名曲プレイバック 第6回 制服のマネキン

唄: 乃木坂46

作詞: 秋元 康  作曲: 杉山 勝彦  編曲: 百石 元

2012年(平成24年) ソニー・ミュージック・レコーズ

 「恋をするのはいけないことか?」

 インパクトの強いフレーズがサビに置かれたこの曲は、乃木坂46にとって大きな節目となった曲と言えよう。デビュー曲の《ぐるぐるカーテン》以降、フレンチポップスを意識したという曲調が続いたが、ここで大きく舵を切った。マイナー調で書かれ、循環コードが曲を支配する。決して広く無い音域を、リズムを聴かせるように音が飛び回る。そこに激しいダンスが加わる。笑顔はない。MVも学校を舞台にレーザービームとスポットライトを用いた光と影の演出が徹底して行われる。

 アイドルあるいは歌手の歴史上、いかにカラーを変えるか、いかにカラーを増やすかは常にプロデュース側が考えることであるが、乃木坂にとってこの楽曲は自身のパレットにある色を格段に増やすきっかけとなったのは言うまでもない。単なる「かわいい」集団ではない。「カッコよさ」も持ち合わせていることを知らしめた。

 デビュー曲から一貫してセンターを張る生駒里奈にその「カッコよさ」のかじ取りは任された。彼女の瞳には力がある。後の欅坂センター・平手友梨奈に通ずる。MV中時折見せる彼女の眼差しは、見るものの心を読み透かすような鋭さがある。あえて笑顔を封印した最も大きな意味はこの生駒の眼差しを示すためではないかと思うほどである。それまでも十分にセンターとしての役割を果たしてきた生駒であるが、この楽曲は彼女の個性を十二分に引き出せた楽曲であると感ずる。というのがこの楽曲の世間的な評価の一つであろうし、筆者もそう思う。

 楽曲は確かにカッコいい。新たな乃木坂を見せられた。しかし、そのメロディーに乗せられた詞はある意味アイドルとしての彼女たちを自己否定するようなものであった。同時にアイドルという言葉のもつ偶像という観念と、偶像としてのアイドルの自己を投影したものでもあった。恋をすることを禁ずるような風潮で、「恋をするのは…」と歌い、感情を隠したら制服を着たマネキンであるという。アイドルというもののある種の虚無感がそこにある。彼女たちは戦っている。生駒はその先頭で戦っている。アイドルとは湖の白鳥のごとく、美しさの裏に想像を絶する過酷さを併せ持つ。その一端がこの曲に現れているのであれば、これは世間へのメッセージなのかもしれない。

 「私たちは制服を着たマネキンなんかじゃない」。

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