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福岡のまちのための『ウォーカブルシティ入門』ーPART2「ウォーカビリティの10のステップーSTEP3「駐車場を正しく確保しよう」

Plat Fukuoka cyclingは福岡のまちがBicycle Friendlyなまちになるために活動しています。『ウォーカブルシティ入門ー10のステップでつくる歩きたくなるまちなか』(ジェフ・スペック著、松浦健治郎監訳、学芸出版社)を読みながら、「Walkable」と「Bicycle Friendly」の関係について連載します。

前々回の第1章PART1「ウォーカビリティがなぜ重要か」では、ウォーカブルが福岡という都市の生産性にとって重要であることを確認しました。前回より第2章「ウォーカビリティの10のステップ」に入り、都市全体に関するSTEP2「用途を混在させよう」では、コンパクトシティといわれる福岡市の実力を用途地域と人口の関係から、そしてウォーカブルと都市のイノベーションの関係を考えてきました。以下マガジンとしてまとめております。

これまで都市と都市の用途、車の関係を考えてきました。第4回はその車を停めるための駐車場について、STEP3「駐車場を正しく確保しよう」で考えます。ちょうど木下斉氏により車の台数よりも駐車場の台数が上回ってきた日本の状況とこれからの車と都市計画のあり方について、述べられています。

 はじめに「駐車場」も様々で、例えば道路上にあるパーキングメーターと「路上駐車場」は所管する行政も違えば、目的も異なっています。ここでは主に道路外の敷地につくられる駐車場を中心に考えていきます。
(駐車場に関する路上・路外の全体像は国土交通省資料を参照ください)

駐車場と都市の付き合い方3D+MG(密度・配置・デザイン・マネジメント)について

 今後の都市における駐車場のあり方について、日本大学の大沢昌玄教授(理工学部土木工学科)は、これからの駐車場を考える上でのキーワードとして3D+MG(Density,Disposition,Design+Management,Good Use)という観点を紹介しています(大沢昌玄:『新都市』2019年1月号「まちづくりにおけるこれからの駐車場のあり方」(公益財団法人 都市計画協会))。

駐車場の正しい確保のための都市と駐車場の「密度」の関係

 まず密度について、ジェフは本書の中で、駐車場を「正しく」確保する上で、駐車場の供給量に関するアメリカとヨーロッパで下記のように比較しています。

アメリカの都市は、無料駐車場のピーク時の需要を満たすために駐車場供給量の下限を設け、その後、自動車の移動を抑制するために開発密度の上限を設ける。対照的にヨーロッパの都市では、道路の混雑を避けるために駐車場の数に上限を設定する戦略と、歩行者・自転車・公共交通機関を推奨するために開発の許容密度に下限を設けることとを結びつけることが多い。つまり、アメリカでは駐車場を必要とした上で密度を制限するのに対し、ヨーロッパでは密度を必要とした上で、駐車場を制限するのである。

ジェフ・スペック:ウォーカブルシティ入門ー10のステップでつくる歩きたくなるまちなか,pp135-136

ここで述べられている密度は、駐車場の密度ではなく、都市機能の密度を指しています。人口密度の視点でいうと村上先生の著書では、公共交通や公共サービスを維持できる人口密度は1haあたり130〜150人であり、徒歩圏内である半径300m(約28ha)での人口規模は3,500〜4,000人と言われています。

 では、駐車場の密度について、1ha(100m×100m)における台数感覚を確認していきます。大沢先生の記事より、さいたま市や千葉市などの業務核都市で概ね1haあたり60~80台だそうです。駐車場の面積は、駐車区画2.5m×5mに付帯部分(通行部分)を加味した1.4掛(筆者想定)で約1,050㎡~1400㎡となり、都市の1割の面積が駐車場ペースで消費されていることになります。地方の計画的に整備された市街地では、概ね1haあたり100台となり、台数が多いので付帯部分を1.3掛としても1,625㎡となり、都市空間の表面積上1.5割強が車のための駐車スペースに消費されていることなります。
 つまり、都市開発が車(マイカー)ありきでつくった場合、必然的に駐車場が消費する都市空間のシェアが増えるだけでなく、渋滞対策のために道路空間も大きくなり、人のための都市空間が減ることになります。地方都市では、都市機能と駐車場の需給のバランスが崩壊し、中心市街地が駐車場だらけになっています。
 そのような地方都市の状況にいち早く動かれているのが、お隣の佐賀県佐賀市のワークヴィジョンズの西村浩さんです。需給が崩壊した佐賀市中心部の青空駐車場を緑の空間に変えることで、人が集える空間を誘導し、リノベーションを仕掛ける取組みです。佐賀では、佐賀県独自のデザイン視点をもつ組織横断組織である「さがデザイン」による公民連携事業も活発で、道路空間の利活用の進んでいます。

 筆者も家族で佐賀市に出かけることが多くあります。それは駐車場の安い(超中心部で1時間100円、かつ最大料金500円など…これはこれで課題ですが…)ことと、福岡市天神などのような人の混雑がないことなど、ゆっくり過ごせるところが魅力です。

都心部における駐車場の「配置」のための2つの戦略ー福岡市都心部の駐車場施策より

 次に都市機能と駐車場の需要の需給が比較的安定している都心部では、付置義務制度により、駐車場の量の確保には一定の成果を果たされた一方で、3D+MG(密度・配置・デザイン・マネジメント)の2つ目である駐車場の「配置」を都市の実態に合わせ効率化する政策議論は始まったばかりです。ジェフは駐車場の配置について、こう述べています。

2つの戦略、すなわち代替手数料(ダウンタウンなどの駐車場需要が高い場所の企業に対し、行政が駐車場を提供する代わりに、企業は駐車場の料金を支払うだけの制度)とパーキングキャッシュアウト(従業員に駐車場を提供している企業に、駐車場を現金と交換するオプション(代替交通手段)を選択できる制度)は、駐車場のコストを他のすべての活動から切り離され、駐車場の需要が再び自由市場の原則に従って振る舞えるようになるためのすばらしい出発点である。

ジェフ・スペック:ウォーカブルシティ入門ー10のステップでつくる歩きたくなるまちなか,pp134-135

上記でジェフが言及している代替手数料とパーキングキャッシュアウトの制度は、実は福岡市の天神や博多で取り組まれています。

福岡市住宅都市局 令和2年11月25日交通対策特別員会資料「都心部における道路交通の円滑化に関する調査」より

 代替手数料の取り組みは、天神エリアの再開発である天神ビックバン事業での再開発事業における付置義務駐車場の隔置を認めるものです。具体的には上の図にある天神から500mでの隔置に加え、天神の北側にあるボートレース福岡の利用権を与える施策です。ボートレース福岡の駐車場は、都心への車の流入を受け止めるフリンジ駐車場の機能もあり、今後も天神の北側からの車の流れを制御するポイントになりそうです。

商業開発起点の駐車場の「デザイン」ーアメリカのタウンセンター事例より

 ウォーカブルな街を志向する一方で、来街手段としての車のアクセスシビリティが欠かせないのが、現代の都市の課題です。この矛盾するウォーカブルと車のアクセスシビリティを融合させる開発手法として注目されるのが、アメリカで実装されているタウンセンターという開発手法です。
 タウンセンターとは競争の激化で廃墟となったりしたショッピングモールを、民間ディベロッパーと行政が協業し、住宅やオフィスを複合させて再開発した事業を指す。従来のショッピングモールがもつモノを売る力や集客する力をベースとしながらも、本来街が持つべき多様性、永続性、包容力、五感への訴求などを融合し、交流空間である広場やストリートを軸に、クオリティ・オブ・ライフを実感できる空間構成が特徴である。

 タウンセンターは郊外にあるシッピングモールの再開発事例ではありますが、開発思想はあくまで敷地ではなくエリアに重点を置いた考え方です。タウンセンターでは駐車場計画が最も大きな課題といわれています。特に来街者の目的と時間の関係で興味深い一説を引用します。

「駐車に要する時間+店舗まで歩く時間」と「ショッピングやダイニングにより商業施設で費やす時間」とは相関関係がある。必要なものをタイムリーに購入しようというときは短時間での利便性を求めるが、商業施設をレジャーとして楽しもうというときには駐車から店舗まで時間がかかることも許容する。

矢木達也、ロバート・ギブス:Town Center商業開発起点によるウォーカブルなまちづくり,pp64

 空間構成としてストリートが重視されるタウンセンターでは、上記の考えから、立体駐車場や路上駐車場を買物などの滞在時間を考慮して、綿密に計画し配置されています。駐車場は来街者が初めて訪れ、最後に立ち去る場所であることから、様々な満足度が求められる一方で、滞在時間の雰囲気、回遊するストリートを重視する傾向から、駐車場を巧みに隠してデザインされます。ここで重要なのは、すべてを歩道とするのではなく、路上駐車スペースなどを商業視点できちんと計画し、デザインしているところです。この視点は都市経営の視点からも駐車場のデザインが非常に重要であることを示していると思います。
 今回の記事の表紙は、姫路市のメインストリートである大手前通りにある駐車場です。おそらく駐車場の出入口のひとつをつぶして店舗を増築し、メインストリートに飲食空間をつくりだしています。この店舗前の空間は歩行者利便増進道路の指定を受けて、店舗のテラス席としての活用が認められている空間で、まさに駐車場でありながら、ストリート空間に寄与しています。姫路での公共空間活用についての木下さん主催の狂犬ツアーは下記よりご覧ください。

都市の駐車場をいかに「マネジメント」していくか

 先に紹介した佐賀市内でのワークビジョンズの西村さんの連載記事では、少しずつ広がりを見せる佐賀市中心部のエリア価値の向上の様子が見て取れます。一方で、佐賀市内を訪れるといまでも多くの駐車場が存在します。街の魅力が向上すると来街者が増え、駐車場の需要も増加していくことになります。ここでリスクを負って開発した土地オーナーと駐車場運用のままエリアの価値を享受する土地オーナーが生まれることになり、どこかでそのバランスが崩壊すると街は再び駐車場だらけの街になるリスクをはらんでいます。
 その課題からまちづくりと駐車場政策の最適解を国も模索し始めています。駐車場を運営するのは、ほとんどが民間の事業者であることから、規制と誘導策が重要と感じます。

今後、様々な議論が行われるなかで、ジェフ氏が「駐車場の需要が再び自由市場の原則に従って振る舞えるようになる」必要性について述べているます。つまり、付置義務という規制を取り払い、福祉などの最低限以外の駐車場台数を事業者の裁量に任せることになります。実際に実行に移したカナダのエドモントンについて、福岡市にあるシンクタンクであるLocal Knowledge Platformのレポートの要訳記事を紹介いたします。

駐車場附置義務を2年前に撤廃したエドモントンの変化:
 エドモントン市は、2020年6月にカナダ国内で初めて駐車場附置義務の最低整備台数基準を撤廃した。駐車場の附置義務を撤廃したことによって、障害者用の駐車場以外は、原則、開発事業者が必要な整備台数を自ら決定することが可能となった。制度改正の前後には、駐車場の不足を懸念する声や駐車場の探索によって道路交通が混乱することを懸念する声が寄せられていた。しかし、2年たった現在では、懸念されていた混乱は発生しておらず、従来の制度では駐車場として整備されていたような場所や駐車場の整備が難しく塩漬けされていたような狭小な土地がパティオなど様々な用途へ転用され始めている。大規模な開発は竣工まで時間がかかるため、影響のすべてが顕在化しているわけではないが、駐車場不足は起こさずに土地の活用を流動化でき始めている。
 一方で、制度変更後、駐車場の整備はほとんどの開発で行われており、駐車場の整備がなくなったわけではない。市のデータによると2020年から2021年の間に、自動車駐車場は20,000台分以上、自転車駐輪場は5,400台、バリアフリー駐車場は850台の整備が行われている。しかし、市の試算によると、従来の基準よりも少ない台数しか駐車場を整備していない開発は増えているという。一部の市民からは、路上駐車スペースのニーズの増加などを懸念する声が未だにあるが、市の担当者らは、2年後の影響として、当初懸念された大混乱はなく、未利用地の開発促進など概ね都市にとって良い影響をもたらしていると考えている。

要約出典:Local Knowledge Platform

 民間開発において、不必要な駐車場をつくることはありませんが、いかに来街する人が駐車場を利用せずに街にアクセスできるような交通システムを街のあらゆる人に提供できるかが重要と思います。一方で、駐車場専業のような土地活用については、ある程度のディスインセンティブが必要になるのではと思います。

次回はSTEP4として、福岡市のウォーカブルな都市・福岡のための公共交通について考えます◎

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