「NFTアート」は芸術?それでは「絵画」は?|「超複製技術時代の芸術」展 (GYRE GALLERY)
絵画も文章も、AIでだれでも簡単につくれるーー 生成AIが一気に身近になり、「人間にしかできないことは?」という問いが多く投げかけられた今年。アートが好きな方なら、19世紀の「絵画」に対しての「写真」の登場になぞらえて考えられた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そんな今年、もっとも印象に残った展覧会のひとつが、表参道にあるGYRE GALLERYで開催された「超複製技術時代の芸術:NFTはアートの何を変えるのか?」展です。
本展は「NFT」に注目した展覧会。「NFT」や、アルゴリズムで生成する「ジェネラティブアート」、それから「AIで生成した絵画」などの新しい技術はアートになるのでしょうか?
※この記事は、アドベントカレンダー企画「マイベスト展覧会2023」に参加しています。※
▍「販売」の手段ではなく 「表現」の手段としてのNFT
「NFT」ってどんなイメージがありますか?
わたしは、デジタル作品の価値が担保される魅力はあると感じるし、NFT作品も購入したことがある一方、トレーディングカードのような キャラクターイラストやドット絵(そしてアルゴリズムで生成されるものも多い)がNFTの「アート」と呼ばれるのには違和感を感じるなぁ…と思っていました。
本展は、ヴァルター・ベンヤミンが1936年に発表した論考「複製技術時代の芸術」になぞらえ、「超複製時代」である現代の「オリジナルとコピー」などの捉え方に注目。第一章では、NFTによってうまれた新しい「所有」の形に介入した作品が紹介されます。
例えば、ダミアン・ハーストの《The Currency》。その絵画作品の購入者は、作品を1年後にNFTとしてデジタルで所有するか、物理的な絵画として所有するかを選ぶ作品です。
(▲作品が発表された当時に書いた文章です)
本展では、その紙の作品とデジタルの作品があわせて展示されていました。もし自分が購入するならどちらが欲しいでしょうか…? ちなみに、最終的な購入者はほぼ半々とのこと。作品の「価値」はどこにあるのかを考えさせられます。
また、チームラボの《Mattter is Void》は、だれでも無料でDLでき、その全てが「本物」の作品。ただ、その文字を書き換える権利がNFTとして販売され、所有者が文字を書き換えると、他のひとの所有する作品の文字もすべて書き換えられます。
「所有者」が「表現者」にもなり、所有する人や書き換えた文字によっても作品の価値が変化してしまう作品です。
NFTを「販売」の方式ではなく、その機能を「表現」の手段として拡張する作品群。NFTでしかあり得ない、新しい表現を体験することができます。
▍人工的につくりだされる 場所・時間に依存しない「アウラ」
ベンヤミンは、オリジナルの作品だけが持つ存在感や、時間や空間の「ここにしかない」性質から生じる特有の雰囲気を「アウラ」と呼びました。展示では続いて、本物とコピーの見分けがつかない状態の「デジタルのアウラ」に注目。「オリジナル」の価値を問います。
例えば、レア・メイヤーズ《非真正性の証明》は、ジェフ・クーンズの《Balloon Dog》の3Dデータを無料でDLし、3Dプリントできるようにしたもの。その「真贋証明書」”だけ”が作品として販売されました。
作者が触れるわけでもなく、所有者が無料で出力した同じ形状の物体でも、証明書が移動することで「本物」が変化し、無価値と価値が入れ替わっていきます。
ソル・ルウィットはデジタルの作品ではありませんが、一定のルールに基づいて制作された作品は、指示書があれば誰でもどこでも作成可能。アルゴリズム絵画やジェネラティブアートにもつながる「絵画を描く方法」を作品としたものです。
その向かいには、ラファエル・ローゼンダールのアルゴリズム絵画が、複製も拡大も可能な作品が現実空間で迫力をもって展示されています。「時間」や「場」から切り離された作品からは、オリジナルとは何なのか、アウラの存在はどこなのかを考えさせられるようです。
展覧会はさらにNFTによるコミュニティについて考える章を含めた全三章で構成されていました。
そして、作品群だけでなく、同展のキュレーター 高橋洋介さんによる解説がとても興味深いものでした
ベンヤミンは「複製時代の芸術作品」において、複製によって芸術作品の「アウラ」が失われると指摘しましたが、実際はは20世紀に複製は「アウラ」を増幅する装置として使用されたことをウォーホルを例に紹介。
また、NFTは場所や時間に捕らわれない複製でありながら「1回性」を持つこと、そして、「複製技術」の問題は根幹から更新されるべき時がきていることを指摘しています。
▍「NFTアート」は芸術?それでは「絵画」は?
本展に興味を持ったことから、会期中に開催された高橋洋介さんの参加するトークイベント「web3の世界と、現代アートの関係性・可能性をいろんな角度で話す会」に参加しました。
様々な角度からNFTやweb3の技術を活用したアート作品についての議論が行われた本イベント。NFTエンジニアの方からは、「NFTは、クリエイターがプラットフォームや大手ギャラリーに左右されることなく作品の対価を得やすくなる」などのメリットについての解説もなされました。
このなかで印象に残ったのは、「NFTはアートとして考えられるのか?」といった質問に対しての、高橋さんの「では、キャンバスに絵の具で描いたものはすべて芸術?」という言葉。そうではなく、アートは「その時代にしかないものを切り取っているもの」ではないのかという回答です。
逆にいえば、歴史的な評価と別の軸で考えれば、どんな絵画でも観る人がそれをアートだと捉えればそう楽しむことができるように、「NFTアート」と呼ばれるものも、アートか否かと線引きをせず、観る人によって様々な捉え方をしても良いのかもしれません。
でも、そうした中、今回の展覧会では、時代の最前線にいるアーティストたちによる技術を取り入れた新しい表現への挑戦に触れることが出来たように感じました。
まとめ
NFTやジェネラティブアート、AIの描いた絵画などは、アートになるのでしょうか?
過去には写真が芸術ではなかったように、そして、ウォーホルのシルクスクリーンなどの複製品が芸術となっていったように、技術をただ使うだけでなく、アーティストたちによって特有の表現やプロセス、意味づけが行われていく中で、価値がつけられていくーー そして、今、多くの作品のなかから、まさにそうした新しい表現が生まれてくる過程を見ているのかもしれません。
すべてのNFT作品をアートとは捉えなくてよい一方で、NFTという新しい技術を活用することで、新しい価値観とアートが生まれてくる時代をリアルタイムに体験できる面白さを感じられる展覧会でした。
【展覧会概要】
超複製技術時代の芸術:NFTはアートの何を変えるのか?——分有、アウラ、超国家的権力——
URL:https://gyre-omotesando.com/artandgallery/nft-art/
会期:2023年3月24日(金)〜2023年5月21日(日)
時間 :11:00 〜 20:00
入場料:無料
会場:GYRE GALLERY
監修:飯田高誉(スクールデレック芸術社会学研究所 所長)
企画:高橋洋介(decontext)