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フジテレビ&中居正広氏の騒動に思うこと②:国内メディアの質と意義
フジテレビのこの騒動。2月5日にフジ・メディア・ホールディングスが発表したグループ全体の決算で、最終利益78%という非常に厳しい数字が出ていました。そもそも予想されていた純利益290億円から、たった1か月の騒動で98億円にまで引き下げ。フジテレビ単体で見ると、赤字に転落する見通しだといいます。
ものすごいインパクトです。
タレントのスキャンダルが、民放キー局の存亡にまで発展したことにビックリです。
イエロージャーナリズムの記事は慎重に読むべき
というか、そもそもの問題は今回のスキャンダルが「フジテレビの体質」と報道されたことにあります。
曰く「女子アナ上納文化」。
週刊文春は、2月6日発売号で、A氏が接待に女性アナウンサーを連れ出していた証拠だというLINEの画面を公開しています。
フジテレビ女性アナ接待 証拠LINEを公開する《X子さんを追い詰めた上納文化の深層》
「仕事につながるからさ」。こう言ってX子さんを度々接待の場に連れ出していたフジ編成幹部A氏。その被害者は彼女だけではない。入手したLINEには、中居のために女性アナ集めを指示するA氏の様子が記されていた。
A氏の振る舞いに問題があるとして、それが「フジテレビの体質」と断言するには、性急に過ぎるような気もします。
だって、そんな会社全体で女性を単なる「性の対象」として扱うような組織が、存続し続けることは無理でしょ。
そもそも、週刊文春は「イエロージャーナリズム」の代表格。記事のインパクトを高めるために、扇情的な言葉遣いを常としています。その方が売れるから。
だから「上納文化」なんて断言することをします。
yellow journalism
〈米〉イエロージャーナリズム、扇情的ジャーナリズム◆低俗で扇情的な誇張表現を用いた記事で読者の目を引こうとする形式のジャーナリズム◆【語源】19世紀後半Joseph Pulitzer所有の新聞社New York Worldに掲載された大衆向けカラー漫画の登場人物Yellow Kidが黄色だったことより。同業のNew York Journalと激しく競い合い、お互いにこの形式の記事で発行部数を争った。
テレビ局の傲慢な振る舞い
ただ、フジテレビの人権意識に問題があることも事実。
テレビ局には、本当に傲慢な側面があります。
最近の例としては恋愛リアリティ番組『テラスハウス』にて、出演していた女子プロレスラー木村花氏を自殺に追い込んだ後、遺族の要求に対しても冷淡な対応を続けている事実が挙げられます。
日本テレビのドラマ『セクシー田中さん』の原作者である芦原妃名子(本名・松本律子)氏が自殺に追い詰められたことも記憶に新しい話です。
原作の一番大切な部分を踏みにじられ、脚本の訂正を求めたのに、日テレ側の対応は不誠実。まともな調査結果もそして脚本家・相沢友子氏の心無い発信によって、精神的にかなり追い詰められた結果です。
そもそも創作者は、自身の心を削りながら創作しています。社会のデリケートな部分を切り取った『セクシー田中さん』を踏みにじられることは、耐え難い心痛だったことでしょう。
ここまで重要な問題ではなくても、テレビ局関係者の傲慢が窺える話は、昔から大量にあります。
些細な例としては、僕が出版社で働いている頃、
「ロケ地を探しているのですが、田舎で、電柱が視界に入らないような場所を知りませんか?」と突然の電話。
「え? そんな場所ありませんよ。仮にあったとして、あなたに教えたら、うちの雑誌にメリットあるんですか? 撮影協力でクレジットが出るとか」
「いやぁ、そういうのは何もないです」
「では、さようなら」
なんて感じの不毛な会話は、業界ではよくある話。
ゲーム雑誌の編集部にいる時は、高校生クイズ(おお、日テレ)のスタッフから
「ゲームに関する問題を作ってもらえませんか?」という電話。
聞けば、タダ。雑誌の宣伝もなし。
「オンエアするかどうかも分かりませんので」
だったら、自分で作れという話でしかありません。
ちょっと話が逸れましたが、キャスティング権を握っているプロデューサーなどは、夢を叶えたい無名のタレントなどにとっては大きな権力を持っています。媚を売るマネージャーもいるでしょう。女性タレントだって、その権力者を前に、そうそう嫌な顔はできないでしょう。自然、グレーゾーンも広がるでしょう。
一般の方の中にも、“芸能界は、枕営業がはびこっている” と信じている方が多い。
そんな中、「女子アナ上納文化」が「フジテレビの体質」と報道されてしまえば、そのまま信じて、断罪しようとする人が大量に現れるのも当然と言えば当然のことでしょう。
悪手だった「港社長(当時)による締め出し会見」
いずれにしても、フジテレビはかけられた疑いを早々に払う必要がありました。それなのに、自社もテレビ局なのに、テレビカメラも入れずに、参加メンバーを絞りに絞った密室内で会見を行いました。
この時「少人数の前だから、できる限り詳細に説明した」ということであれば良かったのですが、密室内で記者の質問に答えない。だからまた責められる。
結果、怒涛の勢いでクライアントがCMを引き上げていきました。
そこで、1月27日に再度の記者会見を設定。
今度は誰でも入れる条件で、テレビカメラも回っていました。
終わってみれば、10時間越えの長丁場。
それでも、「フジテレビは疑問の多くに答えられなかった」という扱い。
質問の仕方を知らないプロがいる
でもねぇ、この10時間会見。質問する側の「質」にも大きな問題がありました。
大手メディアの記者たちの質問も、ほとんどが曖昧模糊(あいまいもこ)。
どこかの記者がクライアントのCM引き上げによる損害状況を問いただした時は「おお、確かにそれは重要なポイントだな」と思ったのですが、いい質問だな、と思ったのは実質それぐらい。
見ている限り、ほかに大した質問はありませんでした。(いずれ10時間全部、見れたら見直して確認したいとは思いますが…)
「港社長の退陣が発表されましたが、具体的にはどのような責任をとっての退陣となるでしょうか」っていう感じの質問もあったけど、“フジテレビにかけられた疑惑の解明” に資する質問にはつながらない。
「御社の文化として、そういうことがあったのでしょうか」
なんて漠然と問われても、リスクヘッジを考えれば、何とも答えにくいでしょうよ。
プロならば、もうちょっと具体的に質問を組み立てて欲しいところです。
会見スタートから少し時間が経った頃、急に日枝氏を弾劾する質問?も飛び出しました。
「アメリカの株主から40年もトップに君臨する人物がいるのはおかしいという指摘もありました。日枝氏のことと思われますが、あなた方が全員で、何で日枝氏を解任しないんですか!?」ってな感じの発言でしたね。
正直、会見を見ていた側としては、なぜそこで論理を飛躍させて、日枝氏退陣を求める発言になるのか、まったく意味がわかりませんでした。
日枝氏が実権を握り続けてきたことで「上納文化」が生まれ、定着したという仮説があるのであれば、そのストーリーを立証するために質問を組み立てればいい。
社内の実際を知らない外部の記者が、一足飛びに「日枝氏をクビにしろ」と弾劾するのは、ちょっと違う。いや、かなり違う。
(別に、僕は日枝氏を擁護しているわけではありません)
「X」でも話題になった、望月氏やフリーの方々の質問は、基本的に「一方的な弾劾」と呼べる内容でした。
「一致、不一致」を繰り返し問うのは良いとしても、もうちょっと質問の仕方を考えた方がいい。
「フジテレビが悪い」という前提で一方的に主義主張を述べて、それに沿った回答を求めても、そのまんまの答えが返ってくるわけがないんですよ。
先ほども書きましたが、週刊文春はイエロージャーナリズムの代表格。
書かれている内容が、どこまで正確なのか、確認するのがジャーナリストの務めでもあります。
それなのに、週刊文春の記事を大前提にして、一方的に糾弾するのでは、ジャーナリストとして片手落ちです。
「上納文化」なんてものが本当にあるのか。
実態は多分、複雑なグラデーションの中に織り込まれた、数々のグレーな案件が絡み合っているのでしょう。
そこに、100%の悪意はないはずです。
いずれにしても、その実態については第三者委員会のレポートを待つほかありません。
求める事実を引き出す質問の仕方。
それを日本の記者は身につけていないのかな、というちょうど良い見本として、あの「質問があるだけ、対応し続けた結果10時間に及んだ会見」は意義があったと思います。
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今まで書く機会がなかった、いい話、すごい話、ダメな話から、仕事と人生のアレコレを書かせていただきます。
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