国に売られたって事? そのうちピロシキが出てきそう。おばあちゃんが言ってたな、タダより高いものはないって。台風シーズンはまだ続くけど、止めた止めた!もう帰る。ママのカップラーメンや友達と喋りながらのマックが懐かしい。まずはダイエット、いやハンガーストライキだ。
8/28
部屋のドアが開いた。イケ医者の強張った顔が、ベッドの私を覗き込む。思いっきり睨みつけた。
短期間で一気に体重を増やし、今度はいきなり食事を摂らなくなった体は抗議の悲鳴を上げた。利用されたストレスもあったと思う、心筋梗塞を起こしたのだ。薄れゆく意識の中で、これで病院に行ける…外に出られる…と嬉しかったが目を覚ましたのは結局お屋敷のベッド。イケ医者は皮膚科だけではない、内科、外科、産婦人科、脳外科まで、ほぼ全ての医師免許を持つ、超超エリート様だったのだ。私は蘇えり、まだ震える手で、こっそりこの日記を書いている。でも過去じゃない、先の事を書く事にした。台風の進路がわかる(らしい)私、自分の未来が読めないはずがない。
「今日は…確か8/28。夏がそろそろ終わる。私はアパートへ…帰って来た。そうめんを茹で、ダイエットの続きをする。それから、……」
雁首揃って覗き込んでいるオヤジ達に、ふかふかの掛布団を一気に叩きつけ、私は走り出した。
(終)
この企画は、
8月28日といえば、夏休みの宿題に追われていること、日記を書くのを忘れていて思い出すのに苦労した、というウララのエピソードから思いつきました。
ほんとのことも少し織り交ぜながら、ちょっとほっこりしたりしょんぼりしたりする日常を切り取ります。
そんなこと、起こってない日記、みなさんなら、どんなこと書きますか?
というお題で、参加者の皆さんの想像力と創造力におまかせして書かれたものを声に出して読んでいただいたのですが、Fishさんのこちらは、もう、日記という形をとった
小説!!!
だと思いました。実際に今年は台風が重なってきた時期がありましたもんね。あの台風をことをこういうふうに捉えられたら、私の偏頭痛ももう少し楽しめただろうなぁと思ったり。秘密の日記を覗き見してしまったような感じもあり、とてもワクワクしました。
今回のそんなこと起こってない=架空 の日記を書いてみる、という試みをやってみて、どんなに嘘のことを書いても、逆に、書いている人の本音や願望みたいなものが透けてみえてくるんだなぁと感じました。それは「日記」という誰かに読ませるためではない超個人的な書きものという形式だからなのでしょうか?
でも、よく考えてみたら、
そんなこと起こってない日記は、自分で書いて自分だけが読んでも成立しないかも?!誰かに読まれる可能性を想定していなければ、日記にウソを書く必要がないですよね・・・??
あぁ〜ただのあそびだったのに意外に奥が深そうです(笑)
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ちょっとはちゃめちゃな夜のワークショップ『ゆりうララ』は、少しのあいだお休みをして、またそのうち開催する予定です!おたのしみに〜