シェアサイクルが公共交通として位置づけられることで日本の交通戦略が変わるー「日本シェアサイクル政策研究会による提言」より①
福岡のシェアサイクルは表紙の赤いシェアサイクル・チャリチャリや最近は電動キックボードなどのLUUP、自転車ではありませんが電動スクーターの「ラクする」などシェアモビリティが着実に市民の足になりつつあります。
先日シェアサイクルのチャリチャリを運営するチャリチャリ株式会社を含むシェアサイクルを営む民間事業者を中心した調査研究を行う日本シェアサイクル政策研究会が国土交通省へ政策提言を行いました。
この提言はシェアサイクル事業を中心とした組織による提言ではありますが、日本の交通戦略やシェアサイクルを含むすべての自転車利用者の声を反映している内容として非常に優れた内容でしたので、今回提言された2項目ごとに紹介しつつ、福岡市の交通や自転車戦略を考えたいと思います。
政策提言①公共交通に対するシェアサイクルの位置付けを明確化すること
提言書の1つ目の項目が公共交通に対するシェアサイクルの位置付けを明確化することです。シェアサイクルという近年普及したこのモビリティサービスは、これまでバスや鉄道などの公共交通の政策の枠外にあります。ただ実際は自転車やポートをシェアする公共的な移動手段または、公共交通の利用を促進する補完機能としてなくてはならないものとなっています。
シェアサイクルを公共交通として位置付けていくことについては、今年2024年1月に福岡市で開催された全国シェアサイクル会議でも大きなテーマとなっており、レポートしたところです。
福岡市でも議論がされるシェアサイクルと公共交通の関係についてー福岡市 都市都市交通基本計画改定の議論より
今回の提言は国に対し行われたものですが、いま福岡市でもは今後の福岡市の交通戦略の基本計画である「都市交通基本計画」の改定作業が進んでいます。福岡市の都市都市交通基本計画の基本理念と目標像は下記で示されています。
目標像1にある「都市の骨格を形成する総合交通体系の構築」は他の目標像の基礎となる目標と位置付けられ、以下のように説明されています。
「過度」でなければ自動車に依存していいのかどうかは別として、自動車に依存しないまちづくりが福岡市の方針であり、多様な交通手段が相互に連携した総合交通体系にて実現を目指しています。
ここにある多様な移動手段として新たに普及したのがシェアサイクルを含むシェアモビリティになり、福岡市議会においても注目度が高く代表的な議会質疑として「福岡市議会だより」でも紹介されています。
上記の答弁以外でも令和6年3月議会でもシェアサイクルと都市交通基本計画との連携を問う質問に対し、市は
と答弁し、国の動向や市の会議体での議論を進めていくとしています。
今回の日本シェアサイクル政策研究会の提言は市が述べた国の動向として非常に注目すべき内容です。
ではシェアサイクルが公共交通に位置付けされることにどんな意義があるかを考えていきたと思います。
シェアサイクルが公共交通となることー人の移動を支える道路空間でのポート実装へ
シェアサイクルで期待されているのがバスなどの公共交通が木の幹だとした場合、シェアサイクルは幹から広がる枝のように人の移動を補完する役割です。これを実現するには公共交通との接続が重要です。
しかし、そのような交通結節点で比較的規模の大きいポートを整備することは容易ではありません。福岡市でも博多駅や姪浜駅、六本松駅など公共交通との接続したポートはありますが、いずれも公有地や民有地の敷地内にあり、人びとの移動を支える場所である道路空間にはありません。
道路空間におけるポート設置は道路法における歩行者利便増進道路(通称:ほこみち)で設置することが可能となっているものの、公共交通というよりは新しいモビリティ事業として民間企業が運営している点などから自治体でも実装できている場所は多くないのが現状です。
その理由がシェアサイクルと公共交通の位置づけが明確でないため、自治体ごとでその連携のレベルに差が生じています。
前段の福岡市の議会答弁においても連携の方向性がありつつも、国の方針が不明確であるために自治体判断のむつかしさを示しています。
欧州で広がる持続可能な都市モビリティ計画SUMPにあるシェアモビリティと公共交通の関係
一方で、欧州ではシェアモビリティのうち特にシェアサイクルを含めた自転車政策は公共交通計画と一体的に取り組まれており、シェアサイクルのポートの多くは道路空間を含む公有地にて設置され、バス停や鉄道駅に隣接して大規模なポートが設置されています。
欧州で導入が進んでいる交通計画の考え方がSUMPです。すでに日本語版が翻訳、研究させており、下記リンクにて読むことができます。
日本の縦割りの政策とは異なり、分野横断的な交通政策が行われていることが読み取れます。そのままとは行きませんが、どの自治体が日本も取り入れるか、取り入れられた自治体が日本の交通戦略をリードする都市になるのではないか、そんな時代に入って行くのではないかとおもいます。
2000年代にシェアサイクルと公共交通の接続した未来像が実現していた福岡市
実はバス停に隣接してシェアサイクル(当時はレンタルサイクル)のポートなどを設置した事例は福岡市で社会実験「博多通りゃんせプロジェクト」(2003年実施)にて中洲川端の博多座前のバス停で実現していました。
この社会実験は福岡市の都心部である博多部の人口減少に危機感をもった地元の研究会から始まり、行政の都心部の居住促進施策にまで発展した取り組みです。
この社会実験については、JUDI都市環境デザイン会議の場で発表を行っております。当時の発表梗概は下記よりご覧ください。
人口も商業も停滞しつつあった博多部の魅力向上のために、地域コミュニティの可能性に注目し、道路空間のコミュニティーインフラ化をテーマとした取り組みでした。その一環としてエリアの回遊性を高めるためにバス停から自転車を借りて街なかを回遊してもらう試みが行われました。
下の写真のように既存のバス停の左側にポート、右はインフォメーション機能が付加されました。
短期間の社会実験でありましたが、レンタルサイクルは好評で、この時点で福岡市におけるシェアサイクルのポテンシャルが明らかになっていました。
中洲川端のバス停は木の温もりを感じる建築的も優れたデザインであり、この社会実験をもう一度再評価して実装してみる必要を感じます。
先に書いたどの自治体がシェアサイクルと公共交通の関係を明確に打ち出し、都市の交通を変革されることができるのか、福岡市がそのリーダーとなることを期待して筆を置きたいとおもいます。
次の記事では、日本シェアサイクル政策研究会の提言の2つ目である自転車インフラに関する内容を紹介いたします。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?