見出し画像

業界未経験がデータセンターのファシリティエンジニアに転職する方法

この記事は9割「無料記事」です。

面接に向けた具体的な企業研究、データセンターの調査方法について例を挙げて解説した最後のパートだけ「有料」です。

また転職方法についてはこちらのマガジンでも取り扱っています。

今回、IT業界未経験の状態からデータセンターのファシリティエンジニア(電気主任技術者のポジション)に内定を取得できました。

具体的には第二種電気主任技術者の選任案件です。オファーとしては年収700万程度でした。

データセンターのファシリティエンジニアのポジションは、IT業界に属することから比較的高い給与水準であり、今後もデータセンターが増加する見込みがあるため、電気技術者の転職先として非常に魅力的です。

なお、私は様々な理由を考慮して今回は辞退しましたが、データセンター業界に興味のある方は、ぜひ最後まで読んでみてください!


1. そもそもデータセンターとは

データセンターは、インターネットのサーバーやデータ通信、固定電話や携帯電話の通信装置など、ICT機器を安全かつ安定的に運用するために特化して設計された建物です。日本では、特定非営利活動法人「日本データセンター協会」(以下、JDCC)が、データセンターの設計思想や効率化指標、安全性・性能基準の統一に尽力しています。JDCCは2008年に設立され、日本国内外でデータセンターのあるべき姿を追求してきました。

JDCCによるデータセンターの定義

JDCCのWebサイトによると、データセンターとは「インターネット用のサーバーやデータ通信、固定・携帯電話などの装置を設置・運用することに特化した建物」とされています。この定義から、データセンターは「通信機器やコンピューターなどのICT機器を安全に運用するための特別な建物」であり、一般のオフィスビルとは異なる設計思想に基づいていることがわかります。

データセンターの主な特徴

  • 通信回線:通信事業者の光ファイバーなどの通信回線を大量に利用でき、通常のオフィスビルと比べて非常に多くの通信回線が引き込まれています。複数の通信事業者の回線が利用可能で、冗長性が確保されています。

  • 構造:災害時にもサービスの提供に支障が出ないよう、建物自体は耐震構造で設計されています。

  • 電力:電力供給が途絶えた場合に備え、大容量の蓄電池や自家発電装置が設置されており、無停電での稼働が可能です。

  • 消火設備:火災が発生した場合も、内部機器を極力傷めないよう二酸化炭素やフロンガスによる消火設備が採用されており、一般的なスプリンクラーとは異なる仕組みが採用されています。

敷地や建物の規模

データセンターは、その敷地や建物の規模が定義されているわけではなく、巨大な建物から小規模な建物、建物の一部であっても、必要な要件を満たせばデータセンターとみなされます。

要するに、データセンターはコンピューターや通信機器の安全な運用を最優先に設計され、特別な通信、電力、消火、耐震構造を備えた施設といえます。

2. データセンターでの設備管理ポジションのメリット

データセンターの設備管理のポジションは「ファシリティエンジニア」とも呼ばれ、電力供給や冷却システムなどのインフラ設備全般の保守・管理を担います。このポジションには、以下のようなメリットがあります。

IT業界は年収が高い傾向にある

データセンターが属するIT業界は、他の多くの業界と比較して年収が高い傾向があります。データセンターは社会インフラとして重要な役割を担い、24時間365日体制で稼働し続けるため、高度な信頼性や専門性が求められる分、待遇も比較的良好です。

こうした業界の特性から、ファシリティエンジニアは安定した収入と高い給与水準の両方を期待できます。

業種別平均給与(データセンターの含まれる情報通信業は給与が高め)

第二種電気主任技術者(電験二種)資格が活かせる場面が多い

電験二種をはじめとする電気主任技術者資格はデータセンター内での多様な業務に活かせます。

特に、データセンターは特別高圧受変電設備や非常用発電装置、UPS(無停電電源装置)など電気系の設備が多く、電気主任技術者資格があることで保守管理や緊急対応でのスキルを十分に発揮できるため、業務範囲の拡大やキャリアの幅も広がります。

ちなみにデータセンターの設備管理は、大きく分けて「オーナー側」「請負側」に分かれます。オーナー側はデータセンターの所有企業であり、自社のビジネスや運用方針に沿って設備を管理しています。一方、請負側はオーナー企業から委託されて設備の管理や保守を行う企業で、業務範囲や契約条件に応じてオーナーの求める基準に沿った管理を担当します。

単に設備管理の仕事がしたい場合はオーナー側でも請負側でも良いですが、通常請負側が電気主任技術者を用意するため電気主任技術者の選任を狙う場合、請負側の企業を狙って転職活動を行うことが必要です。

今後の需要増加が見込まれる

AIや自動運転、IoTといった技術の普及により、データの処理・保存の需要が急増しているため、データセンターの建設が国内外で活発化しています。日本国内でもデータセンターの需要は増加しており、これまで首都圏に集中していたデータセンターは、災害リスク分散や低遅延通信の実現を目的に地方へも展開が進んでいます。経済産業省の報告によれば、今後も九州、東北、北海道などへ建設が拡大する見込みです。

このように、データセンターのファシリティエンジニアは、IT業界での安定した収入を得ながら、資格を活かして働けるチャンスが多い職種です。さらに、今後も増加するデータセンターの需要により、将来性のあるキャリアとしても魅力的です。

3. 基礎知識①データセンターの信頼性と「ティア」について

データセンターは信頼性が非常に重要となりますが、この信頼性は「ティア(Tier)」と呼ばれる段階評価で表現されるのが一般的です。

この評価は、建物の耐災害性や電力設備の冗長構成などを基に、データセンターの信頼性や可用性のレベルを示します。元々は、アメリカの民間企業「Uptime Institute」が設定したもので、四段階に分類されており、ティアの数字が大きいほど信頼性の高いデータセンターとして評価されます。

ティアごとの信頼性レベル

  • ティア 1:基本的な信頼性を持つデータセンターで、一般的なオフィスビルと同等の安全性が確保されています。短時間の停電時に備えたUPS(無停電電源装置)は備えていますが、長時間の停電や設備トラブルには対応できません。想定される稼働率は約99.67%です。

  • ティア 2:ティア1に比べて、より長時間の停電に対応できる発電装置を備え、冗長性のある電気・空調設備が導入されています。計画的なダウンタイムを許容しつつも、安定稼働を目指しています。想定稼働率は約99.75%です。

  • ティア 3:国際ビジネス向けに構築され、重要な設備に冗長性があるため、同時保守が可能です。通常は二重化された電力供給経路や空調設備を持ち、サービス継続性が高まっています。想定稼働率は99.98%で、高い可用性を維持します。

  • ティア 4:最も高い信頼性を持ち、データセンターとして最高水準の冗長構成と耐災害性を持つ設計です。二重の電力経路、空調設備、非常用発電機を備え、自然災害にも対応できるため、無停止運用が可能です。想定稼働率は99.99%以上で、24時間体制の保守スタッフが常駐しています。

日本独自のティア評価

日本国内では、独自のティア評価基準も導入されています。2000年代初頭、データセンターが普及し始めた頃は、国内での統一した信頼性基準がなかったため、データセンター事業者はアメリカのUptime Instituteのティア基準を参考にしていました。

しかし、日本独自の地震リスクや安全基準を反映するため、日本データセンター協会(JDCC)が国内仕様に合わせたティア基準を策定しました。この基準は、建物の耐震性や耐火性、冗長性など日本特有の条件を考慮した評価方法となっています。

可用性と冗長性

ティアの評価で重要となる要素には、データセンターの可用性(稼働率)と冗長性があります。

可用性は「いつでもデータセンターを利用できる状態」を示す指標で、ティアレベルが上がるほど可用性が高まります。

また、冗長性(N+1や2N)は、電源や空調など主要な設備に予備の機器を設置することで可用性を向上させる方法です。冗長性が確保されることで、機器故障やメンテナンス時にもサービスを継続することが可能です。

ティア基準はデータセンターの信頼性を示す指標として、国内外で一般的に使用されており、利用者がデータセンターを選定する際の重要な判断基準となっています。

4. 基礎知識②データセンターの設備構成

データセンターでは、ICT機器の安定運用と保守を支えるために多くの専用設備が整備されています。ここでは、重要な電気設備、空調設備、そしてICT設備について、各機器ごとに解説します。

電気設備

データセンターの電気設備は、ICT機器への安定した電力供給を確保するために多くの機器で構成されています。データ損失やダウンタイムのリスクを最小限に抑えるため、複数の電源系統や冗長化構成が一般的です。

  • UPS(無停電電源装置)
    UPSは停電や瞬断に備え、データセンター内のICT機器に電力を一時的に供給する装置です。バッテリーを備えたUPSは、停電時に非常用発電機が稼働するまでの数分から10分程度、電力を供給できるよう設計されています。また、整流機能によって電源の電圧変動やノイズを除去し、安定した電力を提供する役割も担っています。多くのデータセンターでは、UPS自体も冗長化して稼働させています。

  • 非常用発電機
    停電時における電力のバックアップとして、データセンターには非常用発電機が設置されています。ディーゼルエンジンやガスタービンエンジンが一般的で、燃料は24〜48時間稼働できる量が備蓄されています。非常用発電機の冗長化も行い、故障やメンテナンス時でも電力供給が途切れないよう対策が施されています。

  • 二重化された電源供給
    データセンターのICT機器は、停電リスクを避けるために2系統の電源から電力を供給されます。各ラックの背面には、別々の電源系統のコンセントバーが設置され、サーバーの電源ユニット2基がそれぞれ異なる系統に接続されています。これにより、一方の系統でトラブルが発生しても、もう一方から電力が供給されるため、安定した運用が可能です。

空調設備

データセンター内のICT機器は高発熱なため、これを冷却する空調設備も重要です。高い熱負荷に対応するため、多くのデータセンターでは冷却効率を最大限に引き出す仕組みが取り入れられています。

  • 冷却装置(空冷式および水冷式)
    データセンターで一般的に使用される冷却装置には、空冷式と水冷式があります。空冷式は、室内機と室外機の一対構成で、冷風を直接サーバールーム内に送風する方式です。一方、大規模なデータセンターでは水冷式が採用され、冷凍機を使って冷却水を循環させ、冷風を送り出します。水冷式は効率が良いため、大規模施設に向いています。

  • アイルコンテインメントシステム
    データセンターの冷却効率を高めるため、アイルコンテインメントシステムが導入されています。コールドアイルコンテインメントシステム(CACS)は冷気を封じ込める方式、ホットアイルコンテインメントシステム(HACS)は暖気を封じ込める方式で、それぞれ冷気と暖気を分離し、空調の効率を最適化します。これにより、ICT機器が放出する熱を効果的に取り除くことができ、過剰な消費電力を抑えることが可能です。

  • フリークーリング
    省エネ対策として導入されるフリークーリングは、寒冷地や冬季に外気を冷却に利用する仕組みです。外気を直接取り込むため温度・湿度の管理が必要で、フィルターで粉塵を除去する対策も施されますが、冷凍機を使用しない分、運用コストを削減できます。

ICT設備

ICT機器はデータセンターの主役であり、サーバー、ストレージ、ネットワーク機器が主要な構成要素です。これらの機器はデータセンターの中核を担い、それぞれが安全に通信し、データを保管・処理するための設計が施されています。

  • サーバー(ラックマウント型サーバー)
    データセンター内のサーバーは、一般的にラックマウント型と呼ばれる形式で設置されます。1ラックに複数台のサーバーが搭載されるため、スペースを効率的に使える設計になっています。サーバーは、発熱に備えて前面から冷気を取り入れ、背面から熱を排出する構造になっており、効果的な空調管理が必要です。

  • ストレージ
    ストレージはデータを長期的に保管する役割を持つ設備で、サーバー同様にラックに搭載されます。データセンターによっては、サーバーの大部分をストレージで占めることもあります。ストレージ間の接続には、専用のネットワーク(SAN)が使用され、大量のファイバーケーブルが必要です。高性能なデータ保管とアクセスが求められるため、冗長構成も標準的に行われます。

  • ネットワーク機器(ネットワークスイッチ、コアスイッチ)
    データセンター内および外部との接続を担うネットワーク機器も、重要なICT設備のひとつです。ネットワークスイッチは、データの高速通信を確保するために階層的に配置されます。その中心には、コアスイッチと呼ばれる最重要スイッチがあり、万一故障してもデータ通信に支障が出ないよう、冗長化されることが一般的です。また、膨大な数のケーブルが接続されるため、整理とエアフローの管理も欠かせません。

これらの電気設備、空調設備、ICT設備の詳細を理解しておくことで、データセンターの運用に必要な知識をアピールできます。面接では、各機器の役割や冗長化の理由を説明できると、データセンター業務への理解度を示すことができるでしょう。

5. 面接までに整理すべき項目

データセンターのポジションに応募する際、設備管理やデータセンター業務に関連した経験をうまくアピールすることで、採用側にとって魅力的な候補者として評価されやすくなります。以下に、特に整理しておくと良いポイントを紹介します。

設備管理の経験について(電気設備・空調設備)

データセンターの設備管理では、電気設備や空調設備に関する知識や経験が重視されます。データセンター経験が少ない場合も、関連した経験を活かしてアピールすることで十分評価されるでしょう。

  • 電気設備
    受変電設備や無停電電源装置(UPS)、非常用発電機の管理経験があれば大きなアピールポイントです。加えて、プラントや工場での電気保全や電気設計の経験も評価されます。例えば、私自身も高圧のガスタービン発電機は扱ったことがありませんでしたが、低圧のディーゼル発電機の設計経験を上手く伝えることで、多少の経験者として扱われました。また、データセンターの電気効率を示す指標である「PUE(Power Usage Effectiveness)」についても理解しておくと良いでしょう。PUEは、データセンターのエネルギー効率を評価するための指標で、データセンター全体の消費電力をICT機器の消費電力で割ることで算出されます。PUEの値が1.0に近いほど効率が高く、無駄なエネルギーが少ないとされます。データセンターの運用効率やコスト削減の観点から重要視される指標であり、業務効率を考える上での基礎知識として役立ちます。

  • 空調設備
    ビルなどの空調設備の管理・設計経験があるとデータセンター空調に通じる経験と評価されやすいですが、工場での冷凍機やチラー、クーリングタワー、パッケージエアコンなどの管理・導入経験でも十分です。採用側もデータセンター経験者が少ないことは認識しているため、類似の経験があるだけでも有利です。

データセンターの設備構成についての理解

データセンター内の設備構成について、先述した項目で触れた内容をさらに掘り下げて理解しておきましょう。電気設備や空調設備に加え、ICT機器の役割に関する理解を整理しておくと、面接でより幅広い知識をアピールできます。

  • 電気設備
    UPSや非常用発電機、特別高圧受変電設備など、データセンターの安定した電力供給を支える設備について、冗長化構成や停電時の対応策も含めて理解しておきましょう。これらの知識は、データセンター特有の高い可用性を維持するために欠かせません。

  • 空調設備
    データセンター特有の空調方式や冷却システムも、前項目で触れた空冷式・水冷式、アイルコンテインメントシステムなどの内容をしっかり掘り下げておきましょう。効率的な冷却の仕組みはデータセンターの熱負荷に対応するため不可欠で、アイルコンテインメントでの冷暖気の管理も重要です。

  • ICT設備
    ICT機器については、ラックマウント型サーバーの内部構成を理解しておくと、採用側から「しっかりと準備している」と評価されるかと思います。また、サーバーの消費電力量と発熱量についても把握しておきましょう。従来のデータセンターでは1ラックあたり2〜6kWを想定していましたが、現在では20〜30kW、時には60kW以上の電力を消費する高密度サーバーが登場しています。このような最新のICT設備について知識を持っていると、データセンターの特性に精通していることが伝わります。


データセンターの求人に応募した理由づくり

他業界からデータセンターの求人に応募すると、「何故データセンターの業務に応募したのか?」という質問が必ず来ます。これに対しては、今後の成長が見込まれるデータセンター業界への理解を示すと、説得力が増します。

  • データセンターの需要拡大への理解
    AIや自動運転技術の普及に伴うデータセンター需要の増加について、経済産業省のレポートや国内外のデータセンター建設に関するニュースを参考にし、日本国内でもデータセンターの需要が増加している現状を説明できるようにしておきましょう。

  • データセンターの分散化傾向
    現在、東京近郊(例:千葉県印西市)に集中しているデータセンターが、九州、東北、北海道など地方に分散化している動きについても理解を深めておくと良いです。業界動向を把握していることをアピールすることで、志望度の高さが伝わります。

6.参考資料

最後にデータセンターの求人に応募する上で役に立つ資料をご紹介します。

①AI時代のビジネスを支える -データセンター読本-

Amazonで販売されている、データセンターに特化した入門書です。この書籍は特にファシリティ面に焦点を当てており、設備管理者やエンジニアが理解しておくべき基礎的な知識が網羅されています。

特に、他業界からデータセンター業界を目指す方にとって、現場の詳細な設備構成や運用についての理解を深めるのに役立つでしょう。ファシリティの管理業務に特化した知識を補完するためにも最適です。

②データセンター業界レポート - 日本政策投資銀行

データセンター業界の現状や成長性、今後の市場動向と課題について詳細にまとめられているレポートです。

特に、業界の成長予測データが充実しており、面接時に「業界の成長を見据えてデータセンターで働きたい」といった志望動機を補強するために有効です。また、投資家向けの解説を含むため、技術に疎い人にも分かりやすい内容で、業界の全体像を把握するのに役立ちます。

③デジタルインフラを巡る現状と課題 - 経済産業省

https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/joho/conference/semicon_digital/0002/03.pdf

経済産業省によるデジタルインフラ(IT業界全般)に関する現状と今後の展望がまとめられた資料です。政府のデータセンター関連政策の方針や支援の方向性についても触れており、「政府がデジタルインフラを強化しようとしており、データセンター業界は今後一層の成長が期待できるため」などの志望動機の裏付けに活用できます。

政府方針を押さえることで、業界全体の将来性や安定性を面接で具体的にアピールする材料にもなります。

これらの資料をもとに業界研究を進めることで、面接での説得力が増し、志望動機の深みが増すでしょう。他業界からの転職を目指す方にとっては、業界の成長性や社会的な意義を押さえることで、スムーズにキャリアの転換をアピールする準備ができます。


以上が無料部分になります。

ここからは実際の求人応募に向けて、未経験者がデータセンターの調査と企業研究のやり方を例を挙げて紹介します。

ここから先は

3,954字 / 4画像

¥ 300

期間限定!Amazon Payで支払うと抽選で
Amazonギフトカード5,000円分が当たる

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?