上腕二頭筋断裂
上腕二頭筋筋腹での断裂に対する外科的治療がまとめられた論文です.
渉猟する限り国内では新鮮筋断裂(上腕二頭筋)のまとまった論文が見つからなかったため,参考にしていただけますと幸甚に存じます.
この論文では
なぜ上腕二頭筋断裂の症例をそろえることができたか
NC州に位置するArmy Medical Centerより発表された論文であり,いずれの症例も空挺部隊員における上腕二頭筋筋腹の急性外傷性閉断裂の症例です.
空挺部隊員が航空機から降りる際に、パラシュートの紐が誤って腕に巻き付いたことにより上腕の筋断裂を起こすことがあるようです.
それでは手術手技に関してです.
麻酔は鎖骨下での神経ブロックもしくは全身麻酔
仰臥位で肩関節は45度外転位 肘は90度屈曲
上腕二頭筋の弛緩した状態で手術を行います.
筋断裂部より上腕二頭筋下の筋皮神経 musculocutaneous nerve の損傷の有無を確認します
神経縫合に関して記載はありませんでしたが,avulsionにより縫合不可の症例もあったようです.
この論文で紹介する筋縫合の特徴は,断裂した筋断端を複数のSegmentに分けて接合することにあります.
まず断裂した筋の断端の遠位近位それぞれを4つのSegmentにわけます
各Segmentで行う手技は同様のものとなります.
まずは 2−0 VICRYL などの braided polyglactin の糸で筋膜筋肉を一緒に8の字縫合でanchorを作成します.segment の端まで interlock で連続縫合を行います.
anchor ではない断端は interlock の状態で Free-end とし縫合はしません.最終的には対となる segment と縫合するのですが,Free-end の糸8の字の糸とで縫合することになります.そのため,両端は縫合できる長さを確保しておきます.
各 segment で行いますので,完全断裂の場合は計8 segment 行います.
次に行うのは Mason-Allen stitch を modify したものになります.
0−Braided polyester の糸で 各 segment の中心で筋膜から筋断端に,断端近位に戻し1針目の糸から見て,対象となるように再度筋膜から筋の断端に糸を通します.
ここからは各 segment の対となる糸同士を結紮していきます.
実際に行って気づいたことは,0-polyester の糸は両端がfree-endとなっていますので,まずは筋断端の糸から結紮(この時点で完全に寄せることはできません)し,筋膜上の結紮の際にその糸をしっかりと寄せて上げる必要があります.
2−0 braided polygractin の糸も片方は Free-end,もう片方は 8の字で縫合してありますので,引き寄せながら結紮することが可能となっております.
筋膜は縫合できれば行っていいと思います.
術後は肘関節90°でシーネ固定.3〜5日でシーネを抜去し,60°以上の伸展制限を行える創部を装着しながら3週間リハビリを行います.
3週間でシーネを抜去し,負荷をかけない範囲で自動他動共に開始し8週間で負荷トレーニング,12週で監督下に強化訓練,6回懸垂が問題なく行えればパラシュート訓練を再開したようです.
以上となります.私もこの方法で2人治療を行い,二人共半年のフォローで問題なく,終診となりました.
参考になれば幸いです.