生活道路と自動車の関係を考えるー生活道路における最高速度時速30キロ規制導入道路交通法施行令の一部を改正する政令案パブリックコメント
私たちが最もよく歩いたり、自転車に乗って移動する生活道路。この生活道路を走る自動車の最高速度を時速30キロと定める法律案に対して、国は国民から広く意見を求めるパブリックコメントを実施しています。
国のパブリックコメントサイトは下記リンクになります。期限は2024年6月29日までです。
Plat Fukuoka cyclingは『世界に学ぶ自転車都市のつくりかた‐人と暮らしが中心のまちとみちのデザイン』の編著者である宮田浩介さんをメインスピーカーとして、人の暮らしが中心のまちとみちのデザインを考える上でも重要な今回の法律改正のパブリックコメントについて、2回にわたり、オンライントークの場を設けました。2回にわたる内容の議事メモは公開しております。
今回は、上記の内容とともに今回の道路交通法の改正の意味を共有したいと思います。
日本における生活道路・自転車町内に関する国の取り組みについて
『世界に学ぶ自転車都市のつくりかた』において日本における自転車利用の基盤として紹介されている「自転車町内」。この自転車町内を構成するのが生活道路です。
上記のように自動車に「抵抗」してきた自転車町内である生活道路の変遷から整理していきます。
生活道路の自動車への「抵抗」は1956年大阪で事実行為として「遊戯道路」が認定さて以降、1972年スクールゾーン、1974年生活ゾーン規制、1981年コミュニティ道路化推進、1988年シルバーゾーンなどが取り組まれたのち、ゾーン30の始祖といえるコミュニティゾーンが1996年に誕生します。
コミュニティゾーンの誕生からゾーン30確立までの20年
1996年につくられたコミュニティゾーンは(自動車によって)快適な生活環境が侵害されている場所の安全対策として日常生活圏、小学校区などの概ね25~50haの範囲で最高速度時速30キロ制限や通行禁止など交通規制、ハンプや狭さく、歩道の整備などを盛り込んだものです。オランダにおけるゾーン30の導入が1984年頃であることから、10年越しの制度制定になります。
このコミュニティゾーン制度はゾーン設定のむつかしさと予算措置の課題から全国的に普及に至らなかったそうです。
その後も2002年くらしのみちゾーン・トランジットモール事業(くらしのみちゾーンは歩行者・自転車優先のみちづくりがコンセプト)、2003年あんしん歩行エリア(住居系地区等の歩行者等の安全通行確保対策)などの取り組みが続けられ、2015年ゾーン30の制度導入に至ります。
コミュニティーゾーンの経緯を踏まえ、面積に関わりなく、歩行者等の通行が優先され、通過交通が限りなく抑制されるべき地区を柔軟に設定でき、かつ必須要件は最高速度時速30キロ規制のみとし、一方で選択的対策としてハンプ、狭さく、車道中央線の抹消などができるようなっています。
今回の法改正による生活道路における最高速度時速30キロ規制とこれまでのゾーン30との関係について
今回の法改正、道路交通法施行令(施行令とはその法律を実施するために制定されるルール)の改正の内、最高速度に関する項目のみ抜粋し、その解釈を付け加えました。まとめると中央線や複数車線のある道路、複数車線がなくとも物理的に非対面通行でない道路では最高速度が時速60キロとなり、それ以外の一般道路を時速30キロを最高速度とするというものです。
しかし実際の街の道路標識をみると最高速度が時速40キロなどがあります。これは規制速度といい、交通事故と交通の円滑化等の観点から道路状況に応じて補正をかけた結果です。
今回の法改正までは、これまでゾーン30などの名称で速度規制基準を基に自動車の最高速度を規制してきたものを、法律上でもいわゆる生活道路の自動車の最高速度を一律時速30キロと定めたものです。
これにより、これまで速度規制がない時速60キロで走れてしまっていた危険だった生活道路でも自動車の最高速度は時速30キロで規制されることになります。
★今回の法改正の論点ーパブリックコメントのポイントについて
2回に渡り実施したオンラインでのミーティングでの出ました論点をまとめていきたいと思います。
今回の生活道路での最高速度時速30キロ規制について
自動車によって快適な生活環境が侵害されている場所の安全対策としてコミュニティゾーン制度が制定されてから28年を経て、道路交通法で中央線や複数車線のある道路、複数車線がなくとも物理的に非対面通行でない道路、これらを生活道路と捉え、「最高速度は時速30キロ」という規制の明文化されることになります。
筆者は自転車町内を構成する生活道路への最高速度の時速30キロ導入は、これまでの政策の積み重ねから今回の法改正があるという趣旨で、賛成の意見を出します。
生活道路の最高速度が時速30キロとなることで社会的なメリットとデメリットについて
今回の生活道路における自動車の最高速度が時速30キロとすることは、欧米先進国を中心にすでに導入が進んでいます。各国での情勢は多少の差はあるものの、共通するのは学校や病院の近くや住宅街などでは住民からの支持も高いが、それ以外では根強い反対論があるということです。
では私たちが実際に移動する速度はどの程度のものかを示したのが全国旅行速度図です。ここで示されているのはラッシュアワーを中心に車の旅行速度の遅い方を優先的に示した図です。
大都市圏だけでなく、県庁所在地などの都心部でも自動車の旅行速度は時速30キロも出せていない状況です。
この状況は渋滞しているという面ではマイナスですが、これにより自動車の利用は抑止され、人びとが他の移動手段を選択する契機ともなり、旅行速度の低下は歩行者の安全や重大事故の防止の役割を果たしているといえます。旅行速度の低下の社会的なメリットは英国のウェールズにおいて、自動車の損害賠償請求額の削減という形で目にみえる形でもデータが出てきています。
生活道路での事故の削減にもつながる今回の改正は社会的費用という側面でも社会全体にメリットがあるといえます。
生活道路における今回の時速30キロの導入におけるデメリットとして、人家もないような農道などでも導入されるのかについて、国家公安委員会委員長の記者会見の要旨の中でも、その点は国民から意見をもらうとして、その導入範囲のあり方については、もう少し議論がなされると思われます。
筆者は生活道路への時速30キロ規制の導入において、エリア的な線引きを検討する必要がある場合は、都市計画などで定める市街化地域やいわゆる既存集落(自治体によって住宅密度の基準あり)などをベースにエリア指定を行う必要はあると感じています。
生活道路における最高速度時速30キロ。その実際の交通規制としての取り締まりのあり方について
今回のオンラインミーティングでは、実際に導入された結果、どこまでその実効性が担保できるかを問う意見がでました。
近年は移動式のオービスなどで取り締まりの実施が行われていますが、パブリックコメントとして挙げるにおいては、ISA(速度自動抑制装置)の導入の検討があがりました。
ISAについては、国でも多くの車の暴走事故などを受けて開発と導入にむけた提言がなされています。近年の新車では自動運転や踏み間違い認知機能などの技術がすでに導入されつつあります。今回の法改正で導入にむけた動きとなるよう意見を出すこともいいと思います。
★最も重要かもしれない「中央線または車両通行帯のある道路」(第1項ハ道路)の解釈について
改正案第1項のハにある「中央線または車両通行帯のある道路」(以下、「1項ハ道路」)の解釈がオンラインのセッションの中でも議論があり、今後の生活道路の運命を握っているように感じました。その理由は下記のとおりです。
生活道路の線引きを中央線のみで行ってよいのか。歩道の有無も考慮されなければならないのではないか。
車両通行帯のわかりにくさ(複数車線でも車両通行帯ではないものもある)があり、自動車にとっても分かりくいため整理が必要。
「自転車通行帯」も車両通行帯に含まれるのかの解釈が必要ではないか。その理由として、自宅周辺の移動で使われる自転車にとって、その道路が生活道路ではなく、第1項ハ道路と解釈された場合、自転車通行帯の横を高速の自動車が走る状態(最高速度時速60キロ)が発生する可能性がある。
★ゾーン30を見直し「くらしのみちゾーン」政策のアップデートの可能性について
今回道路交通法が先行して取り組まれてきたゾーン30などの政策に追いついたかたちです。ではゾーン30はどのように変わっていくべきかについては2002年から実施された「くらしのみちゾーン」のアップデートが必要と考えます。
「くらしのみちゾーン」とは「生活道路については車中心から歩行者・自転車優先の空間に変える必要があるため、無電柱化や緑化なども含め、地域の人と協働して道路を身近な生活空間として質の高いものにしていく」事業。現在のウォーカブル政策に近い政策といえます。
この政策での自動車の最高速度の規定はありませんが、今回生活道路全般が時速30キロとなることを受けて、より重要なエリアについてはさらに速度を引き下げ時速20キロゾーンへのアップデートが必要と感じます。
すでに京都の中心部三条通は、最高速度を時速30キロから20キロとし、信号機も撤去する取り組みを行っています。
自動車の時速20キロ規制は、フランスの地方都市などで商店街のあるエリアなどで「歩行者優先空間・出会いの空間」という名称で制度がされています。都心部の商業エリアなどもこのような政策はウォーカブルと関連で非常に重要になってくると思います。
ここまでの内容が、みなさんのパブリックコメントへの関心につながれば幸いです。パブリックコメントは下記のリンクから申し込みができますので、ぜひご検討ください。