平和的なボノボ社会を支える「ニセ発情」の役割〜「横山拓真の霊長類研究所」より
はじめに
私たち人間に最も近縁で平和的な類人猿と言われているボノボ。
では、なぜ彼らはそのような平和的な社会を築けるのでしょうか?
この動画では、霊長類研究者の横山拓真博士によりなぜボノボが平和的な社会を築けるのか、チンパンジーとの比較や発情周期の影響などに焦点を当てながら紹介されています。
発情周期の違い
チンパンジーとボノボは見た目が似ているため、非常に近い種であると思われがちです。しかし、これら二つの霊長類には発情周期において大きな違いがあるのをご存知でしょうか?
まずチンパンジーのメスは、出産から次の出産までに約6年かかり、出産してから約4年以上は発情期は訪れず、その後ようやく1年程の発情期間が訪れると言われています。
一方ボノボのメスは、出産から次の出産までに約5年の期間がかかりますが、出産から1年が経過する頃には発情期が訪れ、そこから以後数年に渡り発情期が続いていくという形になっているのです。これはニセ発情と呼ばれるボノボ独自の現象が関わっています。
ニセ発情とは?
このニセ発情とはいったい何なのでしょうか?
通常ボノボのメスは、出産後約1年間は排卵せずに発情しない期間があります。その後に始まるのがニセ発情と呼ばれる期間です。
ボノボやチンパンジーのメスは、性器の周りにある性皮と呼ばれる皮膚が発情期になり排卵日が近くなるとピンク色に大きく腫れるようになります。
ボノボの場合ニセ発情の期間にも、性皮は大きく腫れるようになるのですが、この時実際には排卵はほとんど起こっていないのです。
つまり交尾をしても妊娠することがないので、こういった状態のことをニセ発情というのです。この期間がおよそ2年以上続いた後にようやく本当の発情期が始まり、排卵が行われ、妊娠の可能性がある状態に移るということになります。
ニセ発情がもたらす影響
チンパンジーとボノボの最大の違いは、ボノボが持つ平和的な社会構造だと言えるでしょう。
ボノボのメスはニセ発情のおかげで、性皮が腫れている期間が長くなります。そのためグループ内で性皮が腫れているメスの数が増えるため、オス同士は争わなくても誰とでも交尾ができる可能性が高まるのです。
一方チンパンジーの場合、ニセ発情と呼ばれるものはなく、通常の短い発情期があるのみです。その短い発情期の中で性皮が腫れているメスが瞬間的に1匹、2匹と現れることになるので、その少ないメスを求めてオスが争い、時には殺してしまう程に激化してしまうということが多くなるのです。
この発情周期の違いを生み出しているニセ発情というものが、ボノボが平和的な社会を築けている要因の1つではないかと言われています。このことがボノボの社会において重要な役割を果たしているのです。
さいごに
ボノボはメスのニセ発情によって発情期が長くなり、結果オス同士の争いが減り、平和的なコミュニケーションが可能になったということがわかりました。
今回紹介したチンパンジーとボノボの違いや、ニセ発情の役割について、さらに詳しい情報が知りたい方は、霊長類研究者である横山拓真博士のYouTube動画をご覧ください。動画では、発情周期の違いや、それが社会構造に与える影響について、よりわかりやすく解説されています。