ショートショート【初めての好きな人】
「おい、お前の好きな人って誰だよ。」
中学2年生の時、下校中に友人から声がかかった。中学生といえば、言わずもがな思春期真っ盛りな時期であり、この手の話は種が尽きない。今回は僕に白羽の矢が立ったということだろう。
「別にいないよ。」
そう答えて、さっさと話しを変えようとするが、どうも食い下がらない。
「いなくってもさ、こう気になる人とかいないのさ。」
とどうしても話の種が欲しいみたいだ。僕は、いろんな女子を思い浮かべては迷惑が掛からない、気になるような人を探してみた。そうすると、一人思い当たる人がいた。クラスで目立つような女子ではないが、話していて優しいと思えた人だった。
「あの子かな。優しいし。」
と単調に答えたつもりだったが、友人は嬉しそうに「そうかそうか。あの子か。くっつけてやるよ。」と意気込んでいる。
迷惑も掛かるし、やめてくれと伝えるも当の友人は上の空のようだ。後日、しっかり口止めしておこう。
嘘から出た誠なんて言葉があるが、僕が思っている以上に言葉にしたことでその女性を気になるようになっていった。口止めはしたが、そんなのは意味もなく、色んなところで噂されていることがよく耳にはいった。
その後、僕のもとへその女性の友人から声がかかり、告白する段取りを決めたから告白しなさいと言われた。僕は急なことで、動揺していたがここは男を出さなければならないと意気込みをして、お願いすることになった。
告白の作戦はこうだ。彼女の友人が僕の名前を出さずに用があるからと公園へ呼び出す。そこに僕が来て愛の告白をする。単純だが、仲介に彼女の友人が出てくれることはありがたかった。どんな言葉がいいか考え、手土産まで用意してその日を迎えた。
当日、僕は公園でドキドキしながら待っていた。彼女が表れて、すぐに伝えた。
「実は好きだったんだ。付き合ってくれないかな。」
彼女は困惑しながらも、その状況を飲んでくれたのか、考え込んでいる。
そして、ドキドキしながら風が吹く音が流れている中。
「いいよ。私も初めてだから分からないけど。」
と返事にOKが出た。その時の感情は嬉しい一色であった。
翌日には友人に言い、感謝を伝えながら、一方で「誰にも言わないでね」と言ってお付き合いが開始した。
では、付き合った彼が何をしたかというと何もしていない。友人と談笑して、時折メールで彼女とやりとりしていたのだ。
1週間後には彼女から別れようと手紙をもらった。1週間しかたっておらず、何もしてあげられていないこと、何より別れることにショックを感じ、涙ながらに帰宅した。
その後友人から聞いた話だが、彼女は噂されているのが嫌だったらしい。本当に口止めは意味をなさないのだなと感じた。
後日、私は友人へこう聞いた。
「そういえば、好きな人ってだれ?」