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文鳥とKちゃんと神様
当初、施設内に入居中の方々の集団ワクチン接種を○○中学校とか○○広場で行うという話がされていた。
それを聴いたときは、ビッと毛が逆立つような思いで、「うちの方々を中学校だの広場だの、大勢の人が居るところには出さない!1年以上守り抜いて来たんだから!」と口が勝手に動いた。
でも、しばらく静観していると、施設内で行われるということになり、二人以上の医師がいるときに接種するという話になった。職員も同日に接種とのこと。
とはいうものの、凄い人数だから1日で行うというわけには行かない。入居者様たちは配置医、職員は産業医に打って貰うということで話がまとまり、4回に渡って行うというところまで段取りがついた。
が、まだ区が混乱していて日にちの見通しは立たない。しかし、腹を立てている場合ではない。いつ始めると言われても良いように予診票を集めなくては。
それから次々と予診票が送られてくるのだけど、ほとんどが白紙か半端に記入されているもの、あるいは間違っているものばかりだった。致命的なのは”接種を受けます”というところにもチェックがついていない人が多いので、一件一件ご家族様にお電話をかけまくってご意向を確認したり記入したりしている日々。
そんな中、今度は配置医の先生と産業医の先生がもめるという事件があった。お二方ともキレッキレッの仕事をこなす女医さんで、普段から非常にお世話になっている。しかし、この1年以上もの間、お二方ともご自身のクリニックを経営する傍ら、発熱外来に駆り出され多忙を極めて疲れ果てているのだろう。日にち合わせでの話し合いで双方イライラしてもめてしまった。
Kちゃんは、これをキングコブラと巨大マングースの闘いと言って笑った。いやいや、その間にいる私はどしたら良いの。どして笑えるの。
そんなことやあんなことで悩みつつ、でも、手と頭は動かさななくてはならない。さあ、次のお宅へ電話だ。
予診票すら届いていないご家族様のところへ電話したときのことだった。
「ダメだよ。ダメ、ダメ。予診票がボロボロ。うちの文鳥たちにつつかれちゃったんだよ。」
・・・・・・・・・。どんだけ文鳥飼ってるんですか。
それまで深刻なことばかり考えていたのに、ぶっ!と吹き出してしまった。もしかしたら文鳥さんたちは打って欲しくないのかも知れない。でも、まあそれを言うわけにも行かないので、ゆっくりで良いから再発行して貰って下さいとお願いした次第。
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朝から雨がざんざん降っている日だったが、夕暮れ時に日がさして来た。
くさくさする出来事の中で、その光景が凄く美しかった。
だから、風邪がまだ抜けきれなくてゾンビみたいな状態になっているKちゃんに「見て!Kちゃん!」と声をかけた。「あそこの雲間から光がさして、まるで神様が降りて来るみたいだよ!」
しかし、Kちゃんは「捕まえよう!絶対捕まえよう!」と言う。
意味がわからない。
でも、逃げて、神様。今のKちゃんの尋問は神様でもきついと思う。色々訊きたいことがあるらしいです。