Plat Fukuoka cycling vision2021@『ストリートファイトー人間の街路を取り戻したニューヨーク市交通局長の闘い』(学芸出版社、2020.9)より
Plat Fukuoka cyclingは福岡がbicycle friendlyな都市(まち)となるための様々な提案を行うべく、スタートしました。
bicycle friendlyというと「自転車にやさしい都市」となると思いますが、私は「自転車がやさしい都市」になってほしいと考えています。それは歩行者に対しても、バイクやバス、自家用車…つまりは都市に対して、自転車がやさしくできる都市でありたいと思うのです。
これまでのPlat Fukuoka cyclingは下記の目次よりリンクしていますので、ご覧ください。
0.Plat Fukuoka cycling vision
1.Copenhagenize Index2019を読む
2.Plat Fukuoka books&cycling guide
3.Plat Fukuoka cargobike style
4.Fecebook ページ
5.Instagramページ
6.twitterページ
7.Plat Fukuoka cyclingの本棚(リブライズ)
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2020年5月からスタートしたPlat Fukuoka cyclingも開始から半年が経過しました。主に3つのマガジンによる連載を通して、20あまりの記事を掲載してきました。今回「Plat Fukuoka cyclingの描く未来」を改題し、
「Plat Fukuoka cycling vision2021」として、ここでもう一度、なぜ自転車でのまちづくりを目指すのかについて。そしてPlat Fukuoka cyclingの目指す2021年に向けたvisionをお伝えします。
1.なぜ自転車でまちづくりを目指すのか
—「自転車」=「社会課題解決のツールのひとつ」
「あなたにとって自転車とは?」と自転車100人カイギ※1の方からの質問に返した答えが「社会課題解決のためのツールのひとつ」でした。
Plat Fukuoka cyclingは「自転車にやさしい都市」の形成を通じて、いまの日本にある数多の社会課題解決に向けた提案を、包括的な戦略でもって取り組んで行こうと考えています。そして自転車はあくまでも、社会課題解決のための「ツール」のひとつであって、自転車をツールとして、様々な課題解決のための方法が展開できる可能性を秘めている、ということを追求してきます。
2.なぜ福岡で「bicycle friendly」な都市を目指すのか
筆者は、福岡市と糸島市との境付近に住んでおり、片道15キロ程度の自転車通勤をしています。出発してすぐは田んぼを横目に潮風が気持ちいい長垂の海岸線と生の松林を抜けると市街地へ、都会のオアシス大濠公園を経由し、舞鶴城の掘りを横目に走れば福岡の中心部・天神に到着します。正味1時間弱のサイクリングです。
この普段の自転車通勤で体験できる風景は、福岡のコンパクトシティを象徴する体験と思います。そして、天神や博多周辺には、魅力的な商業エリアが集積し、個々に光るサードプレイスが存在しています。
さらに、福岡市は鉄道と並んでバス交通が充実しています※2。これは日本最大のバス保有台数を誇る西鉄バスによるもので、鉄道でカバーできない地域へ中心部へのアクセスを容易にしています。
しかしコンパクトシティ・福岡の交通の分担率をみると、速報値でも自動車(自家用車)による移動が4割を占めている状況です※3。
ドイツのコンパクトシティに関する本の紹介※4にて、2025年は団塊の世代が自家用車の運転が難しくなり、公共交通の需要が見込める最後のチャンスと言われた最中、市民の移動の4割が自動車でなされるのがコンパクトシティが福岡の現状です。
そして、市民全体の自転車に対する印象は「悪い」「どちらかいえば悪い」が3/4を占めています。福岡市では自転車政策の中心である『福岡市自転車活用推進計画』を策定中です。第3回まで開かれている検討委員会の議事録でも下記のような意見が出ています。
「福岡市の満足度調査でモラル・マナーはワーストであり、特に悪いのが自転車の運転マナーで、72%の市民が悪いと感じている。逆に言えばそこを改善できれば都市の魅力もすごく上がると思う。 (「第1回 福岡市自転車活用推進計画検討員会 議事要旨」より)
自転車に対する世間の厳しい評価を、プラスに変えるには、福岡がbicycle friendlyな都市(まち)となる必要がある。ただこれはbicycle friendlyというと「自転車にやさしい」となると思いますが、私は「自転車がやさしい」になると思うのです。
3.Plat Fukuoka cycling vision
Plat Fukuoka cyclingの記事の冒頭には、下記の言葉を添えています。
bicycle friendlyというと「自転車にやさしい都市」となると思いますが、私は「自転車がやさしい都市」になってほしいと考えています。それは歩行者に対しても、バイクやバス、自家用車…つまりは都市に対して、自転車がやさしくできる都市でありたいと思うのです。
これがPlat Fukuoka cyclingのvisionです。
目指すのは、自転車中心のまちづくりが目標ではなく、自転車の活用によって、福岡という都市が生まれ変わる将来像を伝える意図があります。
○日本にも来る交通版のコペルニクス革命 ジャネット・サディク=カーン氏、セス・ソロモノウ氏共著『ストリートファイトー人間の街路を取り戻したニューヨーク市交通局長の闘い』(学芸出版社、2020.9)
本書は,2007年からブルームバーグニューヨーク市政の元、街路からの都市再生を牽引した両氏の取組みに関するドキュメンタリーです。
ストリートファイトというタイトルのとおり、街路の再編において,壮絶なメディアによる反発、闘い、そして勝利が綴られています。反発の対象は、自動車の車線規制や一部歩道化(タイムズスクエアなど)、そして「自転車」と「自転車レーン」に対してでした。
本書の14の章の1つは「自転車レーンへの反発」です。
そこから一部引用します。
サイクリストに向けられた怒りを軽視してはならない。自転車の走行速度は、歩行者に比べるとあまりにも速いので、歩行者の安全を脅かす。一方で、自動車に比べるとあまりにも遅いので、自動車を邪魔してしまい、危険だ。また、ヘルメットや反射服を身に着けていないサイクリストは、自分自身を危険にさらしている。ただ、ヘルメットや反射材を纏ったサイクリストの姿は滑稽に見え、人間というよりも「マッドマックス」に出てくる暴走族のようだ。街路が彼らの敵である自動車だけのための場所である限り、自転車は街路を走るべきではない。そして、自動車からスペースを奪うだけの幅員がない街路では、自転車のための車線を設けるわけにもいかない。とは言っても、自転車が歩行者を轢いてしまう危険もあるので、自転車は歩道上を走るわけにもいかないのである。
(※P164-165第8章「自転車レーンへの反発」)
上記はどこかの記事を引用するまでもなく、日本でも見られた、見られている現象です。では、どのようにして反発を退け続けたのか。
そのキーワードが「安全性」もしくは「安心」です。
安心というものは単に脅威がないことだけではない。歩く人、自転車に乗る人、自動車を運転する人それぞれが、路上で互いに認識し合い、尊敬し合い、そしてしかるべき場所にいる際の感情でもある。私たちは、自転車への反発の絶頂期に、サイクリストが歩行者にとって安全上の脅威だとする恐怖心について、きいたことがある。(中略)自転車レーンのある街路は、単に自転車に乗っている人びとだけにとって安全なのではない。歩行者にとっても安全なのだ。(※P253第10章「数字から見る安全性」)
ここでPlat Fukuoka cyclingの記事の冒頭に記載しているテキストと繫がってきます。自転車が走りやすい都市というのは、自転車が安心して走ることができる場所がある。そして、歩行者は自転車を気にすることなく街路を歩くことができるようになるのです。
自転車に乗った人を保護する街路デザインは、街路の用途を多様にするものだ。人の動きを見やすく、予測てきるよにすることで、街路全体の安全性が高まるのである。サイクリスト問題にうまく対処し、誰もが安全に過ごせる街路づくりを心から望むのであれば、自転車レーンの建設から始めてみてはどうだろうか。(※P171第8章「自転車レーンへの反発」より)
本文章を書いている2020年12月時点で、COVID-19が世界的に再流行しています。国土交通省も今後の都市政策において、自転車政策への言及も増えてきています※5
国土交通省は他にも、都市政策の新たなトピックである「ウォーカブル(「居心地が良く歩きたくなる」まちなか)」政策が2019年から動き出しました。ウォーカブルを考える上で、本書は重要な書籍となっており、ジャネット氏も来日され、記念講演も開催されました。
本書はその来日後に刊行されているのですが、氏は日本語版によせてにて、的確に日本の現状を下記のように指摘しています。
日本が築き上げるべき未来は、すでにある街路の中に見ることはできます。おそらく日本には、私が訪れたどの国よりも(中略)素晴らしい自転車の都市をつくり出すための資産がすでに存在しています。しかし(中略)サイクリスト※5の数は、アメリカ、カナダ、あるいはヨーロッパの大多数の都市より多いにも関わらず、自転車インフラがほぼ整備されていません。(中略)日本の自治体のリーダーは、この重要性を認識して、優先的に取り組む必要があります。自治体がもし現在自転車を利用している人数に即して道路空間再配分したら、ほぼすべての街路に自転車レーンが整備されるでしょう。(P4「日本語版によせて」)
氏がなぜ、ウォーカブルな都市を構築する上で、自転車が重要なのかは、上記に述べた通りです。ただ氏は「私の経験が何か示唆を与えられるとすれば、これから進む道には、ストリートファイトが待ち受けているということでしょう。」と後半に述べています。
○Plat Fukuoka cycling visionにむけて
Plat Fukuoka cyclingはこれまでCopenhagenize Indexの分析などで自転車政策に関する知見を集めてきました。これまではここnoteを中心に、思考してきましたが、2021年は運営に関わる自転車100人カイギにて、数回ほどを企画を準備しております。現在鋭意企画調整中です◎
2020年はCOVID-19※6により、誰もがライフスタイルを変化せざる得ない状況に直面した年であったと思います。
Plat Fukuoka cyclingはそのような社会において、自転車のもつ可能性を信じて、2021年も取り組んでいきます。
2020年フォローしていただいた方、記事を読んでくださったり、「スキ」してくださった皆様のご多幸をお祈りして2020年の投稿を終えたいと思います。2021年もよろしくお願いいたします。
Plat Fukuoka cycling 主宰 安樂 駿作
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〈参考文献等〉
※1自転車100人カイギは、福岡をベースに自転車好きが100人登壇し、毎回5人のゲストが登壇。全20回で解散する連続トークイベントです。https://100ninkaigi.com/area/jitensha
Plat Fukuoka cyclingも縁あって運営メンバーを務めています。その第1回では、初めてPlat Fukuoka cyclingとして登壇の機会をいただき、100人の1人になりました。
※2自転車とバスの可能性は、Carlton Reid(著)「Bicycles And Buses Will Be Future’s Dominant Modes Of Urban Mobility, Predict 346 Transport Experts(将来の都市交通は自転車とバスによるだろうという346人の専門家の予測)」(『Forbes』2020.10.9)にて、公共交通によって温暖化マイナス2度を達成する上でも、重要な可能性を示唆されています。こちらは別途紹介いたします。
※3福岡市『(仮称)福岡市自転車活用推進計画 原案』(福岡市道路下水道局管理部自転車課、2020.12.23)より。福岡市は現在、行政計画の更新時期を向かえ、各計画のこれまでの評価と今後の計画を策定が進められています。自転車行政に関する施策も更新時期を迎えており、道路行政のけいっかう「道路アクションプラン」も含め、検討が2021年3月頃まで続けられます。「自転車活用推進計画」は福岡市の自転車行政の施策の戦略を示す計画です。2021年1月22日まで、市民意見の募集も行われております。Plat Fukuoka cyclingとしても、1福岡市民として、意見を提出する予定です。
◆『(仮称)福岡市自転車活用推進計画 原案』の閲覧と意見募集は
福岡市HP 「「(仮称)福岡市自転車活用推進計画(原案)」に係る市民意見を募集します」(リンク)より参照の上、ぜひ皆さまも提案してはいかがでしょうか。
※4「#12Plat Fukuoka books&cycling guideコンパクトシティ政策を進める ドイツの都市・交通計画と自転車政策@かどや食堂」より。
※5国土交通省 都市局 まちづくり推進課「新型コロナ危機を契機としたまちづくりの方向性」(論点整理)(『市街地再開発』2020年11月号、全国市街地再開発協会)「【論点2】都市交通(ネットワーク)の今後のあり方と新しい政策の方向性」にて、自転車ニーズの高まりをうけ、「都市交通システムとして自転車を利用しやすい環境の一層の整備が必要と考えられる」と言及。今後部局を超えた政策推進に期待したい。
※ジャネット氏自身の交通局長時代の通勤スタイルは、自転車通勤の旦那さんの自転車の後ろに乗るスタイルだったようです。本書P34より。
※6COVID-19はこれを書いている2020年12月末時点で、変異しているとの報道も見られます。この報道の度に、筆者は石田衣良(著)『ブルータワー』(徳間書店、2004.9.30)で描かれた新型インフルエンザにより、人々が高さ2千メートルの超高層建築に住む世界が描かれています。偶然にも物語の新型インフルエンザの発祥も中国であり、いま世界の交通が遮断されつつある今の状況が物語と酷似してきている。そんな不安とSF小説としてのおもしろさと、そのかすかな光りを感じる1冊です。
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