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世迷言

8月の30日と9月の3日あたり。

いつものように、せかせかと仕事をしていると、医務室の端っこに人が立っているのを目撃した。
久々のことだったのだけど、やり方(?)は忘れていない。瞬時に同じ対応をする癖がついている。
特に気に留めないこと。見えても見えていないかのように、いつものように動くこと。あまりフォーカスしないことだ。

通り過ぎる瞬間にしっかり見えることもあれば、デスクに向かっている時に視界の端っこに映っている。職業病とも言える魚眼なので周辺の状況を把握してしまうのは仕方ない。でも、気に留めないこと。

しかし、何で急に現れたんだろうな?と、ちょっと暇になると考えてしまう。今まで居なかったのに。

私くらいか、もう少し身長がある黒髪の40代くらいの女性。化粧っけのない地味な方だ。利用者様というよりは以前に居た職員なのかも知れない。だから医務課に居るのかな?

なんてことを思っていても口にしなかったのに、医務室の前を通った職員が通り過ぎた後に戻って来て『今、そこに誰か居るように見えたけど。。。』と入口から私に話しかける。

「そ?」と言いながらも内心は「指をさすな、指を。」と焦っている。あと、口にしなさんなって。
その医務課のコーナーに居る人は丁度私のロッカーの真ん前に立っていることが多くて、特に私がpcに向かったり、何かに夢中になると歩を進めて近づこうとしていた。でも、これもよくあることなのだけど、2~3メートルの地点でもがいているような様子だった。どうもそこからこちらには近づけない仕組みになっているらしい。

そんな数日の静かな無視に近い攻防の最中に、その職員が「今そこに・・・」などと言うものだから、こういうときはちょっと怖い。
完全無視の私に相対している時には無表情だったその類の人がバッ!と顔をあげたり、相手に注目したりするときの表情は私も怖いなと感じるのだ。
そして、「そ?」と取り合わない私に「気のせいか。」とくるりと背を向けて去って行く人の後をそんな存在がついて行く。突然髪の毛が伸びたかのように長くなって振り乱して追いかけて行く。

もう冷静ではいられなくなって、慌てて入口まで走って廊下の先に向かってついつい大きな声を出してしまう。「こら!違うよ!」と。

髪を振り乱して人を追いかけるその存在を怖いと思うのと同じくらい、そんな時の私も怖いと思われる。生を持った人と持たざる人の二人が怒鳴り声に怯えて振り返る。特に持たざる方の人の怯え方は半端なく、そのまま遠くへ消えてしまう。

困るのは生者の方に「何か間違ってましたか?」と訊かれること。適当に言い訳をして自体は治まる。
それにしても何だったんだろう。
思うに、うちのナースさんの誰かが連れて来たのでは?と思う。

何もしてあげられない人に関わるべからず。でも、ちょっと祈らせて貰うくらいは良いだろう。道に迷わず行くべきところに辿り着けますように

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