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写真では捉えきれない 「虹」のような光の作品群 | SHIMURAbros 雲をつかんで虹を見た(横浜市民ギャラリーあざみ野)

横浜市民ギャラリーあざみ野で、「あざみ野コンテンポラリーvol.15 SHIMURAbros 雲をつかんで虹を見た」が開催されています。横浜出身の姉弟のアートユニットSHIMURAbros(シムラブロス)による個展。映画表現の本質である「光」をあつかう実験的ば作品で構成され、生の作品を観てこその感覚を体験できる展覧会でした。

「あざみ野コンテンポラリーvol.15 SHIMURAbros 雲をつかんで虹を見た」展 入口

▍アートユニット SHIMURAbros

SHIMURAbrosは、横浜出身の姉弟ユニット。2014年よりオラファー・エリアソンのスタジオ(ベルリン)に研究員として在籍しています。2018年には、ポーラミュージアムアネックスでも個展「Seeing Is Believing 見ることは信じること」が開催されました。

▍映画表現の本質である「光」の表現を楽しめる展覧会

会場は2フロアあり、1F・2Fでそれぞれ作品のメディアや雰囲気は異なりますが、アーティストの「映画」への関心でつながる展示になっていました。

1Fの展示室では、特に、映画表現の本質である「光」に着目した作品を中心に、明るい展示室の中に作品が点在しています。「日本のお庭を観るような感覚の展示」をコンセプトにしているそうで、順路もなく、歩き回り、様々な角度から作品を鑑賞できます。

1F展示室風景

この中でも特に印象的なのは、今回の展覧会タイトルにもつながる、《見かけの虹》という、光学ガラスを使った作品シリーズ。丸いガラスに様々な色でグラデーションが作られています。

《見かけの虹》

ガラスと鏡を組み合わせた本シリーズは、中心部分をじっと見ていると、吸い込まれるような深みが。また、鏡と組み合わせることで、色が浮かんでいるような、虹のように実体がないものにも見えてきます。

《見かけの虹》

自然の中にある色のように、観るタイミングで色が変わったり、色と色の境界線状態を表現しようとしたという作品ですが、私たちが目で”観ているもの”は、本当に見えているままのものなのか?他の人にも同じように見えているのか?といったことを考えてしまいます。

他にも、鏡とハーフミラーなどを組み合わせ、観る角度によって、色や形まで変わってみえてくるのが面白い作品でした。

《見かけの虹ー習作5》
《見かけの虹ー習作5》
《見かけの虹ー習作5》

▍リュミエール兄弟が開発した「シネマトグラフ」に着想した作品

一方、2Fは会場全体が暗幕で仕切られた暗い空間。「映画史」に関わる映像とインスタレーションの展示になっています。

印象的だったのは、《Silver Screen》という、「映画」そのものに着目した作品。

真っ暗な空間の中では、映画館のように、小さな光源から光が広がっていく軌跡がくっきりと見えます。その軌道の先には、ロータリーシャッターや光学フィルター、鏡などが置かれ、空間の中に様々な色の光が、まるで”光の彫刻”のよう広がっていきました。

《Silver Screen》

1895年に、フランスのリュミエール兄弟が、「映画」のもとになる「シネマトグラフ」という装置を発明した当時、映画の映像の中で汽車が観客の方に向かってくる様子を観て、その迫力に逃げ出したという逸話から着想して制作されたという本作。

《Silver Screen》

現代では、映画を鑑賞する体験には慣れ、映画館で映画を観るときには、自分自身がそこにいることを忘れて作品世界に没入してしまいます。そんな観え方とは異なる、映画ができた当時の、現実空間にいる「自分自身」と同じ場に「映像」があるという感覚を表現しようとしたものだそうです。(この作品に入っていくにも、まさにそんな「自分自身」を認識する体験がありました。)

2Fには他にも、2つの映像作品が上映されています。

《Chasing the Light》

また、横浜市のカメラコレクションから「幻燈機」などの小展示や、オラファー・エリアソンとの共作の展示などもあります。

横浜市のカメラコレクションより

▍映画の対極?「人の作為が入らない写真」に着目した作品も

1Fの展示で、もうひとつ印象的だったのは、「映画」とは対極にあるような、「人の作為がない」写真に着目した作品です。

額の中に入った「アスファルト塗装の道路」のような物質。キレイに直線でカットされ、こちらもみる角度によって、ハッキリと見えたり、ぼやけてしまったりします。

《Trace-Road-Harajuku》

《Trace Road》というシリーズは、Google ストリートビューなどの中で、バグ的に写真がうまくつながっておらず、道路が割れているようだったり、変な線が入ってたり、道路のテクスチャが伸びてた…といったところに着想を得て制作されたというもの。作為なく自動シャッターで収集された写真の中にある面白い形を表現しているそうです。

《Trace-Road-Harajuku》

その制作方法が凝っいて、ストリートビューで見つけたそういった場所に実際に行き、本来の白線などの様子を確認して、それと似ている道路をシリコンで型取りしてつくっているのだそう!コンセプトだけでなく、その制作方法も驚きの作品でした。

▍まとめ

観る角度によって変化したり、人と作品の関わり方によって観え方が変化する、写真や映像ではその魅力が伝わりきらない展覧会です。幅広く、「映画」や「写真」、そして「目に見えるもの」についても考えられる、とても印象的な展覧会でした。

《見かけの虹ー柚子》

展覧会概要|あざみ野コンテンポラリーvol.15 SHIMURAbros 雲をつかんで虹を見た

日程:2024年10月5日(土)~10月27日(日)
時間:10:00~18:00
休館日:会期中無休
料金:無料
会場:横浜市民ギャラリーあざみ野 展示室1F・2F全面
URL:https://artazamino.jp/event/contemporary15

▼作品の背景については、こちらのYouTubeのトークを参照しています



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ぷらいまり。
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