①特別高圧受変電設備における受電方式の選び方と構成
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はじめに
特別高圧受変電設備は、工場や大型施設、公共インフラなどの重要な場所で電力を安定供給するための設備です。これらの設備における「受電方式」の選択は、設備の運用コスト、信頼性、拡張性に直接的な影響を与える非常に重要な要素です。受電方式が正しく選定されていないと、停電による生産ラインの停止やビジネスにおける損失、さらには重大な事故のリスクも高まります。
各電力会社における契約電力と供給標準電圧の関係
受電方式を選定する際、契約電力と供給標準電圧は重要な指標となります。電力会社ごとに供給可能な標準電圧と契約電力には一定の規定があり、これに基づいて受電方式が決定されます。次の表に、各電力会社の契約電力と供給標準電圧の関係を示します。
この表はあくまで標準的な供給電圧と契約電力の関係を示しており、具体的な契約内容は地域や施設によって異なる場合がります。したがって、受電方式の選定に際しては、電力会社との協議を通じて、適切な供給電圧を決定することが重要です。
1回線受電方式
1回線受電方式は、最も基本的かつ経済的な受電方式です。この方式は、電力会社から1本の電力回線を用いて電力を供給し、施設全体がその1つの回線に依存する形となります。設備規模が小さく、電力供給の信頼性よりもコストを優先したい場合に多く採用されます。
メリット
1回線受電方式の最大の利点は、シンプルな構造と低コストである点です。電力会社から1本の回線のみで電力を受けるため、必要な機器の数も最小限に抑えられます。また、設置や運用のコストも低く、導入が比較的容易で、設置スペースも少なくて済むのが特徴です。初期投資を抑えつつ、必要最低限の電力供給を確保したい場合に最適です。
また、1回線受電方式は管理が比較的簡単で、保守点検の際にも複雑な操作が不要です。そのため、小規模な施設や電力需要がそれほど大きくない施設では、コスト重視の設備構成を実現することができます。
デメリット
最大のデメリットは、供給信頼性の低さです。1本の回線しかないため、回線に障害が発生した場合、全ての電力供給が停止してしまいます。例えば、送電線が自然災害や事故によって損傷した場合、その回復が完了するまでの間、施設は停電状態が続きます。特に、停電によって業務が大幅に影響を受ける施設では、こうしたリスクは許容しがたいものです。
また、定期点検や計画停電の際には、設備全体を停止させる必要があります。このため、業務の中断や計画停電による影響を最小限に抑えるためには、別途発電装置や蓄電設備などのバックアップを検討する必要が出てきます。
適用されるケース
1回線受電方式は、コストを重視し、電力供給の信頼性がそれほど厳しく問われない施設に適しています。例えば、中小規模の工場や、停電による業務への影響が少ないオフィスビルなどで使用されます。また、教育機関や地域の公共施設など、電力消費がそこまで大きくなく、停電時のリスクが低い場所でも採用されることが多いです。基本的に、供給信頼性よりもコスト削減を重視する施設に向いています。
常用・予備受電方式
常用・予備受電方式は、1回線受電方式に比べ、信頼性を重視した方式です。2本の電力回線を利用し、通常は1本の回線(常用回線)で電力を供給し、もう1本は予備回線として待機します。万が一、常用回線が何らかの理由で停電した場合、予備回線に自動的に切り替えて電力供給を継続することができます。
メリット
常用・予備受電方式の最大の特徴は、供給信頼性の向上です。2本の回線が用意されているため、1本の回線に障害が発生しても、もう1本の回線が即座にバックアップとして稼働し、電力供給を維持できます。例えば、停電が生産ラインの停止や業務の中断に直結するような施設では、このような冗長性を持ったシステムが非常に重要です。
また、この方式では、電力の供給が一瞬途切れるだけでなく、即座に予備回線がカバーするため、施設内の重要な負荷(機器や設備)が停止することなく稼働を続けることが可能です。このため、病院やデータセンターのように、電力供給が絶対に途切れてはならない施設において、信頼性を最優先する場合に非常に有効です。
デメリット
一方で、常用・予備受電方式は、コスト面では1回線受電方式に比べて大きな負担がかかります。2本の回線を確保するため、必要な機器や配線も増え、その分設置スペースも大きくなります。また、予備回線が常に待機している状態であっても、設置費用やメンテナンス費用はかかるため、初期投資および維持管理コストが高くなります。
また、自動切り替えシステムや冗長構成のため、複雑な制御システムが必要となり、技術的な専門知識も求められます。さらに、導入や設計に時間がかかり、工期が延びる可能性もあります。
適用されるケース
常用・予備受電方式は、停電による影響を最小限に抑えたい、電力供給の安定性が非常に重要な施設に適用されます。具体的には、病院、データセンター、大規模な製造工場など、電力供給が停止すると大きなリスクを伴う施設での採用が一般的です。また、金融機関や重要な通信施設などでも、常に安定した電力供給が求められるため、この方式が利用されることが多いです。
ループ受電方式
ループ受電方式は、2本の電力回線をループ状に接続し、どちらの回線からも電力を供給できるように構成する方式です。この方式は、送電の途中で障害が発生しても、別の経路から電力を供給できるため、非常に高い供給信頼性を誇ります。特に、大都市部の負荷過密地域や、高い信頼性を必要とする施設において採用されています。
メリット
ループ受電方式の最大の利点は、その冗長性にあります。2本の回線がループ状に接続されているため、片方の回線に障害が発生しても、もう一方の回線から電力が供給され続けます。これにより、停電リスクを最小限に抑えつつ、安定した電力供給を維持することができます。さらに、送電経路を柔軟に変更できるため、障害の影響範囲を最小化することが可能です。
また、この方式では、どの回線からも電力を供給できるため、負荷の分散が容易であり、電力の効率的な供給が可能です。特に、送電網が複雑で、負荷が変動しやすい施設では、ループ受電方式が最適です。
デメリット
ループ受電方式は、その高い信頼性と冗長性を提供する一方で、設備コストが非常に高くなります。2本の回線をループ状に接続するため、必要な機器や設備が増え、設計や施工も複雑化します。また、送電網の構築には、電力会社との綿密な協議が必要であり、導入までの時間がかかる場合もあります。
さらに、保守や運用も複雑であり、定期的なメンテナンスが欠かせません。これに伴う維持コストも高くなるため、導入する際には設備全体のコストと供給信頼性のバランスを慎重に考慮する必要があります。
適用されるケース
ループ受電方式は、信頼性が最も重視される大都市の商業施設やオフィスビル、大規模な工場やインフラ施設に適しています。特に、電力供給が一瞬でも停止することが許されないような施設では、ループ受電方式が最適です。加えて、負荷が大きく変動する施設や、広範囲にわたる設備を持つ施設でも採用されています。
スポットネットワーク受電方式
スポットネットワーク受電方式は、複数の電力回線をネットワーク状に接続し、相互に補完し合う方式です。この方式は、特に電力供給の安定性が極めて重要な施設に適しており、どの回線に障害が発生しても、他の回線がすぐにバックアップとして稼働するため、停電がほぼ発生しないという特性を持っています。
メリット
スポットネットワーク受電方式の最大のメリットは、無停電での電力供給が実現できることです。複数の回線が相互に補完し合うため、どの回線に障害が発生しても、他の回線が即座にその役割を担い、電力供給が維持されます。このため、電力供給が一瞬でも途切れると重大な問題を引き起こす施設では、この方式が非常に有効です。
さらに、この方式では、負荷のバランスを常に最適化することが可能であり、電力の効率的な供給が実現します。特に、大規模な施設や負荷が大きく変動する施設では、安定した電力供給が必要不可欠なため、スポットネットワーク受電方式が効果を発揮します。
デメリット
しかし、スポットネットワーク受電方式のデメリットは、その導入コストが非常に高いことです。複数の回線を接続し、それぞれが相互に補完し合うため、必要な設備や設計が複雑で、施工にも時間がかかります。また、運用や保守も高度な技術が必要であり、維持管理コストが高くなる点も考慮しなければなりません。適用されるケース
この方式は、特に病院やデータセンター、大規模な商業施設、金融機関など、停電が発生すると非常に大きなリスクを伴う施設に適しています。また、無停電での電力供給が必要な政府機関や公共インフラ施設でも、この方式が採用されることが多いです。
受電方式の選定ポイント
受電方式を選定する際の最も重要なポイントは、契約電力と供給標準電圧の関係です。各電力会社ごとに供給可能な契約電力と標準電圧が決まっており、それによって選べる受電方式が制限される場合があります。次の表に示すように、電力会社の契約電力と供給標準電圧を確認しながら、適切な受電方式を選定してください。
電力供給の信頼性を最優先とする場合には、常用・予備受電方式やループ受電方式、さらにはスポットネットワーク受電方式が最適ですが、これらの方式はコストが高いため、投資額も考慮する必要があります。
一方で、1回線受電方式は、最もコストを抑えた方式ですが、その分信頼性が低いため、停電によるリスクが許容される施設での採用が適しています。また、電力会社との協議が重要であり、供給条件や送電方式をしっかり確認した上で、最適な受電方式を選定することが重要です。さらに、将来の設備拡張や電力需要の変動を考慮して、柔軟な対応が可能な設計にすることも重要な要素です。
まとめ
特別高圧受変電設備における受電方式は、設備の規模や用途に応じて慎重に選定する必要があります。1回線受電方式はコストを重視した施設に適しており、常用・予備受電方式は信頼性を重視する施設に最適です。ループ受電方式やスポットネットワーク受電方式は、信頼性が極めて重要な施設で使用されます。
最適な受電方式を選ぶためには、電力会社との連携や将来的な拡張計画も含めて検討し、バランスの取れた方式を選定することが重要です。
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