笑顔に勝るものは
ゆきの
ない。
写真がない。
私が写っている写真がない。
11月3・4・5日に開催されるプレイバック・シアター・ラボ主催のワークショップ・フェスティバルに、ファシリテーターとしてエントリーした。全6枠あるうちの1枠にソロのファシリテーターとして、1枠はたかさんとコンビでワークショップを担当することになる。
そのフェスティバルのホームページでのファシリテーター紹介文に、顔写真があった方がよいという連絡が事務局からあった。
他のファシリテーターは、元々プロフィール用写真をお持ちだったり、スナップ写真の中から使えそうな写真をアップされていた。
私も慌てて自分のスマホに保存されている写真をスクロールしてみたが、風景ばかりで自分が写っている写真は片手ほどしかない。もちろん、到底プロフィール写真に使えそうなものではない。
本当はできれば顔出しはしたくない。でも、みんなアップしているし、ファシリテーターを目指しているのであれば自分をアピールしていくことも必要なこともわかっている。ワークショップへの申し込みを考えている方にとって、どんな人がファシリテーターなのか顔をみて雰囲気がわかれば参加しやすくなることもあるだろう(逆もあるか?)。
いろいろ迷ったが、コンビのたかさんと写真の取り合いっこをすることにした。ただ、たかさんと会える日の天気予報は雨だった。
またまた迷ったが、たかさんに会う前の薄曇りの日曜日、意を決して息子に写真を撮って欲しい旨を伝えた。プロフィール写真になることを説明し、ネットで検索した「プロフィール写真の撮り方」を見せた。
彼は、改めて撮るよりもすでにあるスナップ写真を利用した方が自然な感じでいいのではないか?と提案してくれたが、私のスマホに保存された写真を見て納得し、写真撮影に付き合ってくれることになった。
自宅マンションの中庭で、樹々をバックにしたりベンチに座ったりしたりしながら撮った。撮っていると、少しずつ自然な感じで撮れるコツが掴めるようになってきた。何でもないことをおしゃべりしながらリラックスした状態で撮るのがいいみたいだ。よくプロのカメラマンは被写体であるモデルさんに話しかけながらカメラを向けているが、そういうことだったのかと改めて納得した。
撮ってもらった写真の中から3枚ほど選んでプロフィール写真の候補にした。あとはたかさんと撮った写真の中からも何枚か選出すればいい。
候補にした3枚の写真を息子に見せた。
「これがいいよ。」
すぐに彼はその中の1枚を選んだ。私の中では「多分これはないな」と思っている写真だった。
なぜその1枚を選んだのか聞いてみた。そうすると一言、
「笑顔に勝るものはないでしょ。」と。
3枚のうち、その1枚だけが笑っている写真だった。
そういえば、私の子供の頃のアルバムには、真面目にまっすぐ正面向いて「気を付け」して立っている写真が多い。両足の踵をつけて上から見た足の角度はどれも45°。そこから上へスッとまっすぐに足が伸びている。両手は前で重ねており、視線もまっすぐにカメラレンズを直視している。
そんな写真は見ているだけで肩が凝る。子供なのに無邪気に笑っている顔の写真はほとんどない。どれも不安そうな眼でこちらを見ている。
「エ・ガ・オ?」
なんだか初めて聞いたような響きだった。
私が笑顔なんだ。
私が笑顔で写真に写っているのか?!
確かに彼が選んだその写真の中の私は、こちらににっこりと微笑みかけていた。
あとの候補写真は、髪で半分顔が隠れていたり視線を外していたりして、私としてはこちらの方が自分らしい感じがしてしっくりきていた。この2枚のうちのどちらかになるだろうと思っていた。
しかし、息子の言葉を聞いた瞬間、まるで魔法が解けるように身体の力が抜けた。そして無意識に抱えていた「笑ってはいけない私」がどこか遠くに飛んでいった感覚があった。
それから数日後 天気予報どおり雨になったその日、たかさんにも3枚の写真を見せた。
「ゆきのさん、これがいいよ!すっごくいい笑顔 ~~」
たかさんも迷わずすぐに同じ写真を選んだ。
私はその写真をソロ・プログラムでのファシリテーター紹介に載せてもらうことに決めた。
たかさんと中目黒のおしゃれなカフェで撮り合いっこした二人の笑顔の写真は、ラボのマネージャーのうららさんに相談し、コンビでのプログラム紹介にセンスよく載せてもらうことになった。
http://playbacktheatre.jp/opencourses/wsfes/
本来この原稿は、ワークショップ・フェスティバルを終え、ファシリテーターとして参加して得たものや勉強になったこと、反省点などを書くべきものなのだと思う。エントリーから企画・相談・練習・本番・振り返りまで、とにかくたくさんの経験をし、たくさんのことを感じてきた。
また、主催者/講師である羽地さん・ゆりさん・ヨースケさん、マネージャーのうららさん、エントリーファシリテーター仲間のたかさん・あやのさん・まきちゃん、特別プログラムの環さん、そして素敵な出会いをくれた参加者の皆様、多くの人に援助いただき関わらせていただき、感謝の気持ちでいっぱいだ。
とても書ききれない。
なのでここでは、今回のたくさんの心揺れる経験の中の、小さなひとコマを書かせてもらった。他の人から見ればもしかしたら何でもない当たり前のことかもしれないが、私の中では大きな出来事だった。ワークショップ・フェスティバルにエントリーしなければプロフィール写真を撮ることなんて、もしかしたら一生なかったかもしれない。
実は、こういうことはアーツ・ベースド・ワークショップに参加しているとよく起こる。意図するわけではなく、自然な形で ”アート” と ”人との対話” がそこにある時、自分の中の何かが動く。その瞬間に気づくこともあれば、時間を経て日常の生活の中でひょっこり感じることもある。
この不思議。
私はファシリテーターとしてそこをやりたいのだと、今あらためて心から思った。
*ゆきのさんのnoteはこちらです
https://note.com/lively_serval705