無駄だが なんだか色っぽい
初めて「やあ」と顔を見せるやいなや、ひたすら抜かれ続け、時にはシェイバーで一気に刈り取られる。人によっちゃレーザーで息の根を止める人もいるみたい。こんなに無駄だ無駄だと忌み嫌われて、それでもめげずに生えてくる、わき毛。本当に無駄なのかしら?
かくいう私も何の疑問も持たずに剃ってた。必要ないものだから、というよりも、あると恥ずかしいものだからって理由で。だってテレビや雑誌や広告で見かける女優さんやモデルさんのわきはつんつるてんのぴっかぴか。こうするのが大人の女性の身だしなみ。伸ばしっぱなしなんてはしたない。って、誰に言われたんだっけ?
いつからわき毛は無駄なものとされたのか調べてみると、1915年頃、アメリカのファッション誌で「夏服を着るならわき毛を処理しよう」という広告が出てからみたい。日本では1960年代頃から、和装から洋装へ変化するに伴ってノースリーブを着始めると、今まで見えることのなかったわき毛が見えるようになったので、エチケットとして手入れするようになったのだそう。
エチケットって、そもそも何だ?というわけでこちらも調べました。「エチケット」とは「特定の相手に不快を与えないように行う礼儀作法のこと」らしいのだけど、特定の誰かに「お前のわき毛、不快」と言われたこと、おまへん。誰かのわき毛を見て「不快だなぁ」と感じたことも、おまへん。あれ?今までの努力って誰に対する「エチケット」だったんだろう。
伸ばしてみようと決心したのは今年の夏の終わり。きっかけは貝印の広告「ムダかどうかは自分で決める」ってやつ。かっこいいじゃん。広告がきっかけでわき毛を処理するようになったのなら、広告がきっかけで再び伸ばすようになってもいいじゃない。女性として生まれたからには絶対にわき毛をなくさなければならないって勝手に思い込んでた。どうしてあっちゃいけないの?誰が作ったルールなの?少なくとも、私が決めたルールじゃない。
てなわけで、野放しにするにあたって周りの理解のありそうな人たちに言って回った。禁煙するときみたいに。「伸ばしてるんです」って言っちゃえば後には引けないし、引きたくなかったから。幸い「いいじゃん」「伸びたら見せて」「私も伸ばそうかなぁ」って言ってくれる人ばかりで、成長を見守ること2ヶ月、立派なわき毛が育ちました。
このまんまでもいいけど、どうせならオシャレにしたいってんで、ドラッグストアで脱色クリームとカラートリートメントを購入。さすがに根性のあるわき毛、脱色クリームで30分放置しても茶色になる程度にしか色が抜けず、負けじともう一度脱色してきれいなブロンドに。その上からピンクのカラートリートメントでカラーリング。鏡の前で腕を思いっきり上げて、自分のピンクのわき毛を見た私。
「かわいい!」
って叫んじゃったよ。なんで今までしなかったんだろう。超かわいいんだけど。
意気揚々と人に見せると「急にどうしたの?」「アーティストっぽい」「ガガさまみたい」などなど案外肯定的(?)な感想をいただいた。でもね、違うんだ。別にアーティストを気取りたいからとか、人と違うことがしたいからとか、そういうことじゃないの。
眉毛も流行りすたりがあるよね。ひと昔前は細眉がイケてたけど、今はナチュラルに生やしつつ整えるのが基本だし。陰毛を剃る人、剃らない人、いるよね。好きな形に整えたり、伸ばしっぱなしの人ももちろんいる。髪の毛だって坊主にするもよし、長く伸ばすのもよし、カラフルにするもよし、ナチュラルもよし。わき毛も同じポジションになればいいのに。あるからって行儀が悪いわけでも、はしたないわけでもない。そこでオシャレを楽しむことだってできるし、私はつんつるてんがいいの!って人はなくせばいい。
ただ、自分の体のことは、自分の意思で決めたい。
それは毛に限った話じゃない。体型のこと。どんな服を着るか。出産するかしないか。整形するかしないか。低容量ピルをのむかのまないか。タトゥーを入れるか入れないか。ネイルをするかしないか。ブラジャーを着けるか着けないか。などなど、自分で決めているようで、社会的な暗黙の了解のもと、一つの選択肢しかないと思わされていることは結構あるよね。あるいは、そこから逸脱すると「普通じゃない」と見なされてしまう。なんで?
その「自分の体のことは自分の意思で決める」ことのひとつの決意表明としてわき毛を伸ばしてみた。余談だけど、わき毛も髪の毛と同じように少しずつ伸びて、いわゆる「プリン状態」になっちゃうので、定期的にブリーチ&カラーが必要。逆に手間がかかる。全然楽じゃない。けど楽しい。私のチャームポイントだ。
結局のところ、無駄なのかそうでないかは私にも分からない。だけど、別にあってもいいや。一度も生やしたことのなかったわき毛、どうなることかとドキドキしていたけど、オシャレでかわいくて、そしてなんだか色っぽくて、私は気に入っている。